炭化水素系洗浄機
炭化水素系洗浄機は、イソパラフィンやノルマルパラフィンなどの炭化水素溶剤を用いて脱脂・精密洗浄を行う密閉型設備である。非極性溶剤の溶解力と低表面張力を活かし、切削油・防錆油・フラックスなど油性汚れへの選択性が高い。密閉・真空プロセスにより溶剤の蒸気を回収・再生しながら、液浸、噴流、液中超音波、蒸気洗浄、真空乾燥を組み合わせる。開放型に比べてVOC排出を抑えやすく、NVR(非揮発残渣)を低減して高い清浄度を実現できるのが特長である。安全面では防爆設計、LEL監視、静電気対策が要となる。
原理と溶剤特性
炭化水素溶剤は非極性であり、油脂・ワックス・炭化水素系添加剤に対し溶解度が高い。KB値はフッ素系や塩素系溶剤より一般に中庸であるが、低表面張力と濡れ拡がりによって微細隙間への浸透性が高く、毛細管内の油を置換しやすい。蒸気洗浄で温度差をつけると、凝縮潜熱により部品表面で溶解・すすぎが同時進行し、続く真空乾燥で溶剤残留を確実に除去できる。水洗工程を持たないためイオン性汚染の搬入は抑えられ、清浄度評価は粒子数、NVR、接触角などで管理する。稼働中の溶剤は連続蒸留・濾過で清澄度を維持し、スラッジはスロップとして抜き管理する。
代表的な炭化水素溶剤
- イソパラフィン:低臭・低毒性グレードが多く、素材適合性が広い。引火点は40–70℃帯が一般的。
- ノルマルパラフィン:溶解力が高く粘度の高い油に有効。揮発がやや早い。
- シクロパラフィン:ゴム・樹脂への膨潤が相対的に小さいグレードがある。
- 低芳香族グレード:洗浄力を補完する微量の芳香族を含みバランスを取る。
装置構成とプロセス
- 密閉チャンバー:真空引き→液浸・噴流→液中超音波→蒸気洗浄→真空乾燥のシーケンスを自動制御する。
- 蒸留・回収系:連続蒸留、凝縮器、オイルセパレータで溶剤を再生し、消費量とVOC排出を抑える。
- 濾過ユニット:5–25μm程度のカートリッジやバッグフィルタで粒子・スラッジを捕集する。
- 安全機構:防爆電装、アース、LELセンサ、ドアインターロック、異常温度・圧力の遮断。
乾燥・仕上げ
真空乾燥に加え、循環加熱、窒素パージ、遠心脱液を併用すると厚膜油や複雑形状でも残渣を低減できる。仕上げの蒸気洗浄を高温側で行うと乾燥性がさらに高まる。
適用分野と素材適合
炭化水素系洗浄機は、切削・研削後の機械部品、ベアリング、油圧・空圧部品、精密プレス品、電子部品のフラックスやモールド離型剤の除去などに広く用いられる。素材は炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金に適合しやすい。一方、エラストマーや一部樹脂(ABS、ポリカーボネートなど)は膨潤の可能性があるため事前評価が必須である。焼結体や微細孔を有する部品は真空サイクルを深く設定し、溶剤の出入を制御する。
品質管理と検査
- 前処理:搬入油の粘度・添加剤情報、汚れ負荷(mg/cm²)を把握する。
- 工程管理:バスライフ、スロップ率、導入熱量、真空度、超音波出力、循環流量を日常点検。
- 清浄度評価:NVR、粒子径分布、白布拭き、接触角、表面分析(FTIR等)を用いて規格化する。
- バリデーション:OQ/PQで代表部品の最悪条件を想定し、再現性を検証する。
生産性と自動化
バスケット自動搬送、レシピ管理、トレーサビリティ(ロット・時刻・レシピ・NVRログ)を実装すると、量産での安定運用と不良解析が容易になる。タクトは浸漬時間、蒸気負荷、乾燥到達点(質量変化)で最適化する。
安全・環境・法規対応
炭化水素溶剤は第4類危険物(多くは第2・第3石油類)に該当し得るため、引火点・発火点、換気、静電気対策を設計に織り込む。密閉・真空方式は作業環境中の濃度低減に有利だが、整備時の開放手順、漏えい検知、吸着材の常備が不可欠である。VOC管理、PRTR該当性、廃液・スロップの適正処理を明確化し、設備的には二重シール、ドレン回収、活性炭・冷却器で外部放散を抑制する。火気作業は隔離し、リスクアセスメントでZone類推を行い保護等級を選定する。
導入・運用コストの考え方
- 初期費:チャンバー容量、蒸留能力、濾過段数、防爆グレード、自動化オプションで決まる。
- ランニング:溶剤補給、フィルタ交換、エネルギー(ヒータ・真空・冷却)、保守点検が主因。
- LCA視点:低温・短時間プロセスで電力原単位を抑え、廃水ゼロにより処理負荷を低減できる。
選定ポイント(実務チェック)
- 汚れの性状(粘度・添加剤・固形分)と目標清浄度(NVR、粒子)
- 材質適合性と膨潤評価、シール材・塗装の耐性
- 一回当たりの装填量とタクト、蒸留回収の余力
- 超音波周波数、噴流速度、真空到達度などの実力値
- LEL監視、インターロック、非常時の惰性化・排気動線
- 据付環境(換気、床耐荷重、防液堤、電源・冷却水)
総じて、炭化水素系洗浄機は油性汚れに強く、密閉・再生プロセスにより高い清浄度と環境性を両立しうる装置である。対象汚れと素材の事前評価、プロセスの数値化、そして安全・法令順守を柱に据え、蒸留・濾過・乾燥を一体最適化することが導入成功の鍵である。