濃硝酸|硝酸の中でも高い濃度をもつ工業薬品

濃硝酸

濃硝酸は、硝酸(HNO3)の中でも高い濃度をもつ液体である。一般的には重量パーセントで約68%以上の硝酸を指し、化学工業や研究所では酸化力・腐食性の強い試薬として頻繁に用いられる。金属の溶解やニトロ化反応の原料など、多様な分野で不可欠な薬品であるが、その危険性も高く、取り扱いには慎重な手順と設備が求められる。温度や光に敏感であり、長期保管によってガスが発生することもあるため、安全性を確保しつつ用途に合わせた適切な使用が重要となっている。

基本的性質

濃硝酸は、通常室温付近で無色透明だが、分解や分解生成物である二酸化窒素(NO2)が混入すると淡黄色〜褐色を帯びることがある。比重は1.4程度と水より重く、揮発性が高いため、蓋を開けて放置すると白煙を発生させながら蒸発してしまう。揮発時には空気中の水分やアンモニアなどと反応して有害なガスやミストを生成するため、換気の良い場所やドラフトチャンバー内でのみ取り扱うことが望ましい。

発煙硝酸との違い

  • 赤発煙硝酸: NO2を多く含み、赤褐色の煙を発生させる。
  • 白発煙硝酸: 水分含有量が非常に低く、高純度のHNO3に近い。

濃硝酸と発煙硝酸はともに高濃度の硝酸であるが、発煙硝酸はより水分が少なく、NO2などの揮発性成分を高濃度に含む。このため発煙硝酸はロケット推進薬や高エネルギー化学反応に用いられ、安全面でさらに厳重な管理が必要となる。

用途と化学反応

濃硝酸は、その酸化力の強さから金属の溶解やニトロ化反応に頻繁に利用される。たとえば、銅や銀など多くの金属を溶解できる一方、鉄やアルミニウムなどは不動態化膜を形成して溶解しにくい場合がある。また、有機合成ではベンゼン環へのニトロ化(ニトロベンゼンの製造)など、多くの医薬品・樹脂・染料の中間体合成に不可欠な試薬である。軍需品の分野でも、爆薬や推進薬の原料として活用されてきた。

危険性と取り扱い注意

  1. 腐食性: 皮膚や粘膜に触れると重度の化学熱傷を引き起こし、金属やプラスチックを腐食させる。
  2. 強い酸化力: 他の可燃性物質と接触すると、激しい発熱・発火が起こるリスクがある。
  3. ガス放出: 分解によりNOxガスを放出するため、密閉容器の圧力上昇や有害ミストが問題となる。

これらの特性ゆえに濃硝酸を扱う際は、耐酸性手袋や保護メガネなどの保護具を着用し、ドラフトチャンバーを使用して換気を徹底する。また、保管容器としては耐蝕性のあるガラスや樹脂容器、または特殊合金製容器が推奨され、金属容器との直接接触は避けるべきである。

製造方法と純度

硝酸の大規模生産はオストワルト法に基づき、アンモニアを高温・触媒下で酸化し、一酸化窒素(NO)を経てNO2を生成し、最終的に水と吸収させる工程で行われる。工業的には約60〜70%の濃度のものが得られ、必要に応じて蒸留や脱水操作で濃硝酸(68%程度)へ精製する。純度の向上が求められる半導体や医薬品分野では、さらに超高純度の硝酸(ppbレベルの不純物管理)を必要とする場合もある。

保管と廃棄

濃硝酸は光や熱に弱く、分解による着色と圧力上昇が起こりやすい。冷暗所のドラフト付きキャビネットなどに密封容器で保管し、一定期間ごとに状態を点検することが推奨される。廃棄する場合は、中和剤(炭酸水素ナトリウムや水酸化ナトリウムなど)を用いてpHを調整しつつ、適切な手順で希釈して排水処理する。大量廃棄や業務使用の場合は、法令に基づく専門処理業者への委託が必要である。

今後の動向と注意点

環境負荷や安全対策への要求が高まる中、濃硝酸の取り扱い規制や使用指針も一段と強化される傾向にある。また、高機能材料や精密化学の領域においては、微量不純物が最終製品の性能を左右するため、超高純度化への需要が拡大しつつある。さらに、代替技術の開発やリサイクルプロセスの充実なども、廃酸処理コストと環境リスクを低減するうえで欠かせない取り組みといえる。