潤滑スプレー|微小隙間に浸透し摩耗と錆を抑制

潤滑スプレー

潤滑スプレーは、潤滑油や添加剤をエアゾール化し、狭隘部や複雑形状へ迅速に塗布できるメンテナンス用潤滑剤である。浸透性と拡散性に優れ、摺動抵抗の低減、摩耗・焼付きの抑制、異音の解消、軽度の防錆に効果を示す。定常運転のための給脂というより、点検・組立・応急処置・初期なじみ出しに有用で、粘度や添加剤の選定により、境界潤滑から混合潤滑域まで狙いを定められる。

目的と機能

主目的は摩擦係数の低減と表面保護である。油膜が形成されることで金属同士の直接接触を避け、摩耗粉の発生を抑える。溶剤基材を併用する製品は一時的に粘度を下げて毛細管現象でクリアランスへ浸透し、溶剤揮発後に基油と添加剤が薄膜を残す。これによりヒンジ、ワイヤ、微小ベアリング、ねじ部などの摺動性を改善する。

成分と種類

基油は鉱物油、PAOなどの合成油、エステル系などが用いられ、粘度指数や酸化安定性で使い分ける。添加剤は極圧剤(例: ZDDP)、固体潤滑剤(PTFE、MoS2、石墨)や腐食抑制剤、消泡剤などで、用途に応じて配合が異なる。ドライタイプは溶剤と固体潤滑剤を主とし、粉体膜で粉塵付着を抑えたい場面に適す。シリコーン系はゴム・樹脂適合性や耐水性に優れるが、塗装工程でははじきを誘発するため避ける。

食品機械用グレード

食品近傍では無毒性を重視した配合が選択される。規格や適合表示(例: NSF H1相当)を確認し、異物混入リスクを低減する管理が必要である。

代表的な用途

  • 機械要素:ヒンジ、スライドレール、ケーブル、軽荷重の小径ベアリング、カム・リンクの当たり調整
  • 組立・保全:固着ねじの事前処置、微小クリアランス部の初期なじみ、稼働中の異音診断用の仮塗布
  • 防錆:湿潤環境での短期的なフラッシュラスト抑制(長期防錆は専用品を用いる)
  • 電気接点:接点専用の低残渣・低抵抗タイプに限って使用(一般品は絶縁・汚染の恐れ)

選定の観点

  • 粘度:低粘度は浸透・低抵抗に有利だが保持性は低い。高粘度は耐荷重・耐振動性に寄与。
  • 添加剤:EP・AW・固体潤滑剤の有無と割合。低速・高荷重・境界潤滑域ではMoS2やPTFEが有効。
  • 耐環境:温度、湿度、水・薬品曝露、紫外線、粉塵の有無。
  • 材料適合性:ゴム・樹脂(PC、ABS、POM、EPDMなど)に対する膨潤・クラックの可能性。
  • 衛生・臭気:溶剤臭、VOC含有、残渣、ミストの拡散性。

使用手順とコツ

まず対象を脱脂・清掃し、既存の堆積物を除去する。ストロー付きノズルで局所狙いを行い、15〜25cm程度から薄く複数回に分けて噴射する。浸透タイプは揮発待ち時間を取り、余剰分はウエスで拭き取る。回転部は停止状態で塗布し、手巻きでなじませた後に試運転する。逆さ噴射可否や噴射圧のクセは製品仕様を確認する。

注意事項と安全衛生

多くは可燃性溶剤と噴射ガスを含むため、火気・高温体・火花源を避ける。密閉空間では換気を行い、ミスト吸入・皮膚感作を避けるため保護具を着用する。塗装前工程や酸素機器ではシリコーンや油残渣が重大欠陥を生むため使用を禁止する。GHS表示(JIS Z 7253準拠)を確認し、SDSに従って取り扱う。

評価指標と規格

摩擦・耐摩耗は4球試験(ASTM D4172)、ピンオンディスク、SRV(DIN 51834)などで評価される。防錆性は塩水噴霧(ISO 9227やJIS相当)での赤錆発生時間や外観で比較する。潤滑油の一般的分類はISO 6743が参考になり、粘度は動粘度と粘度指数で把握する。実務では騒音低減量、摺動トルクの変化、応急復旧率などの指標も有効である。

よくある誤解とトラブル対応

  • 「潤滑なら何でも可」:高速・高荷重・高温の軸受ではグリースや循環給油が本来解である。
  • 「浸透剤=防錆長期可」:薄膜は耐候性が低く、屋外や飛沫環境では短期間に失効する。
  • 「樹脂へ万能」:溶剤でクラックの危険がある。目立たない箇所で適合試験を行う。
  • 「異音が消えた=治った」:潤滑で症状が隠れただけの摩耗・ガタの可能性がある。原因究明を並行する。

代替・補完手段

長期潤滑や封入性が要る箇所にはグリース、耐熱・耐荷重が要求される軸受には給脂・給油システムを用いる。粉塵環境や低温でのスタート停止を繰り返す環境ではドライ被膜や固体潤滑コーティングが適する。ねじ締結の初期なじみや固着対策には耐焼付き剤を、切削・ねじ立て時には専用のタッピング剤を選定する。ねじの基礎知識はボルトの項も参照すると理解が進む。

保管・廃棄と法規

缶体は直射日光と高温を避け、40℃以下の乾燥環境で保管する。長期保管で噴射不良や相分離が起きることがあり、試噴で状態を確認する。残缶の廃棄は地域の指導とSDSに従い、内容物・ガスを使い切ってから金属缶として分別する。事業所では保安規程、危険物倉庫、VOC管理、排水基準の順守を徹底する。

現場導入の実務ポイント

設備台帳に使用箇所・製品名・塗布周期・量を記録し、潤滑と清掃の切り分けをする。可燃性・シリコーンの有無・樹脂適合など、工程別に使用可否マトリクスを整備することで品質トラブルを抑制できる。