漏れインダクタンス|磁束漏れが効率や過渡特性を左右

漏れインダクタンス

漏れインダクタンスは、巻線に流れる電流が作る磁束のうち、相手巻線と連結しない「漏れ磁束」に起因する有効インダクタンス成分である。理想的なトランスやコイルでは全磁束が相互結合すると仮定するが、実機では巻線配置、層間距離、コア形状、エアギャップ、周波数依存の近接効果などにより必ず漏れが生じる。漏れインダクタンスは直列に現れ、電圧変動(レギュレーション)、過渡応答、スイッチング損失やサージ電圧の発生に影響するため、電力変換・高周波電源設計では重要な設計指標となる。

定義と物理的意味

漏れインダクタンスは、巻線の自己インダクタンスから相互インダクタンス成分を除いた残差として理解できる。物理的には、電流に比例するが相手巻線で誘導起電力を生まない磁束に対応し、回路論では巻線に直列接続されたリアクタンスとして表れる。低周波でも高周波でも存在し、周波数上昇に伴い分布定数化や巻線抵抗・寄生容量との相互作用が強まり、過渡的なリンギングやEMIの要因にもなる。

等価回路と数式表現

トランス等価回路では、一次側・二次側それぞれに漏れインダクタンス(しばしば記号LσやLlk)を直列に配置し、必要に応じて片側へ等価反射する。一次側等価ではvσ=Lσ(di/dt)として現れ、短絡インピーダンスZkの主成分を形成する。相互インダクタンスM、自己インダクタンスL1,L2を用いれば、Lσ1=L1−M、Lσ2=L2−Mと表せる(反射を考慮して合成)。設計現場ではパーセントインピーダンスや短絡電流制限値と併せて管理し、動作点近傍の微小信号では直列インダクタとして扱うのが実務的である。

発生要因

  • 巻線幾何:層間距離や軸方向ずれが大きいほど漏れインダクタンスが増える。インタリーブ(交互)巻きは結合を高め漏れを低減する。

  • コア形状・磁路:E/EIコア、トロイダル、PQ等で漏れ磁束の逃げ道が異なり、同一体積でも値が変わる。

  • エアギャップ:ギャップは主として磁気エネルギをコア外にも分布させ、結果として漏れインダクタンスを押し上げやすい。

  • 周波数・スキン/近接効果:高周波では巻線有効断面の偏りと電流分布の不均一が磁束分布を歪ませ、漏れが増える。

  • シールド・構造物:シールド板や実装金属体は渦電流反作用により結合係数に影響を与える。

電源・トランス設計への影響

漏れインダクタンスは負荷変動時の端子電圧降下を増やし、短絡電流を抑制する一方で、スイッチングの立上がり/立下りにおけるエネルギE=(1/2)LσI2がスナバで熱となる。フライバック等ではオーバーシュート電圧やEMIの主要因になり、LLC等の共振形では逆に所要の直列Lとして設計的に活用される。

低減と最適化、意図的活用

  • 低減策:インタリーブ巻き、レイヤ間の近接、バイフィラ巻き、適切な層間絶縁厚さの最適化、トロイダル採用、巻線幅/高さ比の見直し。

  • 実装策:スイッチ近接配置、ループ面積最小化、スナバ(RC/RCD)、クランプ、アクティブクランプで漏れインダクタンス由来のサージを処理。

  • 意図的活用:安定化用の直列リアクトル、溶接機や放電ランプ点灯回路、共振コンバータで所定のLとして設計に取り込む。

測定方法と評価指標

  • 短絡法:二次を短絡し一次端子のインダクタンスをLCRメータで測定する。相互結合磁束が打ち消され、一次側に見える漏れインダクタンスが得られる(必要に応じて反射換算)。

  • インピーダンス解析:周波数掃引で|Z(jω)|を取得し、低周波域の直列LからLσを推定。並行してESRや寄生容量Cと併せ、共振点・リンギングを評価する。

  • ステップ応答:矩形電流を印加しdi/dtと端子電圧からLσ≈Δv/Δ(di/dt)を見積もる。波形の立上がり直後を用いる。

等価直列抵抗(ESR)との違い

ESRは損失(熱)を生む抵抗性で、位相が電流と同相であるのに対し、漏れインダクタンスはエネルギを磁界に蓄え、位相が90°進むリアクタンスである。設計では両者を独立パラメータとして同時最適化する。

SI単位・表記と設計目標

漏れインダクタンスの単位はH(ヘンリー)で、表記はLσまたはLlkが通例である。トランスではパーセント短絡インピーダンス(%Z)で規定されることも多く、電圧レギュレーション、起動突入、短絡電流のバランスから目標値を決める。

よくある誤解と注意点

ギャップを設けると必ずしも望ましい方向に働くとは限らない。ギャップは磁気飽和マージンを稼ぐ一方で漏れインダクタンスと散逸を増やし、過渡サージやEMIを悪化させる場合がある。設計では巻線配置・層間の最適化と、必要に応じたスナバ・クランプ、共振条件の整合を併用し、実測に基づき反復最適化することが重要である。