減衰係数|振動の減衰を定量評価する尺度

減衰係数

機械や構造物が振動するとき、速度に比例する抵抗として働きエネルギーを散逸させる量を減衰係数という。粘性ダンパにおける係数を通常c[N·s/m]で表し、無次元の減衰比ζや損失係数η、Q factorなどと併用して系の減衰特性を定量化する。設計では固有振動数付近の応答低減、過渡応答のオーバシュート抑制、共振ピークの制御に直結する中心的な指標である。

定義と記号

1自由度系の運動方程式はm\ddot{x}+c\dot{x}+kx=0である。ここでcが粘性減衰係数、mは質量、kはばね定数である。臨界減衰c_c=2√(km)とすると減衰比ζ=c/c_cで表され、ζ=1で臨界、ζ<1で不足、ζ>1で過減衰となる。構造減衰では損失係数η≈2ζが用いられることが多い。

物理的意味

減衰係数は1周期あたりに失われる機械エネルギー量を規定する。軽減衰(ζ≪1)ではQ=1/(2ζ)で、Qが大きいほど共振が鋭い。実体としては粘性流体のせん断、材料の内部摩擦、接触・すべり、空力抵抗などが熱に変換される現象を集約した等価パラメータである。

単位と次元

平動系のcの単位はN·s/mで次元はM T^-1である。回転系ならN·m·s/radを用いる。ζ, η, Qは無次元量であり、振動計測や制御設計の比較・目標設定に適する。一方cは実装部品選定やモデル同定に直接使える物理量である。

主な種類

  • 粘性減衰: c一定とみなす線形モデルで解析容易
  • クーロン摩擦: 速度に依らず一定の摩擦力で等間隔減衰
  • 構造減衰: 位相遅れ起源でη一定近似が有効
  • 流体・空力減衰: 速度の1乗/2乗依存で周波数依存が強い

代表的な関係式

固有角振動数ω_n=√(k/m)。減衰比ζ=c/(2√(km))。自由減衰の対数減衰率δ=(1/n)ln(x_0/x_n)で、ζ≈δ/√(4π^2+δ^2)≃δ/(2π)(ζ≪1)。周波数応答の半値幅法ではζ=(f_2−f_1)/(2f_n)、Q=f_n/(f_2−f_1)。損失係数はη≈2ζで相互換算できる。

測定法

  • 自由減衰: ピーク包絡の比からδ算出しζへ換算
  • 半値幅: FRFの共振ピークでf_1,f_2を測りζを得る
  • 同定: インパルス/掃引試験と最小二乗でc, k, m推定

設計への影響

減衰係数が大きいほど共振振幅は低下し、過渡応答のオーバシュートM_p=exp(-ζπ/√(1-ζ^2))が減る。一方、応答は鈍り、発熱・摩耗・温度依存が増える。振動絶縁ではζを上げすぎると遮断域の伝達率が悪化するため、目標帯域に応じた折衷が必要である。

数値例

m=1 kg, k=100 N/m, c=10 N·s/mならω_n=√(100/1)=10 rad/s、c_c=2√(100)=20でζ=0.5。M_p≈exp(-0.5π/√(1-0.25))≃0.163、整定時間の近似T_s≈4/(ζω_n)=0.8 sとなる。これはダンパ追加で共振低減と整定改善を両立した典型例である。

温度・振幅依存性

実機の減衰係数は非線形で、振幅や温度、プリロードで変化する。クーロン摩擦は小振幅で等価cが大きく見え、粘弾性体は低温・低周波でηが増す。よって公称値だけでなく試験条件を明示した同定が不可欠である。

モデル化の注意

粘性モデル(c)は時間領域解析に適し、構造減衰(η)は周波数領域の材料表現に便利である。Kelvin-VoigtやMaxwellなど要素モデルで表し、結合・境界の局所減衰を等価化する。有限要素では比例減衰(c=αM+βK)の仮定が実務で広く使われる。

実務上の設計指針

  1. 支配モードのf_nと形状を特定し目標ζを決める
  2. 粘弾性層, ダンパ, 摩擦接合で減衰を付与
  3. 質量・剛性変更でf_nを帯域外へ逃がす
  4. 試作→実験(半値幅/自由減衰)→同定→再設計を回す

関連用語と換算

等価粘性減衰係数cと減衰比ζ, 損失係数η, Qは相互換算できる。軽減衰の近似ではη≈2ζ、Q≈1/(2ζ)、共振倍率≈1/(2ζ)。表記ゆれに注意し、回転系は単位をN·m·s/radに、並進系はN·s/mに統一して扱うと誤差が減る。