板の振動
板の振動とは、薄板が外力や初期変位により時間的にたわみを繰り返す現象である。梁よりも自由度が高く、面内方向に連成した二次元の曲げ挙動を示す。解析では板厚が薄い場合にKirchhoff–Love理論、せん断変形や回転慣性の影響が無視できない中厚板にはMindlin–Reissner理論を用いる。設計では固有振動数の確保、共振回避、放射音低減、制振による応答抑制が主要な論点である。
基礎概念と曲げ剛性
等方一様な薄板の曲げ剛性はD=E h^3/{12(1−ν^2)}で表される(E:ヤング率、ν:ポアソン比、h:板厚)。たわみw(x,y,t)の支配方程式は、粘性減衰cを仮定するとD∇^4w+ρh ẅ+c ẇ=q(x,y,t)となる(ρ:密度、q:面外荷重)。∇^4は双ラプラシアンで、二方向の曲げ連成が振動特性を規定する。無次元化や正規座標化により、モードごとに独立な1自由度系へ分解でき、設計上の見通しが得られる。
Mindlin–Reissner理論と厚み効果
中厚板・厚板では横せん断変形と回転慣性が無視できず、Kirchhoff仮定(法線保持)は成立しにくい。Mindlin–Reissner理論では回転場が未知量に加わり、低次モードの固有振動数が低下しやすい。薄板化に伴い高周波側ではせん断ロッキングの数値誤差に注意が必要で、要素選択や削減積分などFEMの実装上の配慮が求められる。
境界条件とモード形
境界は固定(C)、単純支持(S)、自由(F)が基本で、矩形板では辺の組合せにより固有値とモード形が大きく変わる。一般にCは剛拘束で周波数が高く、Sは回転自由で中庸、Fを含むと低次で局所的な大変形が生じやすい。正方板のSSSS条件ではw_{mn}=sin(mπx/a)sin(nπy/b)が代表モードで、周波数はm,nに依存して増加する。長辺・短辺比(アスペクト比)やνの違いもモードの結合度合いに影響する。
代表的な近似固有値
例としてSSSS矩形板の無次元固有円振動数はΩ_{mn}∝[(m^2/a^2+n^2/b^2)]で概算できる。CやFが混在する場合はRayleigh–Ritz法やガラーキン法で近似し、必要精度に応じてFEMで検証するのが実務的である。
強制振動と共振回避
調和加振q=q_0e^{iωt}に対し、各モードは等価1自由度の複素剛性で応答し、共振近傍で振幅が増大する。励振源は機械の不釣合い、流体励起、衝撃、基礎加速度など多様である。設計では励振周波数帯と固有周波数の分離(デチューニング)、応答ピークの低減(減衰付与)、入力低減(アイソレーション)を組み合わせる。
減衰と制振技術
材料固有の内部摩擦(ヒステリシス型)や外部粘性(粘性型)が支配的で、実機では接合・支点・表面処理も実効減衰に寄与する。制振では次の手段が用いられる。
- 粘弾性制振(制振鋼板、拘束層制振:CLD)
- 同調質量ダンパ(TMD)や動吸振器の板面・支持への配置
- 構造最適化(ビード・リブ追加、サンドイッチ化)による剛性分布の再設計
- 音響放射低減のためのモビリティ不整合の導入
数値解析とモデリング
産業現場では有限要素法(FEM)が主流で、シェル要素またはMindlin板要素を用いる。メッシュは曲率と応力勾配に応じて局所的に細分化し、拘束境界の表現には多点拘束(MPC)や剛体要素を併用する。減衰はモード比例(η定数)、レイリー減衰(α+βω^2)、直接粘性のいずれかで同定し、実験モード解析で更新(モデルアップデート)することで予測精度を高める。
感度解析と最適化
固有値感度に基づき、板厚、ビード形状、支持位置を変数として目的関数(最小質量で固有周波数下限最大化など)を設定すると、構造設計の初期段階で有効な指針が得られる。グローバル探索と勾配法のハイブリッドが実務的である。
実験・計測と音響放射
加速度ピックアップやレーザドップラー振動計で応答を取得し、インパルスハンマ試験で周波数応答関数(FRF)を求める。実験モード解析(EMA)ではモード形を同定し、数値モデルと照合する。放射音は曲げ波の位相速度が空気音速に一致する臨界周波数付近で増大しやすく、制振やサブストラクチャリングにより音響変換効率を抑える設計が望ましい。
材料・構造と設計指針
金属板は比剛性が高く高周波側に固有が分布しやすい一方、複合材・サンドイッチ板は曲げ剛性に対する面密度が小さく、同じ質量で低応答を実現しやすい。設計では次の手順が有効である。
- 主要励振と許容加速度・変位の仕様化(要求値の定義)
- 簡易式とモード質量推定による予備設計(一次近似)
- FEMでの固有・周波数応答解析、感度評価(詳細設計)
- 試作・EMA・モデルアップデート(検証と改良)
矩形板以外の形状と実務上の注意
円板・環状板・多角形板・開口付き板では固有値問題が変形し、対称性の崩れや境界剛性の不均一によりモードの近接・交差が起こる。開口・スリットは局所柔化と減衰付与を同時にもたらすため、設計意図に沿った配置が要点である。ボルト締結や溶接は境界条件を実効的にC寄りへ変えるが、接合剛性のばらつきが減衰と固有周波数の不確かさを増す。実機では製造公差・締結力ばらつき・温度依存性を含むロバスト設計が欠かせない。
高周波挙動と曲げ波伝播
低次はモード支配、高次では曲げ波としてのエネルギー伝播が有意となる。群速度・位相速度の分散性に起因して、局所対策(ビード、質量付加、CLD)の配置効果は周波数帯に依存する。広帯域の静粛化や応答低減には、多様なメカニズム(剛性再配分+減衰+アイソレーション)の組合せが実効的である。