材料ミルシート|化学成分と機械特性の適合証明

材料ミルシート

材料ミルシートは、製鋼所や圧延・伸銅・管製造などの一次メーカーが出荷時に発行する試験成績証明書であり、材料の化学成分、機械的性質、製造履歴、規格適合性、熱番号(Heat No.)などを記録するトレーサビリティの根幹資料である。英語では“Mill Test Certificate(MTC)”や“Inspection Certificate”と呼ばれ、規格としては“EN 10204(Type 2.1/2.2/3.1/3.2)”が広く参照される。産業機械、配管、圧力容器、建築・橋梁、半導体・化学プラントまで用途は広く、受入検査・品質保証・不具合解析において、材料ミルシートの正確性と改ざん防止は重要である。

記載項目と読み方

  • 製造者情報:メーカー名、工場コード、住所、連絡先。真正性確認の第一歩である。
  • 製品識別:品名、形状(板・棒・管・コイル等)、寸法・公差、数量、表面仕上げ(No.1/2B/BA/HL 等)を記す。
  • 規格と鋼種:適用規格(例:JIS、ASTM、EN、ASME)と記号(例:SUS316L、SS400、S45C、A106 Gr.B)。特記事項や附属書の要求も明記される。
  • ロット・追跡:Heat No.(溶番)、Charge No.、Coil No.、Lot No.。現物刻印・ステンシルと一致させる。
  • 化学成分:C、Si、Mn、P、S、Cr、Ni、Mo、N 等の“Heat analysis”と必要に応じ“Product analysis”。測定法・許容差を確認する。
  • 機械的性質:引張強さ、降伏点/耐力、伸び、硬さ、衝撃値(Charpy)。試験方向(L/T)や標点距離も重要である。
  • 製造履歴:溶解法、圧延条件、熱処理(焼鈍・焼ならし・焼入れ焼戻し)、ピクル・酸洗等の二次加工。
  • 非破壊検査:UT/PT/MT/ET 等の結果、判定基準、合否。配管では拡管・フレア・フラッテン試験の記載もある。
  • 証明レベル:EN 10204 Type 2.2/3.1/3.2。Type 3.1はメーカー検査部の責任署名、3.2は第三者立会いを含む。
  • 署名・日付:発行責任者のサイン、発行番号、発行日、改訂履歴。電子証明では電子署名・QRの真正性確認が要。

規格適合性(EN 10204とJISの位置づけ)

“EN 10204”は証明書の信頼レベルを定義する枠組みであり、実体規格(JISやASTM、EN材規格)で要求する機械的・化学的特性への適合を、この証明レベルで裏づける構造になっている。例えば圧力用途や重要配管ではType 3.1以上が指定されやすく、建築構造用の一般鋼材では2.2が許容される場合もある。JISでは材料ごとに許容値が定義されるため、証明書に記された成分・特性が規格の上限・下限を満たすか、温度・方向・試験法の前提を含め精査する必要がある。

化学成分の読み解き方

化学成分は材質の同定と特性の裏づけに直結する。オーステナイト系ステンレスなら、SUS304でCr 18%、Ni 8%前後、SUS316LでC≦0.03%、Cr約16–18%、Ni約10–14%、Mo約2–3%が一般的な目安である。炭素鋼ではC、Mn、P、Sが主要管理項目で、快削鋼ではSやPbが上限・下限の管理対象となる。Heat analysisとProduct analysisに差がある場合は、規格の許容偏差内か確認し、必要に応じPMI(Positive Material Identification:携帯式XRF等)で現物のスポット同定を行う。

機械的性質と試験結果の評価

引張試験は引張強さ(TS)、降伏点/0.2%耐力(YS/Proof stress)、伸び(El.)を示し、規格値に対して余裕度を評価する。硬さ(HB/HRC/HV)は熱処理状態の妥当性の指標となる。衝撃試験(Charpy V)は低温靭性評価に必須で、試験温度と吸収エネルギーを合わせて読む。管材では拡管・曲げ・フラッテン試験の合否が加工性や健全性の裏づけになる。数値は単位(MPa/%/J)とともに、試験方向(圧延方向:L、直交:T)を考慮して判定する。

トレーサビリティと現物確認手順

  1. 刻印・タグ照合:Heat No.、サイズ、規格記号が現物と一致するか、複数本・複数枚で抜けがないか確認する。
  2. 数量・寸法:実測とミルシートの寸法・公差・数量を突合。表面仕上げや外観等級の指定が反映されているかを見る。
  3. 特性値:TS/YS/El.や硬さが仕様の最低値を満たすか、温度・方向条件の整合をチェックする。
  4. 成分値:要求グレードの化学成分範囲に入るか。疑義があればPMIでスポット確認する。
  5. 非破壊検査:UT/PT/MT等の方法・範囲・基準(受入レベル)と結果の整合性を確認する。
  6. 真正性:発行番号・署名・電子署名・QRコードで製造者サイトの照会可否を確認し、改ざんリスクを抑える。

受入検査の実務ポイント

  • 要求レベル設定:リスクに応じEN 10204 Typeを指定。圧力境界や重要部材は3.1/3.2を原則とする。
  • 規格・仕様の二重参照:材料規格(JIS/ASTM/EN)と設計規格(ASME/建築基準等)の双方に矛盾がないか。
  • ロット管理:Heat No.単位で保管・出庫を管理し、混材・置換を防止。ロット分割時は追跡情報を付与する。
  • 二次加工の記録:熱処理・酸洗・矯正・被覆など後加工があれば別途成績書で紐づける。
  • 電子化:PDF/A保管、メタデータ(Heat No.・規格・鋼種)で検索性を確保。ERP/MESとの連携で照合を自動化する。

偽装・不正の典型兆候

社名ロゴの不鮮明さ、書式の不統一、桁・単位の不整合、規格名の誤記、統計的に不自然な値(全て上限ギリギリ等)、署名者の役職不一致、発行番号体系の破綻、QRが無効といった兆候は要注意である。過去入手分とのテンプレート差分、他ヒートとの比較、メーカー公式ポータル照会で真正性を立証する。疑義が強い場合は第三者試験所で再試験を実施する。

関連証明書との違い

材料ミルシートは製造者が自らの責任で試験・成分を証明する文書であり、出荷適合性を示す“CoC(Certificate of Conformance)”や、化学分析に特化した“CoA(Certificate of Analysis)”とは役割が異なる。Type 3.2は第三者立会いが入り、規制産業や高リスク用途で用いられる。溶接用溶加材や締結部品では、ヒートロット証明を組立単位で維持し、WPS/PQRと整合を取るのが実務である。

英語表記・略語の要点

“MTC”“Heat No.”“Grade”“Spec”“UT/PT/MT”“PMI”“NPS(配管呼び径)”“Proof stress”などの用語が現れる。読み替え時は半角英数での表記揺れと単位系(MPa、J、%)を統一して解釈する。

電子証明とデータ管理

電子ミルシートは電子署名・タイムスタンプ・改訂履歴を保持でき、偽造検知と照合の効率化に有効である。OCRで項目を構造化し、Heat No.や規格をキーに検索・照合を自動化することで、受入から出庫までのリードタイム短縮と監査対応の強化が可能になる。