放射エミッション|装置からの電磁放射ノイズ評価

放射エミッション

放射エミッションは、機器内部の高速スイッチングやクロック動作によって発生した電磁エネルギーが空間へ放射され、受信機・通信機器・医療機器などの周囲機器に干渉する現象である。評価は一般に3 mまたは10 mの距離で実施し、電界強度の単位はdBμV/mを用いる。測定周波数は30 MHz–1 GHzが基本で、無線機能や高速デジタル化の進展に伴い>1 GHz(しばしば6 GHzあるいは最大18 GHz)まで拡張される。放射エミッションは「伝導エミッション」と対をなすEMCの主要カテゴリであり、CISPR 32やFCC Part 15などの規格でクラスA/Bの限度値が規定される。現象理解には近傍界・遠方界の区別、共通モード電流、筐体・ケーブルの偶発アンテナ化といった電磁気の基礎が不可欠である。

測定原理と周波数範囲

遠方界では電界Eと磁界Hが平面波関係(E/H≈377 Ω)に達するため、アンテナで受信した電界強度をそのまま妨害レベルとして扱える。一般民生機器の主評価帯域は30 MHz–1 GHzで、1 GHz超はロジックの高速化、クロック高調波、スイッチング電源の寄生結合、無線機能併載などにより支配される。受信系はEMIレシーバまたはスペクトラムアナライザを用い、検波はPK(ピーク)、QP(準尖頭値)、AVG(平均値)を適用する。前走査でPK最大点を探索し、最終測定でQP/AVGを当該規格の検波帯域幅・掃引条件で確定するのが通例である。

試験サイトと設備

屋外OATS(Open Area Test Site)または電波暗室(半無響室)で実施する。サイトはNSA(Normalized Site Attenuation)やSVSWRで校正し、背景雑音・反射を管理する。装置構成は、回転台、アンテナマスト(高さ1–4 m可変)、前置増幅器、EMIレシーバ、双円錐アンテナ(30–300 MHz)、対数周期アンテナ(200–1000 MHz)、ホーンアンテナ(>1 GHz)などである。偏波(水平/垂直)切替とマスト高さ掃引で最大結合点を探索し、EUTの姿勢・ケーブル配策は規格の治具・手順に従って再現性を確保する。

測定手順の要点

  • EUT(被試験機器)の実使用に近い動作モード、最大データ転送、最悪クロック活動を再現する。
  • 30–1000 MHzではアンテナを1–4 mで上下、偏波を切替、ターンテーブルで方位を360°回転して最大点を捕捉する。
  • 規定距離(3 m/10 m)での限度値に対し、距離換算を誤らない(1/r近似は遠方界成立条件でのみ有効)。
  • 前置AMPやプリセレクタの利得・帯域特性、システム損失を補正して総合校正を維持する。
  • 測定不確かさを推定し、判定に含める(規格付属書のガイダンスに従う)。

主な発生メカニズム

支配的要因は共通モード電流である。長尺I/Oケーブルや筐体・ベゼルのスリットはλ/2やλ/4の共振長で偶発アンテナ化し、微小電流でも強い放射を生む。基板では高速クロックの立上がり/立下りによる広帯域高調波、リターン電流の迂回、グラウンド分断、スロットによる電流狭窄が励起源となる。スイッチング電源はdV/dt・dI/dtの大きいノード、トランス/インダクタの漏れ磁束、スナバ不足などが起点となり、浮遊容量経由で筐体・ケーブルへ共通モードを注入する。

規格と判定基準

代表例はCISPR 32(情報技術・マルチメディア機器)、CISPR 11(産業・科学・医療機器)、FCC Part 15 Subpart Bである。クラスA/Bに応じたdBμV/m限度が周波数帯別に設定され、検波は多くの場合30–1000 MHzでQP、1 GHz超でAVG(またはRMS-Average)を適用する。ワイヤレス送信は別途無線規格の対象であり、EMCの放射雑音評価では送信を停止または除外帯域を扱う。複数規格を適用する際は、評価帯域・検波法・距離・ケーブル治具の差異を整合させる必要がある。

低減設計と対策

  • レイアウト:高速信号のリターン経路を最短化し、GNDプレーンの分断・スロットを避ける。差動は密結合、ビアフェンスで縁放射を抑制する。
  • 筐体・シールド:パネル継ぎ目はガスケットで360°接触、通風口はセルサイズをλ/20以下のハニカム化、コネクタ周辺は導通確保。
  • ケーブル:コモンモードチョークやフェライトコアを適所に挿入し、シールドは360°接地(ピッグテール回避)。余長は束ねず最短経路。
  • 電源・スイッチング:スナバ/ゲート抵抗でdV/dt抑制、スプレッドスペクトラムや周波数拡散でピークを平坦化、Yコンデンサの帰路最短化。
  • 基板-筐体結合:多数ビアで低インピーダンス接続、放熱器・シャーシの電位フローティングを避ける。

評価テクニックとデバッグ

プリアンプ付きレシーバで近傍界プローブを用い、ホットスポットと主要周波数を可視化する。ケーブルには電流プローブを掛け、共通モードの強度と対策効果を定量化する。小型暗室や簡易サイトで相対比較→正式サイトで相関を取る二段階手法が効率的である。1 GHz超はホーン+タイムドメインスキャン(TDS)対応レシーバで短時間に広帯域を俯瞰でき、外来波混入時はノイズフロアと占有時間を吟味する。

典型的な不合格パターン

I/Oケーブルの根元で強いピーク、筐体継ぎ目や通風口からの漏洩、グラウンド分断部を跨ぐ高速配線、シールドの片側接地やピッグテールによる高周波開放、電源ノードのリターン未最短化、治具と実使用の差異(余長束ね、タップ位置)による再現性崩れなどが代表例である。これらは多くが共通モード経路の制御不全に起因し、機械設計・電気設計・配線設計の協調で解消できる。

注意すべき用語

PK/QP/AVGは検波特性の違いであり、QPは短時間反復性の強い妨害に厳しい評価を与える。NSAはサイトの標準化減衰で、OATS/半無響室の妥当性指標である。dBμV/mは電界強度の対数表現で、3 dBは電界約1.414倍に相当する。近傍界・遠方界、共通モード・差動モード、放射・伝導の用語整合を維持し、規格書が定める測定条件・判定手順に忠実であることが肝要である。