接触温度計
接触温度計は、被測定物とセンサ素子を直接接触させ、熱平衡に達したときの温度を電気信号や機械的変位として読み取る計測器である。工学・製造現場では、装置の制御、品質保証、設備保全のための基礎データ源として用いられる。熱伝導や接触熱抵抗の影響を受けるため、取り付け方法や設計条件が計測精度・応答性を左右する。
測定原理と基礎
接触温度計の測温は、被測定体からセンサへ熱が伝導し、センサ内部で起電力や抵抗値の変化として現れる現象を利用する。伝熱の主因は固体内の熱伝導であり、フーリエの法則 q=−kA(dT/dx) の関係が支配的である。接触界面には必ず微小な空隙があり、接触圧や表面粗さに応じて熱抵抗が増減する。熱平衡前に読み取ると指示値が低めに出ることが多く、応答時間の理解が重要となる。
主な種類と構造
産業用途で代表的な素子は、熱電対、測温抵抗体、サーミスタ、バイメタルである。熱電対は異種金属接点のゼーベック効果により起電力を得る。測温抵抗体は金属(多くは白金)の抵抗温度特性を用い、直線性と再現性に優れる。サーミスタは半導体の抵抗変化が大きく、狭範囲で高感度を実現する。バイメタルは二枚の金属の膨張差を機械変位で示し、簡便な指示やスイッチングに向く。
性能指標(精度・範囲・応答)
精度は系統誤差と偶然誤差の合成で評価し、校正条件と周囲環境を明示する。測定範囲は素子材料と保護管の耐熱性に依存し、高温側は熱電対が広く、低温の微小変化は測温抵抗体やサーミスタが有利となりやすい。応答時間はセンサの熱容量、保護管厚み、取り付け深さ、流体速度により決まる。分解能は指示計・A/D変換器とノイズフロアに制約される。
熱伝達と接触熱抵抗
接触界面の空隙は気体層を形成し熱抵抗を増やすため、熱伝導グリースや軟質メタルを介在させて密着を高める。接触圧の増加、表面の平滑化、酸化膜除去は有効な手段である。断熱材の外側温度を測る場合、リード線の放熱や放射の影響で低めに出ることがあるため、遮熱板やケーブルの熱トラップ処理を行う。
設計・取り付けの要点
- プローブ長は温度勾配域を越えるよう確保し、管内流体は中心付近で測る。
- ねじ込み・溶接・フランジなど固定方式は機械強度と密封性、交換性のバランスで選定する。
- 保護管は腐食性・流速・耐圧に適合させ、熱応答を阻害しない肉厚を選ぶ。
- リード線は耐熱・耐油・シールドを考慮し、導入部のストレインリリーフを設ける。
校正とトレーサビリティ
信頼性確保には、標準にトレースされた校正が不可欠である。氷点槽による単点確認、ドライブロック・恒温槽を用いた多点校正、標準器との比較法などを組み合わせる。規格として、熱電対は IEC 60584、測温抵抗体は IEC 60751、国内では JIS C 1602・JIS C 1604 などが参照される。ドリフトや絶縁劣化を見込んだ再校正周期の設定が求められる。
誤差要因と低減策
主な要因は、接触不良による界面熱抵抗、保護管やリード線の放熱、センサの自己発熱、電磁ノイズ、熱放射の混入である。対策として、密着向上と熱界面材の使用、保護管の適正化、励起電流の低減、シールド・ツイストペア、遮熱板・反射防止処理などを実施する。設置後の初期安定化とゼロ点確認も有効である。
信号処理と計装
熱電対は微小起電力のため、低雑音アンプと高入力インピーダンスが必要である。基準接点補償(冷接点補償)は環境温度の変動を補う要となる。測温抵抗体はブリッジ回路や定電流駆動で扱い、リード線抵抗補償(2線・3線・4線方式)を用いる。デジタル化後は線形化・フィルタリング・異常検知ロジックを実装し、記録系のサンプリングと応答時間を整合させる。
環境耐性と安全
高温、振動、湿熱、腐食環境では、保護管材質(ステンレス、インコネル等)とシール材の耐性を確認する。防爆領域では着火源管理の観点から、センサと変換器の保護等級、本質安全防爆などの適合を確認する。食品・医薬では衛生設計と洗浄性、表面粗さ、デッドスペースの少ない取り付けが求められる。
適用分野
接触温度計は、化学プロセスの反応温度管理、ボイラ・熱交換器の運転監視、半導体製造装置の温度均一性評価、HVACの温調、モータ巻線・軸受の熱監視、金型や溶接の温度履歴把握など、製造と保全の広範な局面で用いられる。データは制御の指令値生成、品質統計、異常診断の特徴量として活用される。
選定の実務ポイント
- 温度範囲・精度・応答時間の要求仕様を整理し、素子方式と保護管を選ぶ。
- 取り付け条件(圧力、流速、振動、化学性)を反映して強度・耐食を確保する。
- 信号伝送距離とノイズ環境に応じ、補償導線・シールド・接地設計を行う。
- 校正・交換の運用を見込み、ねじ込み長や抜き出しスペースを設計段階で確保する。
データ品質の確保
計測は「設置・校正・運用」の三位一体で成立する。初期据付後のバーニンでドリフト傾向を把握し、基準点検証を定期化する。記録系では時刻同期、サンプリング間隔、線形化係数の一元管理を行い、トレーサビリティ文書とメンテナンス履歴を紐づけて品質監査に備える。これにより、現場の意思決定に耐える温度データを安定的に提供できる。