接地|ノイズ抑制と電気安全の基礎知識

接地

接地は、電気設備や電子機器の基準電位を大地(あるいは設備の大地等価点)に結びつけ、漏れ電流や雷サージ、静電気の放電経路を安全に導くための基本的な電気安全・電磁適合(EMC)技術である。保護目的(感電防止・火災防止)と機能目的(信号基準の安定化・雑音低減)の両面を持ち、発電・送配電設備から工場の製造装置、情報機器、住宅設備まで幅広く適用される。

定義と目的

接地は、導体(機器筐体や回路の基準点)を低インピーダンスで大地に結線し、過電圧や漏れ電流を安全に逃がす行為を指す。目的は主に以下の3点である。(1)保護接地:絶縁故障時に筐体電位上昇を抑え、保護装置(RCD/過電流保護)を確実に動作させる。(2)機能接地:アナログ・デジタル回路の基準電位を安定化し、ノイズとオフセットを低減する。(3)雷保護:直撃雷・誘導雷由来のサージエネルギーを安全に分流・拡散させる。

接地の種類

実務では用途に応じて複数の系統が併用される。混在はグラウンドループや意図しないノイズ結合を招くため、接続方針と合流位置を明確化する。

  • 保護接地(PE):感電防止を主目的とし、金属筐体や露出導電部を大地へ結ぶ。
  • 機能接地(FE):計測・制御・RFなどで基準電位とリターン経路を最適化する。
  • 静電気対策接地(ESD):人体・設備の帯電を素早く放電し、デバイス破壊や誤動作を防ぐ。
  • 雷保護接地:避雷針やSPDを含む等電位化と併せ、雷電流を拡散する。

系統方式と等電位

配電におけるTN/TT/IT方式や工場の等電位ボンディングは、故障電流の帰路確保と電位差の抑制に直結する。主要導電部(配管・トレイ・筐体・鉄骨)を主等電位バーに集約し、保護導体(PE/PEN)と機能導体(FE)の役割を混同しないことが重要である。

単点接地と多点接地

低周波・高感度アナログでは単点スター接地が有効で、基準点の電位差を最小化しやすい。一方、高周波・広帯域ノイズでは多点またはメッシュ接地が有利で、インダクタンス成分を低減できる。装置規模や周波数帯に応じ、単点と多点を階層的に使い分ける。

設計指針(低インピーダンス・短経路)

接地の要はインピーダンス最小化である。導体は幅広・短尺・直線で配し、鋭角曲げやループ面積を避ける。シャーシと基板GNDの結合は、必要箇所で低インピーダンス(スタッド、編組線、低Zコンデンサ)を用いる。筐体貫通部は360°シールドクランプで高周波接続を確保し、ペイントや酸化膜は接触抵抗増大要因となるため接触面を処理する。

グラウンドループ対策

異なる経路で複数の大地帰路が形成されると、コモンモード電流が循環しハムや誤動作を招く。信号線のリターンを近接させ、機器間のシールドは一端接地か360°結合を設計指針に従って選択する。計測系と電力系の分離、単一合流点の明確化が効果的である。

EMC観点(コモンモードとノーマルモード)

放射・伝導EMIの抑制には、コモンモード(線対大地)とノーマルモード(線間)の分解が有用である。シャーシ接続、ノイズフィルタ、フェライトコア、シールドの順路を定め、リターン電流が意図した近傍を流れるよう配線する。高周波では導体の自己インダクタンスが支配的となり、単なる抵抗値よりもレイアウト・接続面積が支配因子となる。

測定と評価

接地性能は、接地抵抗計による三極法(二本の補助電極)やクランプ法で評価する。土壌比抵抗の測定(Wenner法等)により、必要な電極長・本数・配置を見積もる。雷保護ではインパルス電流時の周波数依存を考慮し、実効インピーダンスや電位傾斜(ステップ電圧・タッチ電圧)を評価する。EMC試験では伝導・放射の国際規格(例:CISPR/IEC/JIS)に適合させる。

施工材料と土壌改善

接地極には銅・銅被覆鋼・溶融亜鉛めっき鋼が用いられる。腐食環境では電食・ガルバニック腐食に留意し、異種金属接触を最小化する。高抵抗土壌ではベントナイト等の改良材、深埋設(ディープウェル)、メッシュ化や放射状配置で拡散を図る。電極周辺の含水率・温度・凍結も抵抗値に影響するため、季節変動を見込んだ余裕設計が望ましい。

雷保護とSPDの統合

建物・プラントでは避雷針系と電力・通信のSPDを主等電位バーで統合し、雷電流の分流と内部過電圧の抑制を両立させる。引込み部近傍での第1段SPD、負荷近傍の第2段SPD、機器内の最終保護を階層化し、配線は最短・直線でループを避ける。

信号品質とレイアウト

計測・高速デジタルでは、GNDプレーンの分割とブリッジ位置がS/NとEMIを左右する。アナログとデジタルの帰路電流が干渉しないよう、A/D境界で一点結合し、クロックやスイッチング電流が敏感回路下を通らない配層とする。シールドは“片端接地”が万能ではなく、周波数・ケーブル長・環境に応じて360°接続や両端接地を選択する。

安全保護との関係

保護接地は、故障電流を十分に流して保護装置を作動させることが前提である。したがってPE導体の断面・経路・接続信頼性は過電流条件を満たすよう設計し、定期点検で接触不良や腐食を確認する。機能接地と混同すると保護動作が遅延・不確実となるため、役割分担を徹底する。

よくある誤りと対策

  • 「抵抗値だけ」を追う:高周波では配線形状が支配的。幅広・短経路・多点/メッシュ化を検討する。
  • 無秩序な多点接地:意図しないループを生み、コモンモード電流が増大。合流点と分担を明確化する。
  • シールドの点接地:360°クランプで周波数特性を改善する。
  • 塗装面や酸化皮膜の放置:接触抵抗増大。接触面処理と導通確認を行う。

関連概念

接地はRCD、等電位ボンディング、シールド、ノイズフィルタ、ESD管理、雷保護、配電方式、腐食対策などと密接に関係する。ボルト締結部の導通確保や締付け管理も重要であり、機械要素の管理が電気安全とEMI低減に寄与する場合がある。例えばボルトの座面処理やばね座金の有無は接触抵抗に影響する。