応力腐食割れ|引張応力と腐食環境で割れ進展加速

応力腐食割れ

応力腐食割れは、材料に作用する引張応力と特定環境の化学作用が同時に存在するときに生じる脆性的な割れである。微小なき裂が不動態皮膜の破壊と再生を繰り返しながら進展し、粒界型または粒内(擬へき開)型の破面を呈する。代表例はオーステナイト系ステンレス鋼の塩化物環境、黄銅のアンモニア環境、高強度鋼の硫化水素環境などであり、装置・配管・ボルトなど機械要素の突発破断につながるため、設計・製造・保全の各段で系統的管理が必要である。

発生要因と機構

応力腐食割れ(SCC)は「応力」「環境」「材料組織」の三因子の相乗作用で発生する。応力は外力だけでなく溶接・加工に起因する残留応力を含む。環境はCl-、OH-、NH3、H2Sなど特定イオンやpH・温度が影響する。材料側では鋭敏化、析出相、強度水準、不動態皮膜の安定性が感受性を左右する。き裂先端では皮膜破壊→すべり→再不動態化が高速に循環する“film-rupture-repassivation(FRR)”機構や、陽極溶解・水素関与機構が働き、き裂が分岐しつつ進むのが特徴である。

  • 応力:外荷重、熱処理・溶接・曲げ・ショットの残留引張
  • 環境:塩化物、苛性、炭酸塩、アンモニア、硫化物、温度・湿度
  • 材料:組成・金相・強度水準、表面粗さ、皮膜の再生能

代表的な系と特徴

応力腐食割れが問題となる代表系は次のとおりである。系ごとに割れ様式(粒界/粒内)や臨界温度が異なるため、運転条件と材質の組合せ評価が要点である。

  • ステンレス鋼×塩化物:60〜100℃で感受性上昇。枝分かれした粒内割れが多い。
  • 黄銅×アンモニア:いわゆる“season cracking”。応力集中部から進展。
  • 炭素鋼・Ni合金×苛性/炭酸塩:ボイラ周りでの“caustic cracking”“carbonate cracking”。
  • 高強度鋼×硫化水素:水素関与が支配的。低応力でも割れに至る。

評価・試験

応力腐食割れの感受性は、定荷重(C-ring、U-bend)や定ひずみ法、スロー・ストレイン・レート試験(SSRT)で比較評価する。実環境模擬や沸騰MgCl2など加速環境を用い、割れ発生時間、き裂進展速度da/dt、閾値応力拡大係数K_ISCC等で定量化する。断口観察(SEM)や元素分析によりCl、Sなどの環境痕跡を確認し、粒界/粒内の識別を行う。

予防・対策

応力腐食割れ対策は、(1)材料選定、(2)応力低減、(3)環境管理、(4)設計配慮、(5)保全監視の多層防御で実施する。二相ステンレスやNi基合金は塩化物環境で有利な場合が多い。溶接後の応力除去焼鈍や低入熱溶接で残留応力と鋭敏化を抑える。環境側は脱塩素、乾燥、温度抑制、インヒビター添加を検討する。カソード防食は水素脆化を誘発しうるため適用範囲を吟味する。

  • 材料:感受性の低い系へ変更、適切な熱処理・低強度化の検討
  • 応力:応力除去焼鈍、成形・溶接条件最適化、表面研磨で傷を低減
  • 環境:Cl-混入防止、遮断・被覆、液だまり・停滞の解消、温度管理
  • 設計:応力集中部(止まり穴、急段差、鋭角隅)の回避、排液性確保
  • 保全:感受性材料・部位の重点点検、交換周期の見直し

設計・保全の実務要点

溶接継手は熱影響部の残留応力と鋭敏化で応力腐食割れが起点となりやすい。開先形状の緩和、パス間温度管理、PWR/化学設備では表面研削方向や仕上げ粗さも管理対象とする。点検ではPT、ET、UT等の非破壊検査を部位特化で適用し、レプリカやAEでき裂の進展兆候を監視する。RBIによるリスクベース保全で点検間隔を最適化し、環境監視(導電率、Cl-、pH、温度)のトレンドで前兆を掴む。

他の劣化形態との違い

応力腐食割れは、全面腐食のように一様減肉せず、孔食・隙間腐食のような局部的アノードから発端しやすい点が特徴である。疲労割れは繰返し応力のみで進展するが、SCCは静的または低サイクルでも進む。水素脆化は水素拡散が支配的であるのに対し、SCCは陽極溶解と皮膜破壊再生の寄与が大きい。実機では形態が併発するため、破面形態・環境指標・運転履歴を総合して診断することが重要である。