強制コミュテーション回路|サイリスタを強制オフさせる制御手法

強制コミュテーション回路

強制コミュテーション回路とは、主にサイリスタ(Thyristor)などの自励消弧が難しいパワー半導体素子をオフさせるために設計される補助回路の総称である。サイリスタは一度オン状態になると、回路電流を強制的にゼロにしない限り自らオフできないという特性がある。そこで外部回路によりスイッチングタイミングを制御し、素子電流を強制的に遮断して消弧を実現するのが強制コミュテーション回路の役割である。大電力制御が必要なインバータやコンバータで応用され、かつてはサイリスタが主流であった時代に多用されたが、近年も大規模設備や特殊用途で活用され続けている。

必要性

サイリスタはゲートに小電流を与えればオンにできる反面、オフにするにはアノードとカソード間の電流をゼロ付近まで減らす必要がある。交流回路では自然に電流がゼロとなる点で自動的にオフすることも可能だが、直流や自由度の高いスイッチング制御を要する環境では意図したタイミングでオフできず不便である。そこで強制コミュテーション回路を挿入して、任意の時点でサイリスタ電流を打ち消す形で強制消弧を行う。

原理

強制コミュテーション回路の基本的な動作は、サイリスタの通電路に対して別経路の電流を用意し、ある瞬間にそちらへ電流を切り替え、サイリスタの電流をゼロに近づけることで消弧させるというものである。具体的には以下のような方法がある。

  • LC共振型:コンデンサに蓄えたエネルギーでサイリスタ電流を逆転させ、一時的に逆電圧を印加してオフさせる
  • 別電源型:補助電源の電圧を利用してサイリスタへの電流を逆方向に流し、強制的に消弧させる

いずれにしても、補助回路の動作タイミングとエネルギーの使い方が鍵となる。

回路例

古典的な強制コミュテーション回路の一例として、交流インバータ回路の中にLC共振経路を組み込み、必要なときに補助サイリスタをオンさせて共振を起こす手法が挙げられる。この際、コンデンサが急速に放電しながら主サイリスタ電流を打ち消す形となり、主サイリスタは電流ゼロとなってオフする。続いてコンデンサを再充電するタイミング制御も必要であり、回路設計においてはスイッチングパターンや同期制御を詳細に検討しなければならない。

GTOとの比較

サイリスタをゲート信号だけでオフできるよう改良したデバイスがGTO(Gate Turn-Off Thyristor)である。GTOはゲートに逆方向電流を流すことで自力でオフできるが、ゲート駆動回路が複雑化し、大容量の場合は大きなゲート電流が必要となる。一方で、強制コミュテーション回路は主サイリスタ自体はシンプルであるが、外部に補助回路を用意しなければならない。このようにデバイスの性質と回路構成にはトレードオフが存在し、最適な方式は用途や電力規模によって異なる。

用途

強制コミュテーション回路は以下のような分野でよく見られる。

  • 高電力交流インバータ:一昔前の大容量モータ制御や送電系インバータ
  • DC-DCコンバータ:旧式の方式ではサイリスタを使用し、補助回路で強制オフ
  • 大型UPS(無停電電源装置):臨界な用途でサイリスタ制御が行われるケース

近年はIGBTやMOSFETなどの素子が主流になっているが、信頼性・コストの観点でサイリスタが好まれる現場も依然として存在する。

メリットとデメリット

メリットとしては、大電流や高耐圧が要求される状況でサイリスタを利用できる点が挙げられる。また、補助回路を活用して柔軟にスイッチング制御が可能である。一方で回路構成が複雑になり、大きなLC部品や補助スイッチング素子、正確なタイミング制御が必要となるため、コストやスペースがかさむ問題がある。また、補助回路動作時の損失やノイズも無視できず、設計・保守が難しいという課題がある。

現在の位置づけ

IGBTやMOSFETなど自力でオン・オフ操作できるパワーデバイスが普及したことで、強制コミュテーション回路の出番は減ってきている。しかし、非常に高電圧・大電力が必要な分野や、既存設備の改修ではまだ活用されることが多い。また古典的な交流インバータや特殊なパルス発生装置などでは依然として重要であり、パワーエレクトロニクスの基礎技術として学習や研究の対象になり続けている。