座屈試験|座屈試験で圧縮部材の安定性を評価

座屈試験

座屈試験は,細長材や薄肉構造(柱,パネル,円筒殻など)が圧縮・外圧・曲げを受けた際に発生する不安定現象である「座屈」の発生荷重および変形挙動を評価するための材料・構造試験である。臨界荷重の測定,初期不整への感受性の把握,境界条件の違いによる座屈耐力の差,座屈後の剛性低下や吸収エネルギの見積りなどを系統的に明らかにする。実機設計では安全率や部分係数の設定に直結し,軽量化設計・薄肉化設計の可否判断に不可欠である。

目的と適用範囲

座屈試験の主目的は,臨界荷重(critical load)の決定と,座屈様式(全体座屈・局部座屈・面外座屈・せん断座屈など)の識別である。鋼・アルミ・複合材(CFRP)といった材料系や,橋梁・建築柱・機械フレーム・圧力容器・パイプライン・航空宇宙構造など幅広い構造要素に適用される。試験によって得た荷重–変位曲線は,設計用座屈曲線の較正や数値解析(FEM)の検証に用いられる。

基礎理論と評価量

細長柱の弾性座屈はオイラー式で代表され,臨界荷重は Pcr=π^2EI/(KL)^2 で与えられる(E:ヤング率,I:断面2次モーメント,L:部材長,K:支点係数)。薄板・殻では板厚 t,幅 b,半径 R など幾何パラメータと境界条件が支配的となる。試験では臨界荷重 Pcr,対応する臨界応力 σcr,座屈後剛性,座屈モード形状,スナップスルーの有無,残留変形量を記録する。幾何初期不整と残留応力は座屈耐力を著しく低下させるため,量的記述が重要である。

初期不整と感度

初期たわみ w0 や厚さ偏差,溶接による残留応力は,理論解との差異の主要因である。規格に従い,代表値やモード形状(例:正弦半波)を仮定した付与不整を用いると解析・試験の整合が取りやすい。

試験体・治具・境界条件

試験体は目標モードを誘起しやすい寸法比(細長比 λ=L/r や b/t,R/t)に設定する。端部治具はピン支持,固定端,ローラ支持など設計条件に合わせて選定し,偏心防止のセンタリング機構と球面座で荷重軸を一致させる。軸圧縮では端面平行度と直角度の管理が必須で,薄板・殻では周縁条件を再現するクランプフレームやエッジビードを用いる。

代表的な試験方法

座屈試験は,(1)軸圧縮座屈:万能試験機で軸荷重を単調増加し,端部の回転拘束を規定して Pcr を測定する。(2)曲げ座屈:4点曲げ・3点曲げで面外座屈や横座屈を誘起し,曲げモーメントに対する座屈限界を評価する。(3)せん断・面内圧縮:パネルのせん断座屈や局部座屈をパネル治具で再現する。(4)外圧円筒座屈:円筒に外圧を負荷し,局部しわ(wrinkle)の発生圧を特定する。いずれも変位制御が一般的で,微小不整・スナップスルーを捉えるために高分解能の変位計・ひずみゲージ・DIC(デジタル画像相関)を併用する。

座屈後挙動の取得

臨界点通過後のソフトニング域を安定に追跡するには,補助ばね・拘束や適切なフィードバック制御(例:CMOD制御)を導入し,荷重落下時もデータ欠落を防ぐ。

計測とデータ処理

ロードセル・LVDT・レーザ変位計・DICで多点計測し,荷重–変位曲線から接線剛性のゼロ交差や突然のモード変化で Pcr を同定する。周波数応答法(小振幅励振)によって座屈接近時の固有振動数低下を指標化する手法もある。ノイズ低減のため移動平均やSavitzky–Golay平滑化を使うが,Pcr近傍のピーク鈍化には注意する。

規格・試験条件の例

金属材料・構造要素の座屈は JIS・ISO 等で試験条件や評価手順が整備される。試験速度(クロスヘッド速度)や環境温度湿度,前処理(熱処理,溶接後処理),端部処理(バフ仕上げ・ライニング)を規定し,再現性を確保する。薄板では面内残留応力の除去や端部の面取りが結果に影響するため,規格の付属書に従って前処理を行う。

設計へのフィードバック

座屈試験の結果は,設計用座屈曲線(細長比–耐力関係)の校正,座屈低減係数の設定,部分安全係数の見直しに反映する。初期不整感度が高い場合は,補剛材の追加,板厚増,端部剛性の強化,リブ配置の最適化,残留応力低減の溶接シーケンス設計などの対策を提案する。併せて FEM の幾何学的非線形解析(GNA)や材料非線形を含む GMNA,初期不整付与(eigenmode imperfection)で試験再現性を検証する。

品質管理と実務の勘所

試験前に端面・治具・軸芯の同軸度をダイヤルゲージで確認し,偏心率 e/D を管理する。試験中は座屈モードの非対称化やねじれの発現を画像で監視する。試験後は座屈波形の波数・波長を計測し,理論・解析との相似性を点検する。再現性評価には同一ロット・同一加工条件での繰返し試験を行い,Pcr の標準偏差から統計的ばらつきを見積もる。

安全と装置保護

座屈の瞬間には急激な荷重落下や側方跳ね出しが生じうる。防護シールドと非常停止を設け,試験機の負荷セル保護やストローク限界の設定を確実にする。薄板・殻の外圧試験では破裂・しわ伝播に備え,段階加圧とリーク監視を行う。

関連評価との連携

座屈試験は耐圧・気密・漏れ・繰返し変形の評価と組み合わせると有効である。例えば外圧円筒の座屈後に気密性が低下する場合,漏えい量測定やヘリウムリーク評価を追加し,実機の許容限界を総合判断する。動的座屈が懸念される場合は,衝撃・疲労荷重下での準静的近似の妥当性を検証する。

試験報告のポイント

報告書には,試験体寸法・材料特性(E,σy,t),端部条件,初期不整の測定値,荷重–変位曲線,Pcr・σcr,同定手法,モード形状写真,座屈後挙動,繰返し性,解析との比較を網羅する。設計反映事項は,必要補剛量,許容細長比,製造公差の見直しなど,意思決定可能な形式で提示する。