差動保護
差動保護は、保護対象の両端または区間端に流れる電流のベクトル差を監視し、内部故障のみを高速選択的に切り離す方式である。基本理念は「境界面を横切る電流の総和は外部故障では0に近いが、内部故障では不平衡(差電流)が顕著になる」というキルヒホッフの法則に基づく。変圧器・発電機・母線・長距離ケーブルなど、重要一次設備の一次保護として広く用いられ、外部故障や投入過渡に対する外乱耐性を確保するため、比率制動特性や高調波抑制などの工夫が実装される。
動作原理と比率制動
端点電流をI1, I2とすると、差電流Id=|I1−I2|、制動電流Ir=(|I1|+|I2|)/2で表す。外部故障時は理想的にId≈0、内部故障時はIdが増大する。実際にはCT誤差や飽和で外部故障でもIdが生じ得るため、Id>K1+K2×Irのような傾斜(slope)付き比率制動特性を採用し、Irが大きいほど動作しにくくする。二段傾斜(低域slope1/高域slope2)やブレークポイントを設け、外部故障時CT飽和に起因する見かけのIdを確実に抑制する。高インピーダンス方式では差回路インピーダンスを大にして外来不平衡を抑え、低インピーダンス方式ではデジタル処理で傾斜特性とフィルタを持たせる。
構成要素と結線補償
- CTと極性:各端点に保護用CTを設け、極性整合と比率(タップ)を合わせる。CT二次断線監視は必須である。
- 位相・比率補償:変圧器差動ではΔ/Y結線差や巻線比を内部で補償する。ゼロ相分の除去や三巻線対応も実装される。
- フィルタとサンプリング:商用周波数成分を基調に、過渡抑制のためのローパス、二次高調波抽出、適応フィルタなどを併用する。
- 遮断器入出力:トリップ出力、遮断器位置入力、ブロッキング/解除信号を持つ。最近はデジタルI/Oと冗長電源が一般的である。
外乱と誤動作抑制
外部故障時のCT飽和は最大の外乱要因である。比率制動傾斜を十分に取り、時定数を適正化することで抑制する。変圧器投入時の励磁突入電流は第2高調波成分が大きく、これを検出して動作を一時的に抑制(高調波抑制)する手法が古くから用いられる。近年は非対称過渡や再投入条件で第2高調波が小さい事例に備え、波形整合や無高調波抑制ロジック、位相角・波形歪み指標の併用が行われる。負荷急変や並列変圧器の循環電流、不適切な接地も不平衡を生むため、据付試験で十分に検証する。
整定と協調
整定は、動作電流しきいK1、傾斜K2(slope1/2)、時限(一般に限時なし高速)を決める。外部保護(過電流リレー、距離継電器)との協調では、内部故障は最短で切離し、外部故障は確実に不動作とする選択性が要点である。発電機差動は高感度かつ高速を狙い、母線差動は多数回線CTの合成となるためブロッキング論理やチェックゾーンを備える。ケーブル区間差動では端点間通信の遅延変動を考慮し、しきい補正や時刻同期で安定性を確保する。
適用別の実務ポイント
- 変圧器差動:巻線比・結線位相補償、励磁突入抑制、タップチェンジャ範囲を含む比率整合が肝要。三巻線では各巻線のIr寄与を考えた処理が必要である。
- 発電機・調相機:ロータ接地や定子接地故障との役割分担を明確にし、低次高調波や過渡を考慮したアルゴリズムを選ぶ。
- 母線差動:低インピーダンス方式が主流で、回線別CT二次異常の検出、切替開閉器操作時の一時ブロックなどのロジックを備える。
- ケーブル線路差動:光通信で端点電流を交換するエンドツーエンド方式が多い。対地帰路や遮蔽層電流の影響を考慮し、零相処理と接地方式を設計段階で決める。
試験・検証
工場受入では二次注入で差動特性(K1、slope、ブレークポイント)を確認し、現地据付後は配線極性試験・CT励磁特性確認・投入過渡の模擬を行う。波形記録・故障レコーダ(COMTRADE)により内部/外部故障の事後解析を行い、外乱時のId・Ir軌跡が整定意図どおりであるか検証する。CT二次断線監視・二重化電源・自己診断の点検は定期保全の基本である。
デジタル化と通信同期
サンプル値(SV)やGOOSEなどのデジタルI/O化が進み、IEC 61850に基づくプロセスバス構成が普及する。端点同期にはGPSやPTP(IEEE 1588)を用い、ジッタや遅延変動に対して一次/二次同期の冗長化を図る。サイバーセキュリティでは論理分離、装置認証、イベント監査が求められる。
よくある不具合と対処
- CT二次断線・極性誤り:据付時の直流注入試験と通電試験で極性・位相を確認する。
- 接地不良・浮遊接地:二次接地の一点化とシールド処理で迷走電流を抑える。
- 投入過渡の誤遮断:高調波抑制と波形ベース判定の併用、投入時限定の一時ブロックを適用する。
- 並列運転の循環電流:タップ整合とブッシングCTのクラス選定、零相除去で安定度を高める。
差動保護は、内部故障に対する最速・最確実な一次保護であり、比率制動と高調波抑制を中核に、CT・結線・同期・通信の総合設計で信頼性と選択性を担保する。対象設備の電磁過渡とCT特性を実測・解析し、Id/Irの運用データを継続監視することが、安定・高速動作への近道である。