尿素タンク|SCR用尿素水の貯蔵供給装置

尿素タンク

尿素タンクは、ディーゼル車のSCR(Selective Catalytic Reduction)システムにおいて、NOx低減に用いる尿素水(AUS 32、商品名AdBlue/DEF)を貯蔵し、適切な温度・濃度・清浄度で供給するための貯蔵・調整モジュールである。車両の運用条件(温度、振動、姿勢変化)下で安定した供給を実現し、ISO 22241に適合した品質維持、凍結対策、センサー計測、ベント制御、サービス性を包含する設計が求められる。

機能と役割

尿素タンクの主機能は、尿素水の貯蔵、吸上げ、送液系への供給、蒸気・圧力の管理、異物・結晶の捕捉、温度・レベル・品質の監視である。これらを統合してSCR触媒へ適量を噴射させ、NOxを選択還元し排出ガス基準(Euro 6、ポスト新長期等)に適合させる。

構造と主要部品

尿素タンクは一般にHDPE製成形タンク本体、吸上げモジュール(ポンプ、ストレーナ)、レベルセンサー、温度センサー、品質(濃度)センサー、ヒーター、リターン配管継手、フィラーネック、キャップ、ベント(ブリーザー)、配線コネクタからなる。吸上げ口近傍にはスロッシング対応のバッフルを設け、傾斜や加減速時でも吸入不良を抑える。

尿素水の性状と設計上の注意

AUS 32は水溶液であり腐食性・析出性を持つため、金属材の選定や電食対策が重要である。配管・継手・シール材にはPTFE、FKM等の適合材を採る。水分蒸発や汚染は結晶析出を招きやすく、密閉性とフィルタリングを重視する。

材料と製造

尿素タンク本体はHDPEブロー成形が主流である。HDPEは耐薬品性に優れ、軽量で成形自由度が高い。内層にバリア材(EVOH等)を積層してアンモニア臭気の透過抑制を図る場合がある。取付ブラケットや補強部には防食処理を施し、締結にはボルトと防緩手段(ばね座金、ねじロック剤)を併用する。

規格と品質管理

ISO 22241はAUS 32の化学特性・純度・取り扱いを規定する。尿素タンクはこの規格に適合する清浄度維持設計(清浄製造、異物混入防止、適正材料)を前提とし、組立後にはリーク、耐圧、寸法、センサー較正、ヒーター作動、ポンプ吐出量などの受入検査を実施する。

凍結対策と加熱

尿素水は約-11℃で凍結する。よって尿素タンクにはPTCヒーターやクーラント併用ヒーターを内蔵し、ECUによる温度制御で解氷時間を短縮する。吸上げ経路やノズルの凍結融解サイクルを考慮し、配管勾配や保温、デッドボリューム最小化を図る。

センサーと制御

尿素タンクのレベルセンサーはフロート式や超音波式が用いられる。温度センサーは凍結判断とヒーター制御に、品質センサーは濃度逸脱や水混入検知に利用する。これら信号はCAN経由でエンジンECU/AFS-ECUへ送られ、NOxセンサーのフィードバックと統合して噴射量を最適化する。

ベント・圧力管理

タンク内圧は温度変化や送液で変動する。尿素タンクは逆止弁付きベントや活性炭素材不使用の専用ブリーザーで大気連通し、液飛散や吸湿を抑える。フィラーネックには誤給液防止形状やスプラッシュ抑制形状を持たせる。

レイアウトと車両統合

尿素タンクは床下後方やフレーム内側など、衝突安全と配管短縮、サービス性、防錆を両立する位置に配置する。飛び石・熱源・排気配管からの影響を回避し、遮熱板やアンダーカバーで保護する。

メンテナンスと不具合モード

  • 尿素タンク内結晶:濃縮や汚染が原因。定期的な補給とキャップ密閉で予防。
  • 吸上げ不良:ストレーナ詰まりや配管エア噛み。清浄供給と適正配管で対策。
  • センサー異常:配線腐食、結晶付着。防滴設計と自己診断(OBD)で検知。
  • 凍結遅延:ヒーター不良や断熱不足。PTC容量と熱経路見直しで改善。

開発・評価の要点

車両実使用を想定した環境試験(低温始動、耐久振動、耐圧、急加速・急減速、横傾斜)、媒体適合(材料浸漬)、結晶再溶解性、ヒーター解氷時間、ポンプ吐出特性、レベル検知精度を網羅する。量産段階では工程内清浄度とトレーサビリティを担保し、フィールドでの補給性と誤給対策のヒューマンファクター評価を行う。

関連システムとのインターフェース

尿素タンクはポンプユニット、インジェクター、DOF制御、NOxセンサー、SCR触媒、ECUと機能的に結合する。補給口は市販ディスペンサー規格に適合させ、キャニスタ型の蒸発ガス処理とは分離された系統として扱う。

設計最適化の方向性

軽量化と耐久の両立、凍結解氷の高速化、結晶抑制の流路設計、センサー一体化モジュール化、バリア層最適化による臭気低減が近年の焦点である。これらを通じて尿素タンクは信頼性と保守性を高め、排出ガス低減を長期にわたり支える。