定格設計|許容条件で安全性・寿命を最適化

定格設計

定格設計とは、機器や部品が安全かつ所望の寿命で動作するために保証できる条件(電圧・電流・トルク・温度・荷重・回転数・流量など)の上限・範囲を、規格・材料特性・環境条件・製造ばらつき・劣化を踏まえて体系的に定める設計手法である。名板・仕様書・データシートに示される「定格」は、この手法に基づくエビデンスの要約であり、製品責任や保全計画、選定の前提条件を提供する。定格は単一値ではなく、温度・高度・周波数・デューティ・冷却条件などに依存する関数(ディレーティング曲線)として整理するのが実務的である。

基本概念と設計フロー

定格設計の根幹は「想定使用条件の包絡化」と「劣化メカニズムのマージン化」である。一般フローは、(1)使用条件の抽出(負荷スペクトル・デューティ・環境)、(2)支配的故障モードの同定(熱、電気、機械、化学)、(3)モデル化(熱抵抗網、S-N曲線、Arrhenius、寿命法則)、(4)設計マージンと規格要求の適用、(5)ディレーティング曲線の策定、(6)型式試験・信頼性検証である。規格(JIS、IEC、ISO)や社内基準の「最小要件」に、製造ばらつき・測定誤差・経年劣化・ユーザ誤使用を吸収するマージンを重畳する。

環境条件とディレーティング

環境条件は定格に強く影響する。周囲温度上昇で許容電流や出力は低下し、高度上昇で空気冷却能力が低下する。湿度や塵埃は沿面距離・クリアランスや保護等級の要求を引き上げる。代表例として「40℃・海抜1000m・相対湿度95%以下・連続運転S1」を基準に、温度・高度ごとの許容値低下を曲線化する手法が一般的である。筐体サイズやヒートシンク、ファン風量はこの曲線達成のための設計変数となる。

熱設計と温度上昇

熱は多くの故障モードのトリガであり、定格を決める第一要因である。損失P(銅損I²R、鉄損、スイッチング損、摩擦損など)と熱抵抗Rθにより温度上昇ΔT≈P×Rθを概算する。過渡応答は熱容量Cθを含むRC網で表す。絶縁材料のクラス(例:Class F)や半導体ジャンクション温度上限、潤滑剤の粘度低下限界などを超えないようPとRθを制御し、環境温度と併せて最大温度上昇を評価する。温度サイクルははんだ疲労や樹脂クラックを誘発するため、トランジェントも評価対象である。

電気定格:電圧・電流・絶縁・保護

電気機器では、定格電圧・定格電流・周波数・短時間過負荷耐量が中心となる。沿面距離・空間距離は使用過電圧カテゴリや汚染度で規定され、サージ耐量との整合が必要である。保護についてはOCP(過電流保護)、OVP(過電圧保護)、OTP(過温度保護)、SCP(短絡保護)を設け、定格超過時にフェイルセーフとなるよう協調(保護協調)を取る。スイッチング電源やインバータでは、出力定格は入力母線電圧・冷却条件・スイッチ素子のSOAに依存し、連続(DC)とパルス(ピーク)を分けて規定する。

機械定格:荷重・疲労・寿命

機械系では、静的強度(降伏・座屈)と疲労強度(S-N)の両面で定格を決める。ベアリングはL10寿命、ばねは許容せん断応力と繰返し応力幅、歯車は曲げ強度と面圧強度、シャフトはねじり・曲げ合成応力とキー溝影響を評価する。トルクT、回転数n、サイクル数N、衝撃係数Kを入力として、実働スペクトルを等価化(レインフロー等)し、累積損傷則(Miner)で安全率を担保する。潤滑・表面処理・残留応力は有効な設計パラメータである。

デューティと使用モード

同一出力でも、連続(S1)、断続(S3)、起動頻発(S4)では熱負荷が異なり定格は変化する。アクチュエータやモータ、ソレノイド、電磁弁ではデューティ比、オン時間、クール時間の制約を仕様化し、繰返し起動損失・ロータ昇温・巻線温度の平衡を設ける。ギヤードモータでは起動トルクと背圧、制動時の逆起電力や回生吸収能力も定格に含める。

製造ばらつき・経年劣化とマージン設計

抵抗値・寸法・粗さ・材料強度のばらつき、半導体しきい値のロット差、実装熱抵抗の散らばりは避けられない。これらは統計的マージン(例:3σ設計)で吸収する。経年では電解コンデンサの容量低下・ESR上昇、潤滑剤の酸化、ポリマーのクリープ、腐食進行などが支配的となるため、寿命末期条件下でも定格内となるよう初期設計点を引き下げる。高温高速の加速試験(Arrhenius、Coffin-Manson)で寿命パラメータを同定する。

規格適合とラベリング

規格適合は定格の最低線を与える。IP保護等級、絶縁クラス、温度上昇限界、感電保護クラス、耐圧・耐アーク、危爆環境での防爆構造など、該当規格群をマッピングし、試験法・抜取基準を設定する。名板・銘板表示は、定格値、周囲条件、デューティ、警告、保護方式、配線端子情報を含め、ユーザが誤用しないための根拠となる。

ディレーティング曲線の作り方

ディレーティングは実機データとモデルを統合して策定する。代表手順は以下の通りである。

  1. 支配的損失源の同定(電気・機械・流体)
  2. 熱モデル(Rθ・Cθ)と環境依存性の構築
  3. 複数条件(温度・高度・風速・取付姿勢)での計測
  4. モデル同定と妥当性確認(過渡・定常)
  5. 安全率を含む曲線化(連続・ピーク・短時間)

保護協調とフェイルセーフ

定格超過は必ず起こり得る事象として扱い、被害極小化のためのフェイルセーフを設ける。過電流時のヒューズ・ブレーカ選定は遮断容量・限流特性・I²t整合を確認する。過温度では素子内蔵サーミスタやサーモスタットで段階的に出力制限→停止とし、リセット条件を明確化する。圧力・流量機器ではリリーフ弁・バイパス回路を用意し、誤操作を想定したインタロック・ロックアウト/タグアウト手順を仕様書へ記載する。

実務例:モータ+インバータ+減速機

例えば搬送装置では、搬送質量・勾配・摩擦から必要トルクを求め、加減速プロファイルとデューティを定める。モータ定格は環境温度・筐体冷却方式で変動し、インバータはキャリア周波数・直流母線電圧・周囲温度で出力低下する。減速機は出力トルクと寿命(L10)で定格化され、瞬時過負荷や衝撃係数を考慮する。三者のディレーティングを重ね合わせ、ライン全体の定格を最小要素に合わせて決定する。

検証:型式試験・ルーティン試験・信頼性

型式試験で限界条件(高温高湿・低温起動・サージ・塵埃・振動・結露)を網羅し、ルーティン試験で量産ばらつきを監視する。バーンインは初期故障のスクリーニングに有効だが、過度なストレスは潜在損傷を招くため、モデル化に基づく適正条件で運用する。フィールドデータを収集し、不具合ログと環境メタデータを突合して定格の改訂に反映する仕組みが望ましい。

ドキュメンテーションとユーザガイダンス

カタログやデータシートには、(1)定格値と測定条件、(2)ディレーティング曲線、(3)保護動作とリセット条件、(4)据付・放熱・配線指針、(5)想定外使用の禁止事項を明記する。使用者側の機器選定では、最悪条件(夏季最高気温、塵埃、連続稼働、電源変動)で定格内に収まること、短時間過負荷の扱い、保守アクセス性、監視ポイント(温度、電流、振動、圧力)の計装を確認する。

まとめの代わりに:設計者の勘所

  • 「平均」ではなく「包絡」を見る(ワーストケースと散らばり)
  • モデルと実測の往復でディレーティングを可視化する
  • 保護協調と情報提供で誤用を前提に安全側に倒す
  • 現場データで定格を継続的にアップデートする