宇野内閣|短命69日、不祥事と参院選敗北で幕

宇野内閣

宇野内閣(うのないかく)は、外務大臣を務めていた宇野宗佑が第75代内閣総理大臣に任命され、1989年(平成元年)6月3日から同年8月10日まで続いた日本の内閣である。戦後政治を揺るがしたリクルート事件によって竹下登内閣が総辞職に追い込まれた後を受け、クリーンなイメージを前面に押し出して発足した。しかし、発足直後に発覚した首相自身の女性スキャンダルや、同年4月に導入されたばかりの消費税に対する国民の強い反発、さらには農産物の自由化問題などが重なり、参議院選挙で歴史的な大敗を喫した。在任期間はわずか69日間であり、日本の憲政史上においても極めて短命な政権の一つとして記録されている。

内閣の成立背景と選出過程

宇野内閣が誕生した背景には、当時の自由民主党(自民党)を襲った深刻な政治不信がある。前任の竹下内閣は、リクルート事件による政界汚染と、国民の猛反対を押し切って強行導入した消費税によって支持率が急落していた。自民党内では次期総裁候補の多くがリクルート事件に関与していたため、党三役や主要閣僚の経験者の中から「リクルート無関係」の人物を探す必要に迫られた。その結果、中曽根派のナンバー2であり、清廉なイメージを持っていた宇野宗佑に白羽の矢が立った。この選出過程は、実力者による密室政治との批判も受けたが、党内の危機感を背景に「宇野裁定」として一本化が進められたのである。

主な政策と国際情勢への対応

短命に終わった宇野内閣であったが、激動する内外の情勢への対応を余儀なくされた。国内では、導入直後の消費税に対する国民の不満を和らげるため、税制改革の定着に腐心した。外交面では、発足直後に中国で発生した第二次天安門事件への対応が焦点となった。宇野首相は第15回主要国首脳会議(アルシュ・サミット)に出席し、中国への制裁を強める欧米諸国に対し、中国を孤立させるべきではないとの立場から、慎重な共同声明の取りまとめに尽力した。これは昭和から平成へと時代が移り変わる中で、日本が国際社会において独自の外交的役割を果たそうとした象徴的な場面でもあった。

内閣を揺るがしたスキャンダル

宇野内閣にとって致命傷となったのは、発足からわずか数日後に『サンデー毎日』が報じた宇野首相の女性問題であった。神楽坂の芸者による告発内容は、首相の金銭感覚や人権意識を問うものとして大きな批判を浴びた。当時、政治家のプライベートは報道しないという暗黙の了解が政界とメディアの間にあったが、この報道はそのタブーを破る形となった。特に女性有権者の反発は激しく、後の選挙結果に多大な影響を及ぼすこととなった。

宇野内閣の主要閣僚一覧
職名 氏名 出身派閥
内閣総理大臣 宇野宗佑 中曽根派
法務大臣 谷川和穂 河本派
外務大臣 三塚博 安倍派
大蔵大臣 村山達雄 宮澤派
文部大臣 西岡武夫 宮澤派
厚生大臣 小泉純一郎 安倍派
通商産業大臣 梶山静六 竹下派
内閣官房長官 塩川正十郎 安倍派

参議院選挙の敗北と総辞職

1989年7月23日に行われた第15回参議院議員通常選挙において、宇野内閣率いる自民党は惨敗を喫した。改選議席の半分にも満たない36議席にとどまり、結党以来初めて参議院での過半数を割り込む「衆参ねじれ現象」を招いた。これに対し、土井たか子委員長率いる日本社会党は、消費税反対と女性の政治参加(マドンナ旋風)を追い風に大躍進を遂げた。宇野首相はこの結果を受け、「すべては私の不徳の致すところ」と述べ、選挙翌日に退陣を表明した。後任には河本派の海部俊樹が選出され、自民党は若返りとクリーンなイメージの回復を図ることとなった。

宇野内閣期の主な出来事

  • 1989年6月3日:宇野内閣発足。
  • 1989年6月4日:中国で第二次天安門事件が発生。
  • 1989年7月14日:アルシュ・サミット(パリ・サミット)開幕。
  • 1989年7月23日:第15回参議院議員通常選挙で自民党が大敗。
  • 1989年8月10日:内閣総辞職。

歴史的評価

宇野内閣は、リクルート事件という自民党史上最大の危機の「中継ぎ」として誕生した側面が強い。しかし、その短い在任期間中に起こった事象は、日本の政治構造を大きく変えるきっかけとなった。消費税導入という国民生活に直結する課題への反発、そして政治家の倫理性に対する国民の厳しい視線は、その後の政治改革議論へと引き継がれていくことになった。

「明鏡止水の心境であります」
―― 宇野宗佑(総辞職にあたっての言葉)

結果として宇野内閣は、長期政権となった中曽根康弘内閣や、地盤を固めた竹下内閣と比較して、政策的な独自性を発揮する時間は残されていなかった。しかし、冷戦の終結が近づく中で、先進国の一員としての日本の役割を模索し、戦後政治の一つの区切りをつけた政権であったと言える。