多目的最適化
多目的最適化は、相反する複数の目的(例:コスト最小・性能最大・環境負荷低減)を同時に扱い、意思決定に資する妥協解を探索する手法である。単一の最適解は一般に存在せず、どの目的もこれ以上改善できない非劣解の集合、すなわちパレート最適集合とその像であるパレートフロントを得ることが中心となる。工学設計・生産計画・制御設計などで幅広く用いられ、制約条件の下で解候補の支配関係を評価し、設計者の選好を反映させて解を選定する枠組みである。
基本概念と用語
多目的最適化では、目的関数をベクトル形式で定義し、可行領域内の解同士を「劣らない(non-dominated)」関係で比較する。ある解が他の全目的において優位で少なくとも一つで厳密に優れるとき前者は後者を支配する。支配されない解の集合が非劣解であり、これらの目的空間像がパレートフロントである。設計ではフロントの形状(凸・非凸・離散)や密度、膝(knee)点の有無が意思決定に影響する。
主要アプローチ(スカラー化)
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加重和法:各目的を重みで線形結合して単目的化する。凸フロントの探索に有効であるが、非凸領域を捕捉しにくい。重み感度が高いため正規化が重要である。
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ε制約法:一つを目的、他を上限(下限)制約に移す。非凸フロントも網羅可能で、制約水準の掃引でフロントを描ける。
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目標計画(Goal Programming):目標値からの偏差最小化を行う。優先度(preemptive)や重み付けで意思決定者の選好を反映できる。
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効用最大化:多属性効用(MAUT)を構築し単目的化する。選好整合性と効用関数の同定が鍵である。
補足:正規化と重みのスケーリング
目的のスケール差が大きいと重みが実質的に機能しない。無次元化や分位点によるスケーリング、クリッピングを併用すると探索が安定する。
進化的手法とヒューリスティクス
多目的最適化で広く使われるのが進化的アルゴリズムである。NSGA-IIは非劣ソートと混雑距離で多様性を維持し、SPEA2は強度値で支配の強さを評価する。MOEA/Dは問題を多数のスカラー化副問題に分割し並行探索する。連続・離散・混合設計変数や非線形・非凸・ブラックボックス目的にも頑健である。
補足:制約処理
ペナルティ、可行優先、ε可行性、修復演算子などを併用する。厳しい制約下では可行初期母集団の構成や実行可能性の学習が効果的である。
工学設計での適用例
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機械構造設計:質量最小・剛性最大・固有振動数最大・コスト最小・安全率確保を同時に扱う。トポロジー最適化と組み合わせるとフロントの広がりが増す。
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製造プロセス:加工精度最大・表面粗さ最小・サイクルタイム短縮・工具摩耗抑制。パラメータ空間の探索に応答曲面法+進化計算を用いる。
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材料選定:強度・耐食・耐熱・比重・価格・リサイクル性のトレードオフ。アッシュビー図とパレート解析を併用する。
評価指標と可視化
超体積(Hypervolume)は参照点に対する被覆体積を測る代表指標であり、フロントの質を単一値で評価できる。分布均一性指標(Spread)、逆世代距離(IGD)、適合度達成曲線なども併用する。可視化は2D/3D散布図に加え、パラレルコーディネーツやレーダーチャートが有用である。
補足:膝(knee)点の抽出
限界効用が大きく変化する折れ点は実務上の妥協解になりやすい。曲率や局所トレードオフ率で検出する。
実務フロー
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定式化:目的・制約・設計変数・範囲を明確化し、計算資源と要求精度を見積もる。
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前処理:目的の正規化、相関の高い目的統合、サロゲート(RSM, GP)準備。
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探索:問題特性に応じて加重和・ε制約・NSGA-II等を選ぶ。計算量に応じて並列化や逐次近似を導入する。
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解析:得られたパレートフロントの空隙や支配関係を点検し、感度・ロバスト性を評価する。
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意思決定:候補を少数に絞り、実験・試作・FMEAでリスク評価を経て選定する。
モデリング上の注意点
目的が実質的に冗長な場合、次元削減(PCA等)で表現を整理する。ノイズや不確かさが大きいときは確率的制約やロバスト最適化に拡張し、ペナルティや機会制約で可用性を確保する。計算コストが高いシミュレーションでは、サロゲート・アクティブサンプリングで評価点を節約する。
ソフトウェアと実装の要点
多目的最適化の実装には、Pythonの
Pyomo
や
pymoo
、
DEAP
、MATLABのGlobal Optimization Toolbox、商用のMODE Frontier等がある。停止条件(世代数・収束基準・評価回数)と乱数種の管理、解のアーカイブ、再現可能性の担保が重要である。設計空間の境界条件を厳密に実装し、可行性を常時監視することで無駄な探索を避けられる。
よくある落とし穴と対策
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非凸フロント未捕捉:ε制約法やMOEA/Dで補う。初期解の多様性を確保する。
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重み依存:重みの自動調整や適応型重み、正規化の見直しを行う。
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評価ノイズ:再評価、バッチ平均、ロバスト目的(最悪値・分散併用)で安定化する。
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可視化バイアス:複数指標と多面的可視化で判断を補強する。