変圧器保護
変圧器保護は、電力系統の信頼度と設備資産の健全性を維持するために、内部故障と外部擾乱を識別し迅速・選択的に切離す制御・監視・保護の総合機能である。対象となる故障は相間短絡、巻線間短絡、地絡、鉄心接地、過負荷、過励磁、油・ガス異常、温度上昇、OLTC異常など多岐にわたる。機能面では差動、過電流・地絡、ブーフホルツ、温度、過励磁、タップ関連、油圧・油位などの保護要素を組み合わせ、CT/VT選定・配線、整定協調、動作記録解析、定期試験によって総合的に信頼性を高める設計思想が要諦である。
目的と故障様相
目的は「人身・設備・供給継続」の三点を同時に満たすことである。内部故障は巻線短絡・鉄心接地・タップ切換器内部のアーク等で高エネルギ密度になりやすく、速断が不可欠である。外部故障は下位回路短絡や過負荷であり、必要以上の遮断を避けるため時限協調が要る。非故障事象として励磁突入、投入サージ、飽和によるCT誤差、タップ不平衡、第三高調波、外乱によるV/f上昇などがあり、誤動作抑制の設計が性能を左右する。
主な保護要素
- 差動保護(87T):各相のCT二次電流のベクトル差で内部故障を検出する。制動特性、二次高調波拘束、無励磁時のブランキング、タップ補償が重要である。
- 過電流・地絡(50/51, 51N/64G):外部事故や過負荷保護の基幹要素。変圧器容量・許容過負荷曲線に基づき限時と瞬時の二段で協調させる。
- ブーフホルツ(63):油中ガス発生と急速油流を検出し、早期警報とトリップを分割する。
- 巻線・油温度(49/38):熱モデルや直接測温で過熱を検出し、長期劣化と短期リスクを同時に管理する。
- 過励磁(24):V/fの上昇と鉄損増大を検出し、系統異常や無負荷タップ操作時のリスクを抑える。
- 油位・圧力(71/63P):油漏えい、アーク圧力上昇を検出する。
- OLTC保護:タップ切換器の同期不良・接点溶着・油劣化に対する監視を行う。
CT・VT構成と配線の要点
差動の堅牢性はCT選定とベクトル群補償に依存する。Y側とΔ側の位相差を補償し、三角側の零相欠落を考慮する。中性点CTは零相検出や高抵抗接地方式の地絡検出に有効である。CT比は負荷最大電流での誤差と短絡時の飽和を両立させ、一次側高X/RでのDC偏磁も見込む。VTは過励磁(24)のV/f演算や同期チェックに用い、畳み込み雑音に強い配線・シールドを採る。
整定と時限協調
差動(87T)はオフセット耐性とタップ変化を見込む比例制動カーブを採用し、励磁突入に対して二次高調波拘束や偶奇高調波判別の閾値を定める。過電流(50/51)は下位遮断器との選択継電協調のため限時整定を曲線族から選び、瞬時要素は外部短絡除去時間と機械的耐力で上限を決める。過励磁(24)はV/fが所定puを超過した持続時間で特性を定め、温度(49)は熱時定数と周囲温度で許容曲線を構築する。
誤動作対策と堅牢化
励磁突入では第2高調波成分の検出が一般的だが、最近の材料・設計では高調波比が低下する事例もあり、波形対称性・有効電力方向・復帰遅延との多重ロジックが有効である。CT飽和による差動流虚偽発生には制動強化、勾配制御、飽和検知で対処する。タップ偏差・温度上昇による比誤差は適正な自動タップ補償で吸収し、配線誤結線対策に包括的な二次回路試験を行う。
監視・診断・試験
DGA(溶存ガス分析)で故障モード(アーク、部分放電、過熱)の兆候を捉え、トレンド監視と比率診断を併用する。FRA(周波数応答)は機械的変形の確認に有効である。二次注入試験で保護リレーの動作特性・論理を検証し、一次試験や実負荷時の校正で系統条件を反映する。動作記録・故障波形は再現性確保のため時刻同期(PTP/IRIG)とイベントログ体系化が重要である。
系統連系と保護協調
上位の母線・線路保護との協調は、選択性・速断性・安定性のトレードオフで最適点を探る。再閉路の適用は変圧器内部故障では禁止され、外部一時故障では上位側のみで実施する。接地方式(高抵抗・低抵抗・固体接地)に応じて零相検出の感度と時限を最適化し、変圧器の中性点処置と保護範囲の境界を明確化する。
事故後解析と復旧方針
記録波形の電流・電圧・位相・高調波・差動/制動のトレンドを読み、内部/外部の判定と動作順序の整合を確認する。絶縁抵抗・絶縁油の水分・酸価・ガス増分を評価し、安全を確認してから再投入を検討する。OLTCや端子部の目視点検、局所温度上昇の有無、端子トルクの再確認など現場作業手順の標準化が必要である。
設計・実装の実務ポイント
端子箱・ケーブルの遮蔽と接地はノイズ耐性を左右する。DC制御電源は二重化し、トリップ回路はフェイルセーフ配線とする。保護ロジックはブロッキング/トリップの優先度、アラーム分離、自己診断を明確化し、設定管理はバージョン・差分・承認フローを備える。遮断器の定格遮断能力・開閉サイクル・合成短絡電流を満たすこと、変圧器の熱容量・短絡耐量との一貫性を保つことが肝要である。
用語の補足
「差動」は内部故障を流れる電流差、「制動」は外部故障やCT誤差で差動が膨らむのを抑える補償特性である。「励磁突入」は無負荷投入時の過渡で、直流偏磁と高次高調波を伴う。「過励磁」はV/f上昇に起因し鉄損増大と過熱を招く。「DGA」「FRA」はそれぞれ油中診断・機械的健全性評価の代表的手法である。
整定・検証の勘所
実機データに基づく整定見直し、月次のアラームレビュー、定修期の二次回路一斉点検、試験記録のトレーサビリティ確保をルーチン化すると、誤動作を未然に防ぎやすい。設計段階から運転・保全・解析が一体となる枠組みを構築することが高信頼化の近道である。