塗装ブース
塗装ブースは、塗料の飛散(オーバースプレー)と揮発性有機化合物(VOC)を制御し、塗装品質と作業者安全を確保するための局所排気・空調・照明を一体化した設備である。対象は液体塗料(溶剤系・水系)および粉体塗装で、一定の気流・温湿度・清浄度・照度を維持しながら、捕集フィルタと排気処理で環境負荷を低減する。製造現場では前処理・塗装・乾燥のライン中核として配置され、法令適合(労働安全衛生法、有機溶剤中毒予防規則、消防法など)にも寄与する。
機能と目的
塗装ブースの主目的は、(1)オーバースプレーの迅速な捕集、(2)作業域の負圧維持によるリスク低減、(3)均一気流と適正温湿度による外観品質安定、(4)VOC・粉じんの排出管理である。これにより、肌荒れ(オレンジピール)やタレ・ブツ・異物混入といった欠陥を低減し、再作業を抑制する。
方式の分類
- 気流:ダウンドラフト、セミダウンドラフト、クロスドラフト
- 捕集:乾式(多層紙・ファイバ・ブースフィルタ)、湿式(水カーテン・ベンチュリ)
- 構造:開放型、半密閉・全密閉型、加圧型(プッシュプル)
- 用途:液体塗装、粉体塗装(回収サイクロン・カートリッジ併設)
気流設計と風量
塗装ブースでは、作業面の面風速を目安に必要風量を算出する。一般に0.3〜0.5 m/s程度の均一気流が用いられ、開口面積Aとすると必要風量QはQ=A×面風速で概算できる。ブース内は外部に対し数Pa程度の負圧を維持し、漏洩を抑える。気流均一性は塗膜外観に直結するため、整流パネルや天井拡散板、CFD検討を用いる。
ろ過段・排気処理
乾式はプレフィルタ→メインフィルタ(高捕集型)→最終フィルタの多段構成が一般的である。高外観工程では微粒子対策に高性能フィルタ(例:HEPA相当)を採用する。湿式は水カーテンやベンチュリで塗料ミストを捕集し、スラッジ処理が必要となる。VOC対策は活性炭吸着、触媒酸化(RCO)、蓄熱式熱酸化(RTO)などを製品・負荷に応じて選定する。
防爆・安全インターロック
溶剤系を扱う塗装ブースでは、防爆モータ・防爆電気機器の採用、静電気対策(アース)、スプレーガンと送風機の連動、換気不足時の塗装禁止インターロック、火気・静電塗装のゾーニングが重要である。粉体塗装では粉じん爆発リスクを考慮し、着火源管理と粉じん濃度抑制を行う。
温湿度・清浄度・照明
塗装ブースの環境条件は、一般に20〜25 ℃、40〜65 %RHが目安である(塗料仕様に従う)。清浄度は上流加圧・下流排気の層流を意識し、塵埃発生源(床・治具)を低減する。照明は高演色かつ均一で、作業面の影を最小化する配置とし、保護カバーは耐溶剤材質とする。
設計パラメータと計算の流れ
- 対象ワーク寸法と開口面積Aを確定する。
- 求める面風速vを設定し、Q=A×vで基準風量を求める。
- 圧損(フィルタ、整流、ダクト、シロッコ/ターボファン)を加味し、ファン静圧を選定する。
- フィルタの初期圧損・終端圧損と交換サイクルを見込み、余裕風量を付与する。
- ダクト径は風速8〜12 m/s程度を目安に騒音・圧損とトレードオフで決める。
品質管理と検査
塗膜の外観・膜厚・付着性・硬度・耐溶剤性を工程内で確認する。乾膜厚(DFT)は渦電流式/磁気式膜厚計で測定し、ターゲット値とばらつきを管理する。ブツ・ピンホール・タレの発生は気流乱れ、温湿度逸脱、ガン設定、希釈比や固形分、フィルタ目詰まりなどと因果があるため、異常時は設備・塗料・操作条件を系統立てて切り分ける。
保全・運用の勘所
差圧計でフィルタ圧損の上昇を常時監視し、終端圧損到達で交換する。整流・照明・シールの汚染は気流と外観に直結するため、定期清掃と部材更新をルーチン化する。定期点検では風量・面風速・漏えい、インターロック作動、非常停止、静電アースを確認し、変更管理(MOC)で設定値の記録を残す。
法令・規格適合
塗装ブースは、局所排気装置としての性能確保、溶剤取扱いに関する換気量・発散抑制、消防法上の危険物・少量危険物の扱い、悪臭・VOC排出基準など、関係法令・条例に適合させる。粉体塗装では粉じん爆発対策指針に留意し、静電塗装は高電圧機器の取り扱いとアース基準を順守する。
周辺設備との連携
前処理(洗浄・化成皮膜)から塗装ブース、乾燥へと一気通貫で工程設計することで、密着性と外観のばらつきを抑制できる。搬送はタクト・段取りと同期させ、粉体では色替え時間短縮のためホッパ・ダクト清掃性に配慮する。治具設計は塗り残し・タレを防ぐ姿勢とアース確保を両立させる。
トラブル事例の要点
- ブツ増加:最終フィルタ寿命超過、整流板汚染、外気取り入れ口のシール不良
- タレ・肌:面風速不足、温度/希釈率不適合、ガン距離・角度不適正
- におい苦情:VOC処理能力不足、活性炭飽和、RTO稼働率・切替ミス
- 粉体飛散:回収風量と帯電条件不整合、色替え残渣