圧着工具|電線端子を高品質に圧着接続

圧着工具

圧着工具は、電線の導体と端子(ターミナル)を塑性変形で密着させ、低抵抗で気密性の高い接続を得るための専用工具である。はんだ付けと異なり熱影響が少なく、量産性と再現性に優れるため、自動車ワイヤハーネス、産業機器、鉄道、航空宇宙、建築電気設備まで広く用いられる。適切な金型(ダイス)と圧着条件を選定し、規格に準拠した検査を行うことで、振動・熱サイクル・湿潤環境においても長期信頼性を確保できる。

基本構造と作動原理

圧着工具は、ハンドル、ラチェット機構、リンク、可動・固定ダイスで構成される。ラチェットは所定のストロークに達するまで解除されず、中途解放による不完全圧着を防止する。ダイスは端子形状に合わせたプロファイル(例:F字、六角、インデント)を持ち、導体バレルと絶縁被覆支持部を段階的に成形する。適正な圧縮により導体間の空隙が消失し、金属間接触と拡散によってガスシール性の高い接続となる。

端子と適用導体

対象端子は、オープンバレル(開放形)、クローズドバレル(円筒形スリーブ)、絶縁被覆付丸形端子、スプライス、フェルール(端末スリーブ)などに大別される。導体は単線・撚り線(JIS相当のクラス)に対応し、錫めっき銅、ニッケルめっき、アルミ線用専用端子など材質も多様である。線サイズは「mm²」または「AWG」で規定され、端子メーカーが推奨する線径範囲とダイス組合せに合わせることが重要である。

圧着方式の種類

  • F圧着(オープンバレル):翼状のバレルを「F」形状に曲げ、導体部と被覆支持部を別々に成形する。軽量・量産向け。
  • 六角圧着(クローズド):スリーブを六角に均一圧縮し、360°にわたり接触面を確保する。電力端子や高電流用途で一般的。
  • インデント圧着:一点または多点の押し込みで塑性流動を起こす。高温域や特殊合金端子などで採用例がある。
  • 四点インデント(同軸):同軸コネクタの外部シールドやセンターピンで用いられる。

作業工程と品質管理

  1. 前処理:電線を規定長で切断し、ストリップは芯線傷防止とストランド乱れ最小化を徹底する。
  2. 圧着条件:圧着高さ(crimp height)や圧縮率、オフセットを端子仕様に合わせて設定する。
  3. 検査:外観(羽根の巻き込み、芯線はみ出し、被覆かみ込みの有無)、圧着高さ測定、引張試験(規格値以上)を行う。必要に応じて断面研磨でボイド率やメタルフローを確認する。
  4. トレーサビリティ:ロット、工具ID、ダイス番号、作業者、設備条件を記録し、工程能力を管理する。

工具の種類と適用

  • 手動ラチェット式:多品種小ロットに適し、現場保全や盤内配線で汎用。
  • 油圧・バッテリ式:圧縮力が大きく、60〜300 mm²級の電力端子六角圧着に適用。
  • 電動サーボ式:ストロークと荷重のモニタリングが可能で、波形監視による不良検知や見える化が進む。
  • 圧着機(アプリケータ+プレス):端子リール供給で高速量産。カッタ・ストリッパと連結した全自動機も一般的。

校正・保守と合否判定

圧着工具は、ダイス摩耗やリンクのがたつきが精度劣化を招くため、定期校正が不可欠である。ゲージピンによる開口確認、荷重校正、試作片での圧着高さ復元性評価を行う。ダイスの清掃・防錆、可動部の潤滑、消耗品交換履歴の管理により、長期の再現性を担保できる。合否判定は外観・寸法・引張強度・導通抵抗を総合で判断する。

失敗モードと対策

  • 芯線切断:過圧縮や刃当たりの不適合。ダイス選定見直しとストリップ長最適化で対策。
  • バレル割れ:材料脆化や低温時加工で発生。端子材質・めっき厚、圧縮率の許容範囲を検証。
  • すっぽ抜け:圧着高さ過大や線径不一致。指定線径と端子番手の整合を確認。
  • 絶縁かみ込み:導体部への被覆侵入。前処理・位置決めジグの精度改善で抑制。
  • 腐食・接触抵抗増大:環境シール不良。防水型端子、封止材、適切なめっき選定が有効。

規格・適合と表示

代表的な適合の目安として、配線完成品は「IPC/WHMA-A-620」の受入基準、端子・工具はメーカー仕様書およびJIS/IEC/ULの関連規定を参照する。引張試験の最小値、圧着高さ、外観許容範囲などが定められ、量産では抜取検査と工程内自動監視を併用する。端子表記(番手、適用線径、めっき)、工具側のダイス番号を明示し、誤選択を防ぐポカヨケが望ましい。

選定ポイント

  1. 電気性能:定格電流と許容温度上昇、接触抵抗の目標。
  2. 機械性能:引張強度、振動耐性、曲げ繰返し寿命。
  3. 環境条件:防水・防塵、耐薬品、耐塩害、難燃性。
  4. 生産性:段取り時間、交換ダイスの共通化、自動化互換。
  5. 品質保証:モニタリング機能、トレーサビリティ、校正容易性。

関連要素・周辺技術

盤内配線やハーネス設計では、結束、配線保護チューブ、ケーブルマーキング、端末処理の標準化が重要である。機械要素ではネジ・座金・ボルトの締結管理が筐体側の信頼性を左右する。工具管理は5SやTPMの枠組みで実施し、異常検知と予防保全を組み合わせることで、歩留まりとフィールド信頼性を同時に高められる。適合線材・端子・圧着工具の三位一体で設計し、初期段階から評価治具・検査治具を用意することが成功の近道である。

補足:フェルール圧着の注意

制御盤のスプリング端子台では、撚り線先端にフェルールを用いると挿抜安定性とメンテ性が向上する。ただし端子台推奨の四角圧着・六角圧着などプロファイル適合が前提で、過圧縮は導体断面欠損を招く。端子台メーカーの推奨工具・設定に合わせた検証が必要である。

補足:同軸・高周波の圧着

同軸コネクタでは外部シールドの六角圧着とセンターピンのインデント圧着を組み合わせ、反射損失とシールド性能を確保する。剥離長の公差や同軸径のばらつきがSパラメータに影響するため、治具化と作業手順書の整備が不可欠である。