回生制動
回生制動は、電動機を発電機として動作させ、運動エネルギーを電気エネルギーへ変換して系へ戻す制動方式である。摩擦により熱として失われる従来の機械ブレーキと異なり、エネルギーを再利用できる点が特徴で、電気鉄道や電気自動車、エレベータ、クレーンなどで広く採用される。制動トルクは回転速度や電力変換器の制御条件に依存し、低速域ではトルクが低下するため、機械ブレーキと協調(ブレンディング)するのが一般的である。
原理
電動機の機械入力(慣性による回転)を用いて逆起電力を発生させ、電流を電源側または蓄電装置へ逆潮流する。直流機では電機子電圧が電源電圧を上回る状態、交流誘導機では滑りが負(回転数が同期速度を上回る)となる状態で発電運転となる。出力は P=Tω で表され、同じ制動トルクでも回転角速度が高いほど回生電力は大きい。
方式の分類
回路構成と負荷の受け皿により、複数の方式に分かれる。現代ではパワーエレクトロニクスに基づくインバータ制御が主流で、回生可能な四象限(4Q)コンバータが用いられる。
直流機の回生
直流分巻機などでは電機子電圧が電源を上回る条件を保つよう界磁を制御し、電源側へ逆電力を返送する。チョッパ回路と組み合わせることで電流と電圧を制御し、安定した制動を実現する。
交流誘導機・同期機の回生
誘導機は同期速度を境に、超過すると発電運転となる。VVVFインバータ(PWM)では直流リンクの電圧上昇を検出し、グリッドや蓄電装置へエネルギーを戻す。同期機(IPMSM等)ではベクトル制御により力率やトルクを最適化し高効率な回生が可能である。
エネルギーの行先
回生電力の受け皿は系の成立条件で決まる。系が受入れ不能な場合は回生を抑制し、動的制動(抵抗器消費)へ切替える。
- 商用系統へ逆潮流:4Qコンバータで力率・高調波を抑えつつ電力系統に返送
- 車載蓄電池・スーパーキャパシタ:充電受入れ状態(SOC・温度・電圧)を満たす場合に回生
- DCリンク抵抗(ブレーキチョッパ):受入れ不可時に余剰を熱として消費
制御と安定化
回生制御では直流リンク電圧制限、過電流・過電圧保護、ジャンクション温度監視、接地・絶縁監視が重要となる。速度推定(センサレス)やベクトル制御によりトルク応答と効率を両立する。低速域での回生トルク低下は、周波数指令・励磁電流の最適化や機械ブレーキ協調で補う。
ブレーキチョッパ
DCリンク電圧が閾値を超えるとスイッチング素子(IGBT等)でブレーキ抵抗へエネルギーを逃がす。抵抗値は許容電力と熱容量から定め、過熱防止のための温度監視が必須である。
高調波・EMC
回生時もスイッチングによる高調波が発生するため、入力側アクティブフィルタやLCフィルタで抑制する。EN/IEC等のEMC規格に適合するよう、ケーブル配線・シールド・接地設計を行う。
協調制御(ブレンディング)
鉄道やEVでは、要求減速度に対してまず回生制動で賄い、残余を機械ブレーキで補完する。低速停止直前は回生トルクが低下するため機械ブレーキへスムーズに遷移する。路面条件や粘着係数の変動に応じ、滑走防止(WSP)やABSと連携させる。
応用分野
- 電気鉄道:列車の減速エネルギーを他列車の加速に供給。受電状況により発電・抑速・抵抗へ切替
- 電気自動車・HEV:SOC管理と熱マネジメントを考慮し、ペダル操作に同期してワンペダル感を調律
- エレベータ・クレーン:降荷時に回生、上昇時の消費電力を相殺し省エネに寄与
- 産業機械:サーボ系の減速・停止で回生、ライン全体の消費電力低減
設計指標と評価
評価は回生比(総制動エネルギーに対する回生で再利用できた割合)、効率(半導体損失・銅損・鉄損・フィルタ損失を含む総合)、電力品質(THD・力率)、熱設計(素子接合温度・抵抗器温度上昇)、安全(過電圧時のフェイルセーフ)で行う。要求減速度のプロファイルからトルク・電流・損失を時系列で見積もり、受け皿側の受入れ制約(系統容量、バッテリの充電制限)を満たすよう制御パラメータを最適化する。
制約と留意点
- 低速性能:電機子起電力低下により回生トルクが小さく、停止保持は機械ブレーキが担う
- 受入れ制限:系統事情やSOCが飽和すると回生停止し、抵抗消費に移行
- 熱と信頼性:頻繁な制動で素子・抵抗が発熱するため冷却設計・寿命評価が不可欠
- 安全:絶縁監視、過電圧リレー、非常停止時の制動優先順位の明確化
関連概念
回生制動は、VVVFインバータ、ベクトル制御、センサレス制御、PWM、ブレーキチョッパ、DCリンク、力率改善、THD、ABS/WSPと密接に関係する。設計では要求性能・エネルギーフロー・安全を統合的に捉え、システム全体での最適化を図ることが重要である。