周波数変調(FM)|周波数偏移で雑音に強い高品質通信

周波数変調(FM)

周波数変調(FM)は、搬送波の瞬時周波数を信号に応じて連続的に変化させる角度変調方式である。振幅を変えるAMと異なり包絡は一定で、非線形増幅器の利用による高効率送信が可能であり、雑音に対して強い特性をもつ。一方で、信号帯域に対して広い占有帯域を要する点が設計上の要点となる。放送、業務無線、計測、無線マイク、データ通信の基礎技術として広く用いられている。

原理と数式

連続時間信号をm(t)、搬送振幅をA_c、搬送周波数をf_c、周波数感度をk_f(Hz/V)とすると、周波数変調(FM)波は s(t)=A_c cos{2πf_c t+2πk_f∫m(t)dt} で表される。瞬時周波数は f_i(t)=f_c+k_f m(t) となり、最大周波数偏移は Δf=k_f|m(t)|_max で定義する。位相変調(PM)との関係は、FMが信号の積分で位相を変えるのに対し、PMは信号そのもので位相を変える点にある。

変調指数と帯域幅(Carsonの法則)

変調指数βは β=Δf/f_m(max) で与えられ、広帯域性と雑音耐性を規定する基本指標である。実用上の占有帯域はCarsonの法則により B≈2(Δf+f_m(max)) と近似される。例えば音声上限を15 kHz、放送用の最大偏移を±75 kHzとすると、およそ180 kHz規模の帯域を要することが分かる。

狭帯域FMと広帯域FM

β≪1の狭帯域FM(NBFM)では一次の側波帯が支配的となり、線形近似によりAM同様の解析が可能で、業務無線など狭いチャネルに適する。β≫1の広帯域FM(WBFM)では多数の側波帯が生成されるが、聴感上重要なSNR改善と歪低減が得られ、放送用途に適する。設計では要求SNR・占有帯域・チャネル間隔の折衝が中心となる。

生成方式

直接方式はVCOやバラクタを用いて周波数を信号で引き回す。広い偏移や安定度が必要な場合は、基準発振器と位相変調器を用いる間接方式(Armstrong法)を採用し、周波数逓倍でβを拡大する。実装ではベースバンドの帯域制限とプリエンファシス、周波数安定化(AFC)や温度補償、位相雑音の抑制が要点である。

復調方式

受信側ではリミッタによりAM成分を排した後、周波数‐電圧変換を行う。代表例はFoster-Seeley検波器やレシオ検波、傾斜検波である。高性能化やIC化にはPLL検波が広く用いられ、位相誤差の低減と低歪を実現する。デジタル信号処理では直交復調→位相unwrap→差分化による周波数検出が一般的である。

雑音耐性とSNR

周波数変調(FM)は包絡一定のため振幅性雑音に強く、βの増大に伴って理想的には出力SNRがおおむねβ^2に比例して改善する。一方、受信入力が低下するとしきい値効果により急激にSNRが悪化する領域が存在する。放送では高域のSNRを稼ぐためプリエンファシス/ディエンファシス(代表値50 µsまたは75 µs)を施し、全帯域での知覚歪と雑音を整える。

放送方式とステレオ

FM放送のベースバンド(MPX)は、0–15 kHzのL+R、19 kHzパイロット、38 kHzサブキャリアによるDSB-SCのL−R、さらに57 kHz近傍のRDS等で構成される。最大周波数偏移は放送規格で規定され、リミッタとパイロット位相同期によりステレオ再生の互換性を確保する。チャネル間隔は受信機選択度・ガード比と合わせて設計され、隣接妨害を抑制する。

応用例

  • 業務用移動通信(警備・物流等)のNBFM
  • アマチュア無線(144/430 MHz帯のFM音声)
  • ワイヤレスマイクやインカムの低遅延音声伝送
  • 計測・テレメトリ(回転数や変位の周波数出力センサ)
  • アナログTVの音声搬送
  • データ通信への拡張であるFSK/GFSK(BLE等)の基礎

AMやPMとの比較

AMは検波が簡易で帯域効率に優れる一方、振幅性雑音に弱い。周波数変調(FM)は包絡一定で非線形PAが使え、キャプチャ効果により強電界局を優先的に受信できるが、占有帯域が広い。PMは装置構成が似るが、プリエンファシス/ディエンファシスを併用する音声伝送ではFMが一般的である。用途・周波数資源・装置コストに応じて最適方式を選択する。

設計上の注意

最大偏移Δfと信号上限f_m(max)の見積りは占有帯域を直決し、周波数割当・チャネル間隔との整合が不可欠である。発振器の周波数安定度と位相雑音、IF/ベースバンドの群遅延平坦性、リミッタ・復調器の直線性、プリエンファシス量と制限器の設定、パイロットや副搬送の漏洩と隣接チャネル妨害の管理、測定では変調解析器やスペアナによるβ・帯域・歪・SNRの総合評価が重要である。