原点復帰
原点復帰は、位置決め機構(直動軸・回転軸)が制御上の基準座標を再確立する手順である。電源投入時やアラーム復帰後、非常停止後などに機械座標と制御座標のずれを正すことで、以後の自動運転における寸法精度・再現性・干渉回避を担保する。CNC工作機械、産業用ロボット、搬送装置、半導体製造装置、計測ステージなど幅広い分野で必須の初期化動作であり、信号設計・機械精度・運転プロファイル・安全回路の総合最適が要求される。
概要と目的
原点復帰の目的は、(1)物理基準点と論理原点の一致、(2)バックラッシュ・熱膨張・滑りの影響低減、(3)位置ループの安定化、である。原点は「機械原点(機械設計で定義)」と「制御原点(コントローラで定義)」に分かれ、前者を検出して後者へ反映するのが基本である。これによりプログラム座標(ワーク座標)や工具補正、パレット補正など上位の幾何学設定の信頼性が確立する。
制御方式:絶対位置と相対位置
サーボ系は大別して「絶対位置方式」と「相対位置方式」を持つ。絶対位置エンコーダは電源断後も多回転・単回転情報を保持し、通常は簡略化した原点復帰(検証動作)で済む。一方、相対位置方式では立ち上がり時に原点スイッチやZ相マークを検出し、原点補正値を演算して機械座標を確定する。絶対方式でも機械側の結合が外れた場合や電池異常時にはフルの原点取り直しが必要となる。
原点センサとマーカ
原点検出にはリミットスイッチ(メカ式/光電/近接)、ホームセンサ、エンコーダZ相、スケールのリファレンスマークが用いられる。一般に「減速接近→原点検出→バックオフ→微速再進入→Z相一致」の順に複合判定して座標を確定する。二重化やフェールセーフ配線を行い、チャタリングやヒステリシスを考慮したデバウンス時間、ソフトリミットとの整合をとる。
実装手順(一般的なステップ)
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原点近傍へ高速接近:ソフトリミット内で最大速度・加速度を制限し、衝突余裕を確保する。
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原点入力の立ち上がり検出:割込みまたは高速キャプチャで遅延を最小化する。
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バックオフ:反転してセンサを解放し、機械バックラッシュを片側に寄せる。
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微速再進入:低速で再び原点を跨ぎ、エンコーダZ相と合致させる。
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座標確定とオフセット付与:原点補正値、工具長/治具オフセット、熱補償テーブルをロードする。
エンコーダ選定と分解能
分解能は最小指令単位や繰返し精度に直結する。ねじ駆動ではリードとパルス当量の積で理論分解能を決め、位置ループの量子化雑音と速度推定精度のバランスを取る。リニアスケール併用の場合は、ボールねじの熱伸びや摩耗の影響を実座標で補償でき、原点マークを多点化することで原点復帰のロバスト性が高まる。多回転情報の保持方式(電池式/磁気式/機械式)も保全観点で検討する。
速度・加速度プロファイル
原点復帰では、トラペゾイドまたはS字加減速を用い、原点近傍で速度を十分に落とす。これにより、センサ遅延・機械弾性・摩擦によるオーバーランを抑制し、微速再進入で高い再現性を得る。多軸同時原点では干渉領域を避けるために軸間の優先順位と待ち条件(インターロック)を設ける。
安全設計と異常時対応
非常停止系は機能安全(例:カテゴリ/PL、SIL水準)に基づき、原点時も有効であることが望ましい。センサ断線検出、相反信号の整合、原点未確定フラグの管理を行い、異常時は減速停止→駆動遮断→許可条件クリア→手動モードでの再原点の順に復帰させる。ソフトリミットは原点確定前は広め、確定後は加工領域に合わせて厳密化する。
産業安全との関係
安全ドア、ライトカーテン、トルクオフ等は原点復帰時の動作モードと整合させる。ティーチング速度制限、保持ブレーキの開放条件、補助支持具の使用など、据付環境に応じた手順書を整備することが重要である。
CNC・FA・ロボットでの事例
CNCでは各軸を独立原点後、マシンゼロに対してワーク座標(G54等)を設定する。搬送ラインではタクト短縮のために原点をライン停止中に並列実行し、ステーション到達後の微修正で精度を確保する。ロボットはジョイント毎のホーム姿勢とTCPのベース定義を整合し、エンコーダリセット時はマスタリング手順を経て姿勢誤差を排除する。
トラブルシューティング
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再現性不良:センサ位置の機械剛性不足、ヒステリシス、デバウンス不足を疑う。
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オーバーラン:減速切替点の位置、微速値、摩擦補償、荷重変動を見直す。
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原点未確定:配線断、電池電圧低下、Z相未検出、ソフトリミット衝突の順に点検する。
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多軸干渉:原点順序とエリア監視、仮想フェンスの閾値を調整する。
パラメータ設計の勘所
原点接近速度は最大移動量と停止距離から逆算し、微速はセンサ分解能と演算周期から過不足なく設定する。バックオフ量はねじのバックラッシュと機械弾性を吸収する値とし、測定に基づく最適化を行う。原点補正は温度ドリフトや治具交換を考慮して季節・時間帯での再評価を計画に組み込むと、長期安定性が向上する。