労働安全衛生法|職場の安全基準と健康管理体制整備

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、事業場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を図る基本法である。労働基準法が労働条件の最低基準を定めるのに対し、本法は危険・有害要因の除去低減、組織的管理、技術的対策、労働衛生の各面から総合的な枠組みを与える。製造業・建設業・化学産業など幅広い分野で、設備設計から作業手順、教育、記録・報告まで一体的な実務が求められる。

目的と位置づけ

労働安全衛生法の目的は、労働災害の防止と健康保持増進である。災害の未然防止を最優先とし、危険源の特定・除去という工学的アプローチと、管理的・教育的対策を組み合わせる。労働基準法、消防法、高圧ガス保安法、化審法、PRTR制度など関連制度との整合を取りつつ、事業者責任と労働者参加を制度化する。

適用範囲と主体

常時使用労働者の有無・規模に応じて、事業者には安全衛生管理体制の構築が義務付けられる。一定規模以上で総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医の選任が必要となる。元方事業者は下請を含む混在作業の安全調整義務を負い、建設現場や製造拠点では協議組織・連絡調整が必須である。

基本枠組み:リスクアセスメント

危険・有害要因を洗い出し、発生頻度と重篤度で評価し、優先度順に低減策を講じる。対策の原則は「除去・代替→工学的対策(ガード・覆い・局排)→管理的対策(手順・標識・許可)→個人用保護具(PPE)」の順である。実施プロセスは、特定→見積→評価→対策→記録→見直しの循環で標準化する。

機械設備の安全

プレス機、ロール機、コンベヤ、ロボットなどは、ガード、非常停止、インターロック、両手操作、ライトカーテン等の安全方策を組み合わせる。点検・保全時はエネルギー遮断(ロックアウト/タグアウト)を徹底し、予期せぬ始動や重力落下、残留圧力を防ぐ。改造・段取り替え時は変更管理と再評価を行う。

化学物質管理と表示・SDS

有機溶剤、特定化学物質、金属類、粉じん等は、リスクに応じた局所排気、密閉化、湿式化、代替・削減を行う。容器表示とSDSの入手・備付・周知は基本であり、GHSに準拠した危険有害性情報の伝達を徹底する。保管は区分・換気・温度管理・防爆の観点で設計し、漏えい・火災時の初動手順を整備する。

作業環境測定と許容濃度

有機溶剤作業、粉じん作業等では定期的な作業環境測定を実施し、管理区分に基づき改善を行う。気中濃度、騒音・振動、暑熱・寒冷、照度、紫外線・電離放射線などの物理的要因も評価対象である。測定結果は作業条件の是正、換気設備の更新、保護具の選定の根拠となる。

健康管理と産業保健

雇入時・定期・特殊健康診断を通じて健康リスクを把握し、就業上の措置を講ずる。長時間労働対策、メンタルヘルス、ストレスチェックも重要領域である。産業医は面接指導、職場巡視、衛生教育、復職支援に関与し、個別配慮と職場改善を両輪で進める。

建設・工事における安全

足場、開口部、墜落・落下、掘削・土留、クレーン・玉掛け、型枠支保工などの典型災害に対し、計画届、組立解体の手順書、合図・監視体制、立入禁止の設定、吊荷下禁止を徹底する。重機接触防止のための通路分離、誘導員配置、死角対策(カメラ・アラート)も必須である。

教育・資格・許可制度

新規入場者教育、職長・安全衛生責任者教育、危険有害作業ごとの技能講習・特別教育・免許制度により能力を保証する。作業許可(熱作業、高所、酸欠、密閉空間、受電)をルール化し、チェックリストと作業前点検で逸脱を防ぐ。ヒヤリハット収集とKY/TBMは現場の知見を形式知化する手段である。

記録・表示・報告

災害・未然事例、点検・保守、教育、健康診断、作業環境測定、化学物質台帳、廃棄・漏えい対応などの記録を整備し、保存期間と改ざん防止を明確化する。標識・ラベル・掲示板は一貫したピクト・文言で即時性を高め、重篤災害は所定の手続で所轄へ報告する。

行政措置・罰則と自主的取組

重大な違反には使用停止、作業中止、改善命令等が発出され得る。一方で、労使協議と自主管理を基礎に、PDCAと監査、トップコミットメント、目標・指標(KPI)の運用を通じて継続的改善を行う。協力会社を含むサプライチェーンでの水準統一が有効である。

ISO 45001・JISとの関係

マネジメントシステムとしてのISO 45001は、法令順守を前提に危険源把握、是正・予防、労働者参画、パフォーマンス評価を要求する。内部監査や是正処置は、法定点検や改善命令対応と相互補完関係にあり、目標・評価指標の整合が鍵となる。

設計・調達・保全に組み込む実務

設備・治具・化学品の採用前に安全審査を実施し、代替可能性、発火爆発性、防爆等級、保守性(メンテナビリティ)を評価する。ライフサイクル全体で安全機能要求水準、冗長化、フェイルセーフを設計に織り込み、稼働後は変更管理と点検基準で逸脱を抑える。緊急時対応計画は訓練で検証し、復旧・再発防止策を迅速に実装する。

中小事業場での留意点

体制や専門人材が限られる場合は、ハザードの上位20%に資源を集中し、外部専門家の支援、共同受診・共同測定、共通教育教材の活用で水準を底上げする。簡易な行動観察と日次KYTでも災害の多くは抑制できる。

デジタル活用

可視化(ダッシュボード)、ウェアラブル、映像AI、電子許可、多言語SDS検索などのDXは、見落とし削減と教育の質向上に寄与する。データは是正の優先度付けと投資配分に直結するため、粒度と鮮度を保つことが重要である。