剛体リンク法
剛体リンク法は、構造解析や機械系モデリングにおいて、離散化した複数点を「理想剛体」で結び、相対変形を許さずに運動学的拘束(多点拘束:MPC)を課す手法である。有限要素法(FEM)では節点群の変位・回転を代表節点(マスター)に従属させ、荷重や境界条件を安定に伝達するために用いられる。実務では剛体要素(例:RBE2)や結合拘束(RBAR、TIE)として実装され、荷重導入の“スパイダー”、剛体部品の簡略化、オフセット拘束、剛床仮定などに広く活用される。
基本概念と数理
剛体リンク法では、マスター節点の並進変位δmと回転θmから、剛体内の任意位置ベクトルrにあるスレーブ節点の変位δsをδs=δm+θm×rとして与える(微小回転仮定)。この運動学関係は変位変換行列Tによりスレーブ自由度をマスター自由度へ写像する形で組み込まれる。数値実装は、(1)自由度の消去(縮約)、(2)ラグランジュ未定乗数、(3)ペナルティ法のいずれかで行う。縮約は剛で安定だが冗長拘束に敏感、ペナルティは調整が容易だが過大係数で条件数が悪化しうる。
主な用途
- 荷重導入:点荷重の集中を避け、面・周辺節点へ分配する“剛体スパイダー”で数値的安定と応力分布の平滑化を図る。
- 剛体部品の簡略化:ボス・治具・工具など剛性の高い小部品をソリッド等で詳細メッシュ化せず、剛体化して計算コストを削減する。
- オフセット拘束:ボルト座面や溶接トウなど、幾何学的オフセットを持つ接合点の整合を取り、実際の力学的アーム長を忠実に再現する。
- 剛床・剛隔膜の近似:建築・振動解析で床スラブを平面内剛とみなし、柱・壁の水平変位を床中心の自由度に束ねる。
- 機構近似:連続体の一部を剛体リンク列+回転ばね・ダンパで置換し、低次元モデル(ROM)として応答を素早く評価する。
解析上の注意点
剛体リンク法は便利である一方、過剰拘束や剛性の“盛り”に注意が必要である。剛体化によりスレーブ点間の相対せん断・曲げが抑制され、局所剛性が過大評価となる恐れがある。固定端近傍や曲げ主応力が卓越する位置に大きな剛体領域を作ると、応力ピークが移動・拡大することがある。また、冗長拘束は特異行列や不安定モードの原因となる。動的解析では剛体リンク自体は質量ゼロであることが多く、接続部の実質量・慣性を別途付与しないと固有値が非現実的になる場合がある。陽解法では局所剛性増大に伴い安定時間刻みが縮小する点にも留意する。
RBE2/RBE3・MPC・TIEの違い
RBE2はスレーブ節点の全自由度をマスターへ強制結合する“剛結”で、幾何拘束が厳密である。RBE3は荷重・運動を重み付きで分配・収集する補間要素で、剛性を付与しないため剛化の副作用が小さい。一般化MPCは回転のみ・面内のみといった選択的拘束が柔軟である。TIE(例:Abaqus)は接触面の節点不一致を許しつつ面同士を結合する機能で、メッシュ連成に適する。剛性の過大評価を避けたい荷重分配にはRBE3、幾何拘束が本質な部位にはRBE2/TIEを選ぶのが定石である。
モデル化手順の例
- 幾何学の意図確認:何を剛体とみなし、どの自由度を束ねるのかを決める(面内・面外、回転の有無)。
- 代表点の設定:マスター節点(重心や基準穴中心)を定義し、スレーブ候補を選ぶ。
- 結合タイプの選定:RBE2(厳格)かRBE3(分配)か、またはMPC/TIEを選ぶ。
- 質量・慣性の付与:必要に応じて剛体に相当する集中質量・慣性テンソルを与える。
- 検証:自由度数、剛体モード数(6自由度)を確認し、固有値・反力・応力の妥当性をチェックする。
近似モデルとしての応用
剛体リンク法は、連続梁・アームの曲げを、複数の剛体リンクと回転ばね(ねじり剛性)で段付き近似する低次元化にも用いられる。リンク長を部材長に対応させ、各関節ばねにEI/ℓの等価剛性を与えることで一次モードの形状・固有振動数を概ね再現できる。多関節ロボットのアーム、精密搬送のスカラ機構などで、柔軟性の影響(残留振動、共振回避、フィードバック設計)を迅速に評価する際に有効である。制御系と同時最適化する場合は、剛体リンク+粘性ダンパでヒステリシスや減衰を取り込む。
実務上のヒント
荷重を面に与えるときは、RBE3で分配→RBE2で幾何拘束という二段使いが安全である。剛体領域は必要最小限とし、曲げ主応力の評価点に剛体端を置かない。オフセット拘束では、マスターの回転自由度を有効化してアーム長に伴うモーメント伝達を確保する。メッシュ非一致の貼り合わせにはTIE、トポロジーが複雑な場合はMPCの選択拘束(法線方向のみ等)を活用する。