冷凍庫
冷凍庫は食品や試料の温度を水の氷点より十分に下げて長期保存を可能にする熱機器である。蒸発器で低温・低圧の冷媒を沸騰させて潜熱を奪い、圧縮機で圧縮し、凝縮器で放熱し、膨張弁で減圧する蒸気圧縮サイクルが基本である。家庭用から業務・研究用途まで広く用いられ、温度帯、庫内容量、断熱性能、制御方式、電気安全・EMCなどの要件が異なる。適切な選定・設置・運用によりエネルギー消費を抑えつつ内容物の品質を保持できる。
冷凍サイクルの基礎
蒸気圧縮サイクルはカルノーサイクルの実用形であり、蒸発器(吸熱)、圧縮機(昇圧・昇温)、凝縮器(放熱)、膨張弁(減圧)の4要素で循環する。蒸発温度は目標庫内温度より数K低く設定され、凝縮温度は周囲温度と熱交換条件で決まる。膨張弁はキャピラリやサーモスタット式膨張弁、電子膨張弁が用いられ、過熱度制御の巧拙が安定性と効率を左右する。
温度帯と用途
一般に家庭用は−18℃程度、業務用は−25〜−30℃、試験・研究用では−40℃以下や超低温(−80℃級)もある。温度帯に応じて冷媒選定、圧縮機の容積比、油種、シール材、断熱厚みが変わる。食品用途では温度むら、ドア開閉による熱侵入、庫内風速が品質保持に直結するため、ファン制御と気流設計が重要である。
冷媒と環境配慮
冷媒は可燃性を含む炭化水素系(R600a等)、HFC(R134a等)、HFO混合系などが用いられる。選定ではGWP、可燃性区分、熱物性、潤滑油適合性、入手性、将来規制を考慮する。可燃冷媒ではリーク時の安全設計(発火源管理、換気、充填量上限)と検知が要る。熱交換器は微細管・多段フィンで圧力損失と霜付きを両立させる。
圧縮機とインバータ制御
圧縮機はレシプロ、ロータリ、スクロールが主で、小型ではロータリが普及する。インバータ駆動により回転数を連続制御し、部分負荷効率と温度安定性を高める。始動時突入を抑えるためのソフトスタート、PWMキャリア設計、モータ温度保護が必須であり、騒音・振動の低減には防振マウントと配管の共振回避が効く。
断熱・気密設計
庫体は硬質ウレタン等の高断熱材を一体発泡し、熱橋を最小化する。ドア周囲はヒーターや多重パッキンで結露・霜付きを抑える。気密が悪いと浸入水分で霜が増え、蒸発器の伝熱低下とファン負荷増につながる。設計時は周囲温度と据付環境を想定し、背面クリアランスと排気流路を確保する。
霜取り方式
霜取りはヒーター式(定期通電)、ホットガス式(吐出ガス逆流)、オートデフロスト(間欠運転)などがある。霜取りの頻度・タイミングは庫内湿度・開閉履歴・蒸発器温度トレンドで適応制御するとよい。溶けた霜はドレン処理が必要で、配管の凍結・臭気逆流を避ける勾配・トラップ設計が重要である。
性能指標と試験条件
効率はCOPやEERで評価する。測定は周囲温度、負荷、ドア開閉条件、到達時間などの標準化が前提である。部分負荷効率や年間消費電力量は制御戦略に依存し、インバータの制御カーブ、ファンの段調、デフロストアルゴリズムが寄与する。温度均一性は多点センサーで評価し、最大偏差を管理する。
熱負荷と据付
熱負荷は伝導・対流・放射・浸入空気・内容物投入によって決まる。設計では断熱熱流(U値×面積×ΔT)、開閉頻度による浸入顕熱・潜熱、初期冷却の引き込み容量を見込む。据付時は背面・側面に放熱経路を確保し、周囲温度が高い場所や直射日光を避ける。レベル調整はドアの気密にも影響する。
食品の凍結品質
凍結速度は氷結晶のサイズとドリップに影響する。急速凍結では細胞破壊を抑え品質を保持できるが、風速と熱伝達、トレイ材質、積載密度が支配的である。塩分・糖分による氷点降下で実効凍結温度は下がるため、設定温度と到達時間の最適化が必要である。庫内乾燥はフリーザーバーンを誘発するため包装も重要である。
急速凍結と緩慢凍結の差
急速凍結は氷結晶が微細で復元性が高い。一方、緩慢凍結は大粒化しドリップ増につながる。実機ではファン風路、ラック間隔、トレイ熱容量、製品の前処理(予冷)が効く。温度プローブで中心温度の通過時間(最大氷結晶生成帯)を監視し、工程能力を定量管理する。
センサーと制御
温度はNTCサーミスタ等で計測し、PIDやヒステリシス制御で圧縮機・ファン・デフロストを協調させる。ドアスイッチで照明やファン停止を連動し、開放警報を出す。霜検知は蒸発器ΔTやファン電流、風量低下指標で行う。ログ記録は品質トレーサビリティや予知保全に有用である。
電気安全とEMC
家電安全では感電・発火防止、温度上昇限度、クリアランスと沿面距離、可燃冷媒対応のアース・防爆区分などを満たす。インバータは伝導・放射ノイズ対策としてフィルタ、シールド、アース設計、スイッチング波形のdv/dt低減が要る。漏電遮断器の選定は起動電流やノイズ誤動作を考慮する。
家庭用と業務用の差異
家庭用は省エネ・静音・使い勝手を重視し、引き出し式や霜取り自動化が進む。業務・研究用途は到達温度、引き込み能力、清掃性、耐久性、温度記録の信頼性が重要で、ステンレス内装や強制対流、高出力デフロストを備える。法規・衛生要件や搬入経路も事前検討が必要である。
選定の実務ポイント
必要容量は日最大投入質量、希望到達時間、周囲条件から逆算する。棚ピッチや有効開口は実運用の作業性を左右する。運転音・振動、待機電力、デフロスト後の復帰時間、停電復帰のフェイルセーフ、清掃しやすさ、保証とサービス網を確認する。可燃冷媒機では設置空間の体積と換気を評価する。
保守と故障診断
定期的にドアパッキン、凝縮器フィン、ドレンを清掃し、温度・電流ログを点検する。冷え不良は冷媒不足、霜詰まり、ファン停止、圧縮機劣化、膨張弁詰まりなどが原因となる。過負荷リレーの動作や起動不能は電源品質やコンデンサ劣化も疑う。高圧側の作業は有資格者が行い、漏えい時は換気と遮断を徹底する。
冷凍庫の省エネ運用では、詰め込み過ぎを避け気流を確保し、熱い内容物を直接入れず、ドア開放時間を短縮し、背面放熱を妨げないことが要点である。年間を通じて周囲温度と負荷を見直し、制御パラメータとデフロスト条件を適正化すれば、効率と品質の両立が実現できる。