共振
共振とは、系の固有振動数に外力の振動数が一致または接近したときに振幅が著しく増大する現象である。エネルギーが位相よく供給され蓄積されるため、減衰が小さいほど応答が鋭く大きくなる。1自由度モデルでは固有円振動数がω_n=sqrt(k/m)、固有振動数がf_n=ω_n/2πで表され、ここでmは質量、kはばね定数である。強制振動では外力の角振動数ωがω_nに一致するとピークを生じ、応力や変位の過大化によって疲労破壊、ボルト緩み、騒音増大などの不具合が起こり得る。一方、楽器やフィルタ、アンテナの選択性向上など、共振は有用にも設計的に利用される。
自由振動と固有振動数
減衰と外力がない自由振動では、初期変位や初期速度に応じて固有角振動数ω_nで正弦振動する。ばね—質量系ではω_n=sqrt(k/m)であり、回転系ならω_n=sqrt(K/I)(Kはねじり剛性、Iは慣性モーメント)である。境界条件や拘束が変わると固有振動数は変化するため、設計段階で目標使用域から十分に離す「デチューニング」により共振回避を図るのが基本である。
強制振動と周波数応答
調和外力F_0 sin(ωt)を受ける1自由度系の定常応答は、振幅比|H(ω)|で特徴づけられる周波数応答関数(FRF)で記述できる。粘性減衰比をζとすると共振近傍で|H|は大きくなり、位相は0→-πへ急峻に遷移する。BodeやNyquistで可視化すると、共振のピーク位置(≈ω_d=ω_n sqrt(1-2ζ^2))やピーク高さが把握でき、設計上の危険域を定量評価できる。
減衰とQ
減衰は振幅の尖鋭さを決める。粘性減衰比ζが小さいほどピークは高く狭くなり、品質係数Q=1/(2ζ)で表される選択性が増す。半値幅法ではピークの-3 dB点(振幅√1/2)の周波数差からQを推定できる。材料内部摩擦や摩擦接触、流体抵抗など減衰源を意図的に増やすことは、共振の実用的な抑制策となる。
設計上の回避策
- 固有振動数の移動: 質量mや剛性kを調整して使用域から離す(±20%目安)。
- 減衰付与: ダンパ、制振材、粘弾性層でζを増加させる。
- 絶縁・切り離し: 防振ゴムやアイソレータで励振の伝達を遮断する。
- 位相管理: 駆動条件やフィードバックを調整し励振源を低減する。
- 局所対策: スティフナ追加、リブ配置、結合部の締結最適化。
モード解析と多自由度
現実の構造は多自由度で複数の固有モードを持つ。各モードは固有振動数と固有ベクトル(変形形状)を持ち、外力が特定モード形状と整合するとそのモードで共振しやすい。モーダルテストや有限要素法(FEA)でモードを把握し、支配的モードの質量参加率や節点位置を基に補強や制振を行うのが合理的である。
代表的な実例
回転機のアンバランスによる軸共振、工具—工作物系のびびり、建築物の風励振、配管の流体励起、歩道橋の群集同期、車両のサスペンションやタイヤの帯域共振など、励振源は回転、流体、接触、突発衝撃など多岐にわたる。実機では複合要因が同時に作用し、運転点の微小変化で応答が大きく変わることに注意する。
簡易計算例
m=1 kg、k=1000 N/mの系ではω_n=sqrt(1000/1)=31.62 rad/s、f_n=ω_n/2π≈5.03 Hzである。ζ=0.02ならQ=25で、共振時の振幅倍率は約1/(2ζ)=25に達する。励振が0.2 g相当でも応答は5 g級になり得ることを示し、微小な励振でも減衰が小さい系では過大応答となる危険性を理解できる。
実験的同定
- インパルスハンマまたはシェーカで励振し、加速度計で応答を取得する。
- FRFを算出しピーク周波数から共振を読み取る。半値幅でQやζを推定する。
- 自由減衰波形の対数減衰率δ=(1/n)ln(x0/xn)からζ≈δ/2πを求める(小減衰近似)。
- FFTで運転中のオーダ解析を行い、運転周波数と共振の干渉を監視する。
誤解しやすい現象の区別
拍(beat)は近接する2周波の干渉で包絡が脈動する現象であり、厳密な共振とは異なる。ロックイン(自励同期)や渦励振は流力—構造連成による自励的増幅で、外力の単純な調和励振ではない。故障診断では原因特定のため、励振源の性質と系のモード特性を分離して評価する。
電気回路との類比
RLC直列回路は機械1自由度系の良い類比で、m↔L、k↔1/C、c↔Rが対応する。共振角周波数はω_0=1/sqrt(LC)で、Q=ω_0L/Rに相当する。電気—機械のアナロジーを用いると、フィルタ設計の知見を機械の共振制御に移植でき、逆に構造制振の直感を回路設計にも応用できる。
規格・評価指標
用語はISO 2041に整理され、回転機の振動評価ではISO 10816系が参照されることが多い。評価量はRMSやpeak、peak-to-peakがあり、帯域や検出方向を明確にする。構造健全性では、共振による応力集中を許容応力や疲労強度と照合し、保全では状態監視(CBM)でピークの移動やQの変化をトレンド管理する。
設備保全と診断
運転条件が変動する設備では、可変速の通過共振が問題となる。起動停止時のランアップ/ランダウンでBodeプロットを記録し、危険速度域の滞留を避ける手順を策定する。締結の緩みや摩耗はζやkを変え、ピーク位置と形状を変化させるため、定期的な再同定でモデルを更新し、対策の有効性を検証することが重要である。
設計検証と試験
設計段階ではFEAでモード余裕(使用域からの離隔)と感度を評価し、試作ではsine sweepやrandom試験で共振応答を確認する。部品ごとの固有値チューニング、結合部の剛性実測、制振材の最適配置を反復し、量産移行時のばらつきにも耐えるようQ管理と製造公差を含めて仕様化する。