充電インレット
充電インレットとは、電気自動車やプラグインハイブリッド車において外部のEVSEから車両へ電力と信号を受け渡す受口であり、いわゆる充電口やチャージポートの機械・電気インターフェースである。車体外板に固定され、AC充電用(SAE J1772/IEC 62196 Type 1/2)およびDC急速充電用(CHAdeMO、CCS、GB/Tなど)の端子群、パイロット信号(CP/PP)、温度センサ、ロック機構、シール・シャッター類を備える。使用時はコネクタ差し込み、手順信号のハンドシェイク、通電、充電終了、抜去の順に制御されるため、安全・防水・耐久性の各要件が厳しく求められる。
役割と機能
充電インレットの主機能は、①大電流の受電(AC/DC)、②ユーザの誤操作や漏電からの保護、③EVSEとの通信による充電可否・電流制御・課金等の条件交渉、の三点である。AC充電ではCP(Control Pilot)/PP(Proximity Pilot)によりケーブル許容電流や接続状態を判定し、OBC(オンボードチャージャー)へ電力を導く。DC急速ではBMSがEVSEとCANまたはPLCを介して電圧・電流・SOC目標を協調し、バッテリへ直結する。いずれも機械ロックにより通電中の抜去を防止する。
構造と主要部品
充電インレットは、難燃樹脂ハウジングに大電流用のメイン端子(ACのL/Nまたは三相、DCのDC+/DC-)と信号端子(CP/PP)を一体成形し、パッキン・ガスケットでIP等級(一般にIP67〜IP69K)を確保する。端子表面は銀や錫のめっきで接触抵抗と耐食性を低減し、温度上昇を監視するNTCセンサをDC端子近傍に配置する。前面にはシャッター、外側にはヒンジ付きドア、内部にはロックアクチュエータ、結露排水のドレン経路、寒冷地向けのヒータや照明リングを備えることが多い。
ピン配置と規格の例
- AC(SAE J1772/IEC 62196 Type 1/2):L1/L2/L3、N、PEに加えてCP/PP信号を備える。
- DC(CCS Combo/CHAdeMO/GB/T):大径のDC+/DC-と制御用信号端子。CCSはPLC、CHAdeMOはCANを介したプロトコルを採用する。
これにより充電インレットは地域・車種差を吸収しつつ誤挿入を防ぐキー形状を実現する。接点断面積、ばね荷重、表面粗さは接触抵抗・発熱と寿命を左右し、充電電流に応じた熱設計(フィン、銅バー厚、樹脂熱変形温度)を行う。
安全機能とインターロック
充電インレットの安全は多層である。HVIL(High Voltage Interlock)はカバー開やコネクタ抜去を検知し高電圧系を遮断する。ロック機構は通電中の抜去を機械的に阻止し、CP/PPは接続状態やケーブル定格を連続監視する。絶縁監視、接地不良検出、温度上昇の閾値管理によりサーマルダレーティングや強制停止を行い、アークや端子焼損を未然に抑制する。
規格・適合性
充電インレットはIEC 62196、SAE J1772、ISO 15118、DIN 70121、CHAdeMO、GB/T 20234等の規格群に適合する必要がある。外観表示、極性、キー形状、耐電圧、温度上昇限界、耐久サイクル(数千回)、挿入力、塩水噴霧、振動・衝撃、耐薬品、難燃(UL94 V-0相当)などの個別要件が定められ、さらにOEM独自の車載規格(EMC、低温氷結、洗車圧水、砂塵)に合格することが求められる。
車体への取付とシール設計
車体側では充電インレットを外板開口へブラケットで固定し、荷重・振動を分散する。開口フランジに二重リップのウェザシールとドレンを設け、洗車や豪雨時の浸水・滞水を防ぐ。ドア開角度、ユーザの手元スペース、夜間視認性(LEDリング)も人間工学上の重要要素である。金属部の電食対策(異種金属接触の回避、シーラント、表面処理)も耐久を左右する。
熱設計と材料選定
DC急速では数百A級の電流が流れるため、充電インレットの端子・導体は低抵抗かつ放熱性に優れた設計を要する。端子のばね接圧、表面めっき厚、導体断面、樹脂の熱変形温度、ヒートパスを総合最適化する。液冷ケーブルとの界面では冷媒漏れのリスクを考慮し、熱センサの冗長や温度分布解析を用いてホットスポットを抑える。
通信と認証
充電インレットは単なる受電口ではなく通信のゲートでもある。ACではPWMによるCP信号で電流容量を協調し、DCのCCSではPLCによるISO 15118で充電プロファイル、ケーブル冷却、Plug&Chargeなどを交渉する。CHAdeMOではCANでBMSとEVSEが制御量を交換する。これらの信号は車両側ECU(VCU/OBC/BMS)と連携し、フェイルセーフ時は安全停止へ遷移する。
診断・メンテナンス
実機では接点摩耗、異物噛み込み、腐食、ロック不良、ドアの破損、氷結による固着が典型トラブルである。充電インレットの診断はCP/PP波形、温度上昇、ロック位置検出、雨天時の絶縁抵抗、リーク電流を確認する。定期清掃では非導電ブラシ・乾燥エアを用い、潤滑剤の誤塗布は厳禁である。端子焼損が見られる場合はハーネス・OBC側の抵抗上昇も併せて点検する。
ユーザビリティとHMI
- ガイダンス:挿入方向のキー形状、夜間用LED、充電ステータスの外部表示。
- 耐候性:雨滴や粉塵を持ち込まないシャッター機構、氷結対策のヒータ。
- 防犯:車両ロック連動、抜去防止のモータロック、いたずら検知。
車両側のドア開閉機構(いわゆる充電ポートドアアクチュエータ)や自動開閉の同期制御も、充電インレットの利用体験を左右する要素である。
設計の勘所(AC/DC共通)
- 電気性能:接触抵抗と温度上昇の余裕設計、導体断面とクランプ力の整合。
- シール:IP67/69K達成のための多層シールと圧縮量管理、ドレン設計。
- 安全:HVIL、遮断手順、感電保護、アーク抑制、温度フェイルセーフ。
- 規格:IEC/SAE/ISO/地域規格の両立とラベリング、誤挿入防止キー。
- 製造:公差連鎖、メッキ厚ばらつき、挿抜サイクル寿命の工程内評価。
将来的には高出力DCの普及、V2G/V2Hの双方向化、Plug&Chargeなどの課金・認証一体化が進み、充電インレットには更なる熱・通信・セキュリティ要件が課される。軽量で耐久性に優れ、ユーザビリティと安全を両立する設計が、電動車の使い勝手と信頼性を決定づけるのである。