位置決め
位置決めとは、対象物やエンドエフェクタを所望の座標(直線・回転)へ迅速かつ精確に移動させ、所定の許容誤差内で停止・保持させる技術である。機械要素(ボールねじ、直動案内)、アクチュエータ(サーボモータ、リニアモータ、空圧・油圧)、検出器(エンコーダ、リニアスケール)、制御器(PID、前置補償、軌道生成)などの総合設計を通じて性能が決定する。産業用途ではCNC工作機械、ロボット、搬送・検査装置、半導体製造装置などで中核機能を担う。
基本概念と座標系
位置は絶対座標と相対座標で扱う。絶対位置決めは基準スケールに対する一意の座標へ到達させる方式で、リニアスケールやアブソリュートエンコーダを併用する。相対位置決めは現在値からの増分指令であり、繰返し動作やピッチ送りに適する。直交座標、極座標、関節座標(ロボット)など、機構に応じた表現を選ぶ。角度と直線位置の変換、ギヤ比やねじリードによる換算、原点復帰(ホーム)手順の設計が前提となる。
制御方式:開ループと閉ループ
開ループはステッピングモータなどで指令パルス数=移動量とみなす方式で構成が簡素であるが、負荷変動や共振で脱調の恐れがある。閉ループはフィードバックにより位置誤差を最小化し、応答性・外乱抑圧・繰返し精度に優れる。実務では位置ループの外側に速度・電流ループを持つ階層構造が一般的で、電流(トルク)制御が最内周、速度制御が中間、位置制御が最外周に配置される。
軌道生成と時間最適化
高速かつ安定な位置決めには加減速プロファイルが重要である。台形加減速は実装容易で、S字加減速はジャークを抑えて機械的衝撃と振動励起を低減する。点到達型(PTP)では移動時間と整定時間の総和を最小化する。輪郭制御では多軸補間(直線・円弧・スプライン)と同期誤差の管理が要点となる。前置補償(モデルベースの速度・加速度フィードフォワード)や繰返し制御で追従性を高める。
性能指標と評価
- 整定時間:目標帯域(例±1カウント、±0.01 mm)へ収束するまでの時間。
- オーバーシュート/アンダーシュート:停止点の超過・不足量。
- 分解能:最小可動単位(スケールピッチ、量子化)。
- 繰返し精度:同一点へ何度も移動した際の散らばり。
- 位置精度:基準に対する到達誤差(系統誤差を含む)。
- 帯域幅:外乱・指令に対する応答周波数。制御安定性とトレードオフ。
誤差要因と補償
誤差は機構、計測、制御、環境に起因する。機構ではバックラッシ、ねじリード誤差、ガイドの真直度・平面度、弾性変形、摩擦・スティックスリップが支配的となる。計測では量子化、位相遅れ、取付偏心、アッベ誤差が生じる。制御ではゲイン不足、位相余裕の不足、飽和、デジタル遅延が影響する。環境では温度膨張、振動、空気流・配線応力がある。対策として、予圧機構、ハーモニックドライブ等の低バックラッシ伝達、デュアルスケールによる原点ドリフト監視、温度補償、誤差マップ補正、デジタルフィルタ、外乱オブザーバなどを組み合わせる。
センサとフィードバック信号
回転軸にはインクリメンタル/アブソリュートエンコーダ、直動軸にはリニアスケール(磁気・光学)、超精密には干渉計を用いる。捕捉は位置だけでなく速度・加速度(微分・観測器)を含め、低ノイズで算出する。ゼロクロス付近の微小速度では量子化に伴うチャタリングやスティックスリップが顕在化するため、デッドゾーン、マイクロステップ、微小振幅のダザ抑制が有効である。
アクチュエータと機構選定
サーボモータ+ボールねじは汎用で高推力・高剛性が得られる。リニアモータはダイレクト駆動によりバックラッシがなく高速・高精度だが発熱管理と磁気吸引に注意する。空圧は簡便・低コストで、ストッパ併用の簡易位置決めに向くが微細制御は不得手である。油圧は高出力・堅牢で重量物の位置決めに適するが、漏れ・温度でのゲイン変動への配慮が必要だ。直動案内は静剛性と摩擦特性、ストローク当たりのたわみで選定し、アッベの原理に従って測定線と運動線を一致させる。
設計とチューニング手順
- 要求仕様定義:ストローク、最大速度・加速度、位置精度・繰返し精度、サイクルタイム、負荷質量、設置条件。
- 機構・駆動系の一次設計:伝達要素の剛性・固有振動数、許容トルク、熱設計。
- センサ構成:スケール分解能、ノイズ、温度係数、原点復帰方式。
- 制御器設計:PIDゲイン、前置補償、フィルタ、制限器(速度・加速度・ジャーク)。
- 軌道最適化:S字、速度制限、コーナ丸め(輪郭誤差最小化)。
- 実機チューニング:ステップ応答、バンプ試験、ボード線図推定、整定時間とオーバーシュートの最適化。
- 誤差マネジメント:リード誤差マップ、温度補償テーブル、摩耗ドリフトの再補正。
産業応用の要点
CNCでは送り軸の相互干渉と機体剛性が加工精度を左右する。電子部品実装では視覚フィードバックで治具位置と部品姿勢を補正し、搬送ではインデックス機構とストッパで高スループットを達成する。半導体露光・検査ではリニアモータ+空気軸受+干渉計の三位一体でナノメートル級の位置決めを実現する。協働ロボットでは安全機能と減速機のコンプライアンスが停止精度に影響する。
安全・信頼性と標準
非常停止時の惰走距離、電源断保持(ブレーキ)、機械式ストッパ、ソフトリミットの二重化を行う。フェールセーフな停止論理、エンコーダ断線検出、異常監視(過速度、偏差過大)を設ける。校正・検証はトレーサブルな標準器を用い、JISやISOの位置決め精度・繰返し精度の評価手順に準拠してロット間のばらつきを管理することが望ましい。
用語の整理
「精度」は真値への近さ、「繰返し精度」は再現性、「分解能」は検出・制御の最小単位を指す。さらに「真直度」「直角度」「面振れ」など幾何偏差は運動誤差へ結合し、位置偏差として現れる。仕様書では許容値の帯域(例±3σ)を明記し、検査方法と測定点を定義する。
実装の勘所
配線の引き回し、防振・熱対策、摩擦面の潤滑、ケーブルベヤの可動抵抗、エア配管の遅れなどの「細部」が位置決めを左右する。制御周期は機械の共振より十分高く設定し、AD/DA遅延とゼロ次ホールドの位相遅れを考慮する。ログ取得と周波数解析を常態化し、劣化予兆を早期に検知する体制が有効である。