不足周波リレー
不足周波リレーは、電力系統や自家用発電設備において、系統周波数が所定値より低下した際に遮断・遮断指令や段階的負荷遮断を行う保護リレーである。機械的負荷のトルク低下や同期機の失歩、タービン・ボイラの限界運転、さらには広域的な周波数崩壊(ブラックアウト)を防ぐことが主目的である。ANSIデバイス番号では81Uに相当し、対になる過周波保護(81O)は過周波リレーとして扱われる。近年は分散電源や蓄電システムの普及により、連系保護の一部としての重要性が一段と高まっている。
定義と保護対象
不足周波リレーは、定格周波数(50/60Hz)からの低下を監視し、設定周波数fset(例:49.5Hz、48.5Hzなど)と時限によって動作する。主な保護対象は、同期発電機の安定運転、蒸気・ガスタービンの許容回転域、インバータ連系設備の脱調回避、重要負荷の優先維持である。負荷遮断(UFLS: Under Frequency Load Shedding)や発電機解列、非常時のシーケンス起動などと連携する。
動作原理:周波数推定の方法
周波数検出はアナログ式からデジタル式へと高度化した。デジタル保護リレーでは、サンプリングと信号処理により高精度かつ外乱耐性の高い周波数推定を行う。代表的手法は以下の通りである。
- ゼロクロス法:電圧波形の零交差点を検出し、周期Tからf=1/Tで推定。高速かつ実装容易だが、ノイズ・高調波・ディップに弱い。
- PLL法:位相同期回路(PLL)で電圧基準にロックし、ループ出力から瞬時周波数を得る。外乱に強く、短時間のトランジェント追従性が高い。
- FFT/DFT法:窓関数付きの周波数解析で基本波成分のピーク周波数を推定。分解能と応答速度のトレードオフが設計点。
- ROCOF検出:df/dt(Rate Of Change Of Frequency)を併用し、急峻な周波数低下を高速検出。アイランディング検出や負荷遮断の先行トリガに有効。
整定値と時限の考え方
不足周波リレーの整定は、設備の機械・電気的限界と系統運用方針に基づく。一般的には多段整定(81U1/81U2/81U3…)とし、浅い低下に長い時限、深い低下に短い時限を与える。例として50Hz系では、U1=49.5Hz/10s、U2=48.5Hz/1s、U3=47.5Hz/0.2sなどが参考となる。時限は「定時限」が主流だが、実運用では機械応答・制御系の遅れ、負荷の慣性、発電機の過負荷余裕を考慮し、不要動作防止のデッドバンド、復帰差(リセットヒステリシス)を設定する。
UFLS(負荷遮断)の設計
広域系統では周波数低下時に段階的な負荷遮断で周波数を引き戻す。選定の基本は、一次過渡後の定常周波数を所定範囲へ復帰させるための遮断量(%負荷)と段数(ステップ)である。遮断対象は優先度で順位付けし、病院・通信・制御中枢などの重要負荷を最後まで残す。ROCOFと併用すれば、急激な出力喪失に対し先行遮断が可能である。配電系の自動化と組み合わせて段階復帰(リコネクト)を設け、過遮断や周波数オーバーシュートを防ぐ。
系統連系・分散電源との関係
分散電源(PV、風力、コージェネ、蓄電池)やUPSでは、不足周波リレーは連系規程や機器規格に従いトリップ域を持つ。特にIEEE 1547や各国の配電連系規程では、低周波時の解列条件が細かく規定される。アイランディング検出では、ROCOFや位相ジャンプ検出と不足周波リレーを組み合わせ、孤立系の危険運転を回避する。関連するリレーとして周波数リレー全般や、潮流の逆転を監視する逆電力リレー、配電系の潮流変化と関わる逆潮流がある。
誤動作防止と信号品質
周波数推定は入力波形品質に依存する。瞬低・高調波・不平衡・フリッカは測定誤差やハンチングを招くため、アンチエイリアスフィルタ、適切な窓関数、外れ値除去(中央値・IQR)を施す。閾値近傍ではドロップアウト回避のための保持時間(dropout time)や再投入遅延を設ける。電圧が極端に低い場合は測定不能となるため、電圧監視(27/59)と論理ANDを取る設計が実務的である。
試験・規格・検証
不足周波リレーの試験は、二次注入(周波数可変の電圧源)で整定点と時限を確認し、温度・電源電圧変動・EMC環境での再現性を観察する。リレー特性はIEC 60255群に整合することが望ましく、現地試験では記録計・PMUの時系列と突合してイベント解析を行う。分散電源では連系規程に基づく型式試験と現地適合試験を区別し、設定ミスやファームウェア差異による不整合を防ぐ。
協調設計:他リレー・保護との整合
同期発電機の逆電力保護、トルク監視、過・不足電圧(59/27)、過・不足周波(81O/81U)、ROCOF、位相不一致(78)などと保護協調を取る。先に動かすべきは機器限界を守る内向き保護か、系統安定を守る外向き保護かを決め、過渡解析(動揺・慣性定数・一次周波数特性)に基づき時限と段数を調整する。配電自動化と連携する場合は、再閉路(79)や負荷移行との論理衝突を避けるため、ブロッキング信号やインターロックを設ける。
実務の整定手順(例)
- 系統条件の整理:定格、短絡容量、慣性、最大想定喪失電源量、負荷特性。
- 設備限界の把握:タービン許容周波数域、機械応答、電動機群の許容低下域。
- 整定方針:U1/U2/U3の周波数・時限、復帰差、デッドバンド、ROCOF連動の要否。
- UFLS設計:段数、遮断率、優先度、再投入手順、通信・制御系冗長化。
- 試験・検証:二次注入、トリップ記録の検証、イベント再現シミュレーション。
- 運用・保全:設定管理(バージョン)、定期点検、系統変更時のリスク再評価。
よくある課題と対策
(1)ノイズで閾値を跨ぐ:ヒステリシスと最小保持時間を設定。(2)ディップで周波数誤判定:電圧レベル監視と測定無効化ロジック。(3)過遮断:UFLS段数の見直しと再投入制御。(4)逆潮流併発時の系統不安定:連系保護との論理見直し。(5)整定散逸:資産管理と試験成績書のデジタル管理を徹底する。