ワイヤレスチャージャ
ワイヤレスチャージャは、電磁誘導あるいは磁界共鳴を用いてデバイスへ電力を供給する充電装置である。スマートフォンやイヤホンなどの民生機器で普及し、車載のセンターコンソールに組み込まれる例も増えている。非接触であるためコネクタ摩耗や抜き差しの手間を減らし、防塵・防滴設計にも有利である一方、位置ずれ時の効率低下や発熱管理など特有の設計課題を伴う。
動作原理(電磁誘導と共振)
送電側コイル(Tx)に高周波電流を流すと時変磁束が発生し、受電側コイル(Rx)に起電力が誘起する。ワイヤレスチャージャはこの電磁誘導を基本原理とし、コイルとコンデンサで形成される共振回路により結合係数が低い状態でも所要電力を供給する。一般的なQi方式では数十〜数百kHz帯を用い、受電側では整流・平滑して直流出力を生成する。
規格と互換性(Qi/Qi2)
業界標準はWPC(Wireless Power Consortium)のQiである。QiはBPP(最大5W)とEPP(最大15W)などのプロファイルを定め、認証により相互運用性を担保する。新しいQi2は位置合わせ用マグネットを前提とする拡張で、アライメントの確実化と効率向上が狙いである。車載や机上など多様な設置環境でも、Qi適合・認証の有無がユーザー体験と安全性を左右する。
主要構成要素
- 送電側:インバータ(全橋/半橋)、Txコイル(リッツ線)、フェライトシート、FOD電流検出、マイコン、温度センサ、金属異物検知回路
- 受電側:Rxコイル、整流・DC/DCコンバータ、通信回路、温度・電圧監視、出力制御(USB-C等)
- シールド・筐体:フェライト/軟磁性材、非金属天面、放熱パッド、樹脂/ガラス天板
制御と通信
Qiでは受電側から送電側へ負荷変調で情報を返し、出力電力をフィードバック制御する。要求電力、温度上昇、位置ずれなどの情報に基づき、送電側は周波数・デューティ・位相などを調整して安定動作を維持する。FOD(Foreign Object Detection)により金属片の過熱を防止し、異常時は即時停止する設計が求められる。
効率と熱設計
効率は結合係数、コイルQ、シールド損失、整流/変換損失に依存する。実機では位置ずれやスマホケースの厚みで結合が悪化し、送電側損失と受電側温度が上昇しやすい。広い有効充電エリアを確保するには多コイルや誘導路設計が有効だが、駆動切替の制御とEMI対策が複雑になる。放熱板、熱界面材、温度スロットリングは必須である。
EMC/EMI対策
高周波大電流を扱うため、放射・伝導ノイズの管理が重要である。フェライトでの磁束整形、スイッチング立上りの最適化、レイアウトでのループ面積最小化、差動/コモンモードフィルタ、シールド筐体、接地設計などを組み合わせる。車載では電源ラインのリップル抑制や周辺受信機(AM/FM、NFC、GNSS)への干渉を考慮する。
車載実装の要点
- 機構:天面素材の誘電正接、厚みばらつき、ユーザーの置きやすさを両立
- 環境:振動・温度範囲・湿度・異物混入に耐える堅牢設計
- 電源:クランキング降下・ロードダンプ対策、12V系の瞬低/瞬停吸収
- インタフェース:車載HMIとの連携、充電状態表示、異常時の通知
安全性と認証
過電流・過温度・過電圧・短絡保護に加え、FODと温度モニタリングを多重化する。Qi認証は相互運用と安全の基盤であり、ファームウェア改変や部材変更時の再評価も重要である。発熱が高くなりがちな高出力モデルでは、皮膚接触温度と長時間運用の評価を厳密に行う。
設計手順(概略)
- 要件定義:出力W数、対応デバイス、占有面積、目標効率、温度上限
- コイル/磁気設計:形状・巻数・フェライト選定、磁束解析、結合の評価
- 電力段:トポロジ選定、FET・ドライバ・保護設計、熱設計
- 制御/通信:Qiプロトコル実装、FOD閾値設定、異常時フェイルセーフ
- EMC/信頼性:EMIシミュレーション、耐環境試験、量産バラツキ対策
利点と制約
- 利点:防水性・耐久性の向上、操作性、コネクタ省略による設計自由度
- 制約:有線比での効率低下、位置合わせ依存、金属異物による発熱リスク、部材コストや制御の複雑化
関連技術メモ
マグネットによる位置決め、コイルのLitz化による表皮効果低減、天面の誘電特性管理、ケース越し充電時の損失評価などが実装品質を左右する。ワイヤレスチャージャは単体最適化だけでなく、機構・電気・ソフトが協調した総合設計が鍵である。