ロックウェル硬さ試験機
ロックウェル硬さ試験機は、押し込み深さを指標として金属・樹脂などの表面硬さを短時間に評価する装置である。10 kgfの予荷重(微小荷重)を与えて基準面を確立し、その上に60/100/150 kgfの主荷重を加えて押し込み、主荷重除荷後に残留押し込み深さの変化量から硬さ値(HR)を算出する。指示は機械式ダイヤルまたはデジタル表示で、代表的なスケールはHRC(ダイヤモンド円すい・150 kgf)、HRB(1/16インチ鋼球・100 kgf)などである。目盛り1目は押し込み深さ0.002 mmに対応し、値が大きいほど硬いことを意味する。
試験原理とスケール体系
原理は「基準深さの確立→主荷重印加→除荷後の残留深さの測定」という差動測定である。ダイヤモンド円すい(頂角120°、先端微小半径)または鋼球/超硬球を圧子とし、材料特性と板厚に応じてスケールを選定する。正規ロックウェルではHRA(60 kgf・ダイヤ)、HRB(100 kgf・球)、HRC(150 kgf・ダイヤ)が広く用いられ、薄板や表面硬化層には主荷重が15/30/45 kgfの表面ロックウェル(HR15N/30N/45N:ダイヤ、HR15T/30T/45T:球)を用いる。非鉄金属や樹脂向けのM、R、Lスケールなども規定されている(記号は半角で表記する)。
- HRC:焼入れ鋼・工具鋼などの高硬度材
- HRB:軟鋼・銅合金などの中低硬度材
- 表面ロックウェル(HR15N/T等):薄板・表面硬化層
構造と主要部
ロックウェル硬さ試験機は、Cフレーム、試料台(アンビル)、昇降スピンドル、圧子ホルダ、荷重付与機構(重錘+てこ/スプリング、または電動クローズドループ)、深さ検出機構(機械式またはリニアセンサ)、表示・演算部から成る。アンビルは平形・Vブロック・円柱用などを交換し、試料形状に適合させる。デジタル機は保持時間(dwell)や自動ゼロ合わせ、統計処理、合否判定、データ出力(USB/RS-232等)を備える。
- 圧子:ダイヤモンド円すい/超硬球(1/16″ほか)
- 荷重:予荷重10 kgf+主荷重60/100/150 kgf(表面ロックウェルは15/30/45 kgf)
- 指示:HRスケール直読、1 HR≒0.002 mmの深さ分解能
試験手順(実務フロー)
- 試料準備:平坦・清浄な面を確保し、酸化皮膜やメッキは除去する。曲面は可能なら治具で支持し、傾きは±0.2°以内を目標とする。
- 設置:アンビル選択(平/V/特殊)、圧子点検(欠け・摩耗の無いこと)、スピンドルで試料を軽く当接。
- 予荷重:10 kgfを与え基準深さを確立(ゼロ設定)。
- 主荷重:規定スケールの主荷重を印加し、所定保持時間を確保。
- 除荷・読取:主荷重を除き、残留深さ差からHR値を直読または自動記録する。
試料厚みは押し込み深さの≥10倍が目安、端部からは≥3圧痕径、圧痕相互間は≥3~5径を離す。仕上げ粗さが大きい場合は低めに出るため、研削仕上げなどで面粗さを整える。湾曲面はVアンビルで支持し、薄板は表面ロックウェルを選ぶ。
結果の解釈と活用
HRCは焼入れ鋼の強度・耐摩耗性の指標として熱処理条件の最適化やロット管理に用いる。HRBは伸びや成形性とのバランス把握に有用である。生産現場では工程内検査に組込み、ばらつき管理(X-bar/R管理図)や出荷判定に直結させる。締結部品の品質保証では、母材・熱処理・表面硬化の健全性を硬さで迅速に検知でき、例えばボルトの座面焼き付きや遷移不良の兆候を早期に掴める。
校正・標準・品質管理
日常点検として基準硬さブロック(HRC/HRB等)を用いた間接検証を行い、規定範囲内で再現性・直線性を確認する。圧子の摩耗・欠損、荷重機構の摩擦、ゼロ点のずれは系統誤差になるため定期交換・潤滑・清掃を実施する。規格はJIS Z 2245、ISO 6508、ASTM E18が代表的で、装置の直接検証(荷重・深さ系)と間接検証(ブロック)を周期管理する。トレーサビリティは国家計量標準に接続されたブロックの校正証明で担保する。
誤差要因と対策
誤差は「試料側」「装置側」「手順側」に大別される。試料側では粗さ・曲率・厚み不足・硬化層の影響、装置側では圧子摩耗・軸受摩擦・フレームたわみ、手順側では保持時間不適合・ゼロ忘れ・支持不良が典型である。球圧子の塑性変形を避けるため、近年は超硬球の使用が推奨される。結果換算(例:HR↔HV/HB)は相関表に依存する近似であり、材質・組織差で誤るため、できるだけ同一方式での評価を心掛ける。
- 面粗さ対策:軽研磨・ラッピングで局所凹凸を低減
- 支持対策:適切なアンビルと均一荷重、傾き補正
- 装置対策:圧子・荷重系の定期交換、ゼロ点確認
- 手順対策:規格に沿った保持時間・温度管理・記録
関連方式の位置づけ
ロックウェルは迅速・非破壊性が高く工程内適合性に優れる。一方で微小領域や脆性材ではビッカース、粗大組織材や鋳物ではブリネル、極表層の弾性反発評価ではショア方式が用いられる。対象材料・板厚・必要精度・評価領域に応じて最適な方式を選ぶのが実務である。
保守・点検の要点
圧子先端の実体顕微鏡点検、アンビル平面度の測定、荷重落下・てこ部の清掃、リニアセンサのゼロドリフト監視、年次の直接/間接検証、基準ブロックの取り扱い(温度順化・指触禁止)を徹底する。測定記録はHR、スケール、圧子種、保持時間、アンビル種、試料条件、環境温度を含めて保存し、トレーサブルな品質保証体系を構築する。