レーダーセンサー|非接触で距離と速度を高精度計測

レーダーセンサー

レーダーセンサーは、送信した電磁波が対象物で反射して戻る信号(エコー)を解析し、距離・相対速度・角度・存在を検出する計測デバイスである。非接触・昼夜・天候影響が小さいという特性をもち、産業監視から自動車、ビル設備、医療見守りまで幅広い分野で用いられる。方式は主に連続波を掃引するFMCW、パルス送受の時間測定、連続波の周波数偏移から速度を得るドップラーの三系統に大別されるが、近年は小型・高分解能のFMCW方式が主流である。

動作原理と基本式

送信周波数を時間に対して線形変化させるFMCWでは、反射で戻った信号と送信信号をミキシングして生じるビート周波数から距離を得る(距離≒c·fb/(2·S)、cは光速、Sは掃引勾配)。相対速度はチャープ列間の位相・周波数変化から導出する。角度はアレイ素子間の位相差を用いる到来角推定で求める。これらを組み合わせることで、レーダーセンサーは距離–速度–角度の3次元データを同時に生成できる。

周波数帯と用途の目安

24GHz帯は短距離・低コスト用途、60GHz帯は屋内占有検知や呼吸見守り、77〜81GHz帯は車載ADAS・産業ロボットでの高分解能検出に適する。波長が短いほどアンテナ開口が同じでも角度分解能を稼ぎやすい一方、伝搬損失は増えるため、目的距離と必要分解能のバランス設計が重要である。

ハードウェア構成

  • RFフロントエンド:VCO/PLL、PA、LNA、ミキサ、I/Q検波、LPF、ADCをMMIC化し、レーダーセンサーの小型・低消費電力化を実現する。
  • アンテナ:パッチやSiP内蔵のAiPを用い、MIMO構成で仮想アレイ開口を拡張し角度分解能を高める。
  • ベースバンド/処理:DSP/MCU/FPGAでFFT、CFAR、クラスタリング、トラッキングを実行する。
  • 筐体・電源:EMC対策、熱設計、外装材の電波透過特性(樹脂・ガラス・レーダードーム)を最適化する。

信号処理の流れ

  1. チャープ生成と送信、エコー受信(I/Q)。
  2. レンジFFTで距離スペクトル化、ドップラーFFTで速度分解。
  3. CFARでしきい検出し、クラッタ除去で床面・壁面反射を抑制。
  4. MIMO位相から角度推定(ビームフォーミング/MUSIC等)。
  5. データアソシエーションとカルマン等で物体トラッキング。

主要指標と設計パラメータ

距離分解能≈c/(2B)で帯域Bが鍵、角度分解能≈λ/(2D)で開口Dと波長λに依存、速度分解能≈λ/(2Tobs)で観測時間が支配する。最大検出距離はEIRP、受信感度、目標RCS、環境雑音で決まる。チャープ数、PRI、ADC分解能、ウィンドウ関数、固定小数点誤差などの実装要件もレーダーセンサーの総合性能に影響する。

環境影響とロバスト性

雨霧粉塵や暗所に強い一方、金属面の多重反射や人体近傍のマルチパスで偽検出が生じうる。アンテナパターン整形、ゴースト抑圧、マルチフレーム統合、ドメイン適応学習により頑健性を高める。温度ドリフトはVCOや基板誘電率に起因するため、温度補償とセルフキャリブレーションを定期的に実施する。

キャリブレーションと製造ばらつき

I/Q振幅・位相不均衡、LOリーク、DCオフセット、チャネル間位相誤差は角度推定精度を劣化させる。既知ターゲットやチャープ基準信号を用いた補正、工場出荷時の基準テーブル、現場での自己校正ルーチンにより、レーダーセンサーの再現性を確保する。

EMC/EMIと安全・規制

漏洩・スプリアス・隣接チャネル干渉を抑えるため、シールド、グランド設計、フィルタ、スルーホール配置が要となる。筐体の開口部はスロットアンテナ化を避ける設計が望ましい。電波法や地域規格に適合する出力・占有帯域・不要発射の管理は必須であり、レーダーセンサーは人体へのエネルギー暴露が小さい運用条件で用いられる。

データ出力とインターフェース

生データ(レンジ–ドップラーマップ)、点群(x–y–z–v)、物体リスト(位置・速度・サイズ・信頼度)などを用途に応じて出力する。通信はSPI、MIPI、CAN、Ethernet等を用い、上位制御とセンサーフュージョンに供する。モデル更新やしきい再学習により、現場条件に適応した検出率・誤報率の最適化が可能である。

典型アプリケーション

  • モビリティ:ADASの前方監視、死角監視、駐車支援におけるレーダーセンサーの障害物検出。
  • スマートビル:在室・占有検知、ドア自動開閉、転倒検知、プライバシー配慮の人物存在推定。
  • 産業:AGV衝突回避、液面・粉体レベル計、ライン監視、速度・流量の間接推定。
  • インフラ:交通流計測、路側監視、踏切安全監視、ドローン高度維持。

実装技術と小型化

SiGe BiCMOSやCMOSによる高周波一体化と、アンテナ内蔵パッケージ(AiP)で小型・薄型化が進む。MIMOチャネル数の増大と位相制御で仮想開口を拡大しつつ、消費電力・発熱を抑える電源分割、チャープ設計、演算量最適化が重要である。さらに、エッジAIでの背景学習により、レーダーセンサーは環境依存の誤検出を低減できる。

設計実務の勘所

  • アンテナ:サイドローブ抑圧、クロスポーラ抑制、レドームの誘電率・厚み最適化。
  • 機構:取付角度・高さ・振動の管理、レンズ/グリルによるビーム歪み評価。
  • 量産:部品公差・温湿度ばらつき試験、OTAでの校正・検証プロファイル整備。
  • ソフト:CFARパラメタ、トラッカのゲーティング、異常検知のフェイルセーフ設計。

用語メモ

  • RCS:目標の電波反射断面積。検出距離の指標。
  • CFAR:適応しきいで誤検出を抑える検出手法。
  • ビート周波数:送受混合で生じる周波数差。距離算出に用いる。
  • MIMO:送受複数化で仮想アレイ開口を拡張する方式。
  • レンジ–ドップラーマップ:距離と速度の2Dパワー分布。