レーザ発振
レーザ発振とは、利得媒質に外部からエネルギーを与えて反転分布をつくり、誘導放出によって増幅された光を共振器内で往復させ、選択・帰還することで単色性と指向性の高い光を自己維持的に出力する現象である。自然放出に対して誘導放出が優勢となるしきい値を超えると、増幅利得と損失が釣り合う定常状態に到達し、安定した出力が得られる。発振周波数は共振器長と媒質の分散に依存し、線幅は主として位相雑音とキャビティ損失で決まる。加工、計測、通信、医療など多岐にわたる分野で中核技術となっている。
基本原理(誘導放出と反転分布)
誘導放出は入射光が同位相・同周波数の光子を放出させる現象である。外部励起により上準位の占有数が下準位を上回る反転分布を形成すると、媒質利得が正となり光は指数的に増幅される。発振条件は総利得=総損失で表され、概略的に「小信号利得×共振器一周=ミラー損失+内部損失」となる。発振後は利得がクランプされ、出力はポンピング強度に比例して増加する。
基本構成要素
- 利得媒質:固体結晶、ガス、半導体、ファイバなど。
- 励起源:光ポンピング、電流注入、放電など。
- 帰還系:高反射ミラーで構成される共振器(Fabry-Perot、リング等)。
自然放出と利得クランプ
自然放出は必然的に存在し、発振開始前はスペクトル幅を広げる雑音源である。発振後は利得飽和によって出力が安定化し、利得クランプによりスペクトル線幅が縮小する。
しきい値と出力特性
しきい値励起レベルはミラー反射率、内部損失、利得帯域に依存する。しきい値直上ではスロープ効率に従い出力が増大し、発振線幅はSchawlow-Townes式に類する関係でポンピング増強とともに狭まる。ビーム品質はM2で評価し、TEM00モードに近いほど集光性と干渉性が高い。
線幅とコヒーレンス長
線幅Δνが小さいほどコヒーレンス長Lc≈c/πΔνは長くなる。分散や機械振動、電流ノイズは位相雑音を増やし線幅を広げるため、温度・機械・電気的な安定化が必要である。
モードと共振器設計
縦モード間隔(FSR)はc/2nLで与えられ、キャビティ長Lと有効屈折率nにより決まる。横モードは開口とレンズ効果で選択される。安定共振器条件はミラー曲率と間隔の幾何学で定まり、損失最小の設計が発振しきい値の低減に有効である。波長選択には回折格子、エタロン、VBGなどを利用する。
モード同期とQスイッチ
モード同期(mode-lock)は多数の縦モードの位相を同期させ、フェムト秒級パルスを得る手法である。Qスイッチ(Q-switch)は共振器Q値を時間的に切り替え、蓄積エネルギーを短時間で放出して高ピーク出力を得る。
媒質の種類と特徴
- 固体レーザ:Nd:YAGやYb:YAGは高ビーム品質と高効率を示す。
- ガスレーザ:He-Neは安定な周波数基準、CO2は高出力加工に適する。
- 半導体レーザ:電流注入でコンパクト、高速変調が容易で光通信に不可欠である。
- ファイバレーザ:長い相互作用長と熱管理のしやすさから高効率・高信頼である。
モノクロメーターとの連携
スペクトル評価にはモノクロメーターと検出器を用い、縦モード構造や寄生発振の有無を確認する。必要に応じて外部共振器やエタロンで波長制御を行う。
周波数・出力安定化
温度ドリフトは波長と出力を変動させるため、サーミスタとTECで媒質・キャビティ温度を制御する。電流駆動のリップル低減、機械的アイソレーション、空調・湿度管理は相対強度雑音(RIN)や位相雑音の抑制に寄与する。屈折率の精密理解は設計の要であり、物質分散は屈折率の波長依存として扱う。
フィードバック制御
出力は一部をフォトダイオードでモニタし、電流や温度に負帰還をかけて長期安定性を確保する。周波数は基準共振器や気体吸収線にロックしてドリフトを抑える。
計測・加工・通信への応用
干渉計やレーザ距離計では高コヒーレンスが測長精度を決める。材料加工ではパルス幅と波長を合わせることで熱影響を最小化する。光通信では分布帰還型(DFB)や外部共振器型(ECL)が用いられ、狭線幅・低RINが長距離伝送の品質を左右する。研究用途では冷却・トラップや精密分光に不可欠である。
設計実務の勘所
鏡面の反射率ペアの選択、内部損失の低減、アライメントの再現性、熱設計、振動対策が発振の信頼性を規定する。評価ではスペクトラムアナライザ、ビームプロファイラ、パワーメータを用いてM2、線幅、RINを定量化する。
安全と規格
高出力・短パルスでは眼・皮膚へのリスクが大きい。遮光筒、インターロック、保護ゴーグル、ビームダンプを適切に設置する。製品安全はJISおよびISO 60825等に準拠し、クラス分類と表示、教育訓練、手順書の整備を行うことが求められる。