レーザー測長
レーザー測長は、レーザー光の波長の安定性と干渉現象を利用して長さや位置を高精度に求める計測技術である。機械加工、半導体製造、三次元測定機の基準軸校正、工作機械の位置決め評価などに広く用いられ、ナノメートル級の分解能を実現する。代表的にはレーザー干渉計を用い、移動体の変位による位相変化をカウントして距離に換算する。環境因子(温度・気圧・湿度・CO2)により空気の屈折率が変わり波長が変動するため、補正を前提とした運用が不可欠である。
原理と方式
干渉計方式では、基準光と測定光の光路差に応じて生じる干渉縞を検出し、位相変化から変位を算出する。ヘテロダイン干渉では周波数の異なる2光を合成し、ドップラ様のビート信号を電気的に位相計測して高い雑音耐性と方向性検出を得る。三角測距は投光と像点の幾何から距離を求める方式で、短距離・面内の形状計測に適する。位相測距は変調光の位相シフト量から距離を推定し、ToF(Time-of-Flight)は往復時間を直接測る。FMCW-LiDARは周波数掃引により距離と速度を同時に推定可能である。レーザー測長のうち、最も高精度を狙う用途では干渉計方式が中核となる。
システム構成
- 光源:単色性・コヒーレンス長の長いHe-Neや安定化半導体レーザーを用いる。周波数安定化により長期安定を確保する。
- 光学系:ビームスプリッタ、偏光子、コーナーキューブ(リトロリフレクタ)、ミラーで光路を構成する。折返し光路で長い測長レンジに対応する。
- 受光・信号処理:フォトディテクタで干渉信号を受光し、クォドラチャ位相検出、PLL、FPGA/DSPで位相カウント・補間を行う。
- 環境センサ:温度・気圧・湿度・CO2センサにより空気屈折率を推定し、リアルタイム補正に反映する。
- 機械要素:高剛性ベース、低膨張材、遮蔽筐体を採用し、振動・気流・熱勾配の影響を抑制する。
不確かさ要因と典型誤差
測定不確かさは、光学(波長・屈折率・位相検出)、幾何(アライメント)、機械(熱膨張・真直度)、環境(温湿度・気圧・気流・振動)に分解して評価する。幾何誤差としてはアッベ誤差(基準軸と測長軸の離れによる回転の影響)、コサイン誤差(光軸と運動方向の不一致)が代表的である。位相ジャンプやドロップアウトに対しては信号品質監視とエッジ欠落補間を備える。レーザー測長では、これらの誤差要因の見える化と予防設計が精度確保の鍵である。
屈折率補正
空気中のレーザー波長は屈折率nによりλ=λ真空/nとなる。nは温度T、気圧P、湿度(水蒸気分圧)、CO2濃度に依存するため、エドレン式やシドー式などの実用式で推定して補正する。長い光路や高精度を要する場合は、干渉計に併設した気象ユニットで時々刻々のnを更新する。真空・低圧環境ではn≈1となり、屈折率起因の不確かさを劇的に低減できる。
熱・機械寄与
被測定物や治具の熱膨張係数、温度勾配、ステージの真直度・ピッチング/ヨーイングが長さ結果に寄与する。低膨張材の採用、熱平衡待ち、等温化、支持点の最適化により抑制する。アッベ原理に基づき、測長線と機能線を一致させるレイアウトが望ましい。
性能指標
分解能は位相補間と電子回路のS/Nで決まり、ナノメートル級が実用的である。線形ityは光学・幾何補正の仕上がりで決まり、全行程での誤差帯(例:±(0.5+0.5×L/1000)μm)などで表現される。再現性は環境安定度と機械安定度の複合で、短期・長期で評価する。トレーサビリティは周波数標準(SI秒)に結び、カウンタ校正と波長換算の妥当性で担保する。
産業応用
- 工作機械の位置決め精度評価・補正(バックラッシ、スケール誤差、リードスクリュー補正テーブルの作成)。
- 半導体露光・検査ステージのナノメートル級位置決め、同期制御の基準。
- 三次元測定機の軸校正、ボリューム補正の基準としての長さ標準。
- レーザートラッカーによる大型構造物の据付・アライメント。
- リニアエンコーダ・ボールねじの校正や研究開発の基準測定。
データ処理と信号技術
クォドラチャ信号の位相はアークタン演算で連続化し、位相アンラップによりマルチターンを追従する。ヘテロダインではI/Q直交検波とデジタルPLLでドリフトに強く、速度・方向も同時に得られる。エンコーディングはインクリメンタル+アブソリュートの冗長化が有効で、グリッチ検出やヒステリシス抑制を実装する。サンプリングジッタはジッタクリーナや位相ノイズの低いリファレンスで抑える。
設置・運用のベストプラクティス
- 環境管理:目標温度20±0.5℃、気流低減、遮光・防塵。光路はカバーで囲い、気流変動を抑える。
- アライメント:光軸と移動方向の一致、コーナーキューブの正対、偏光状態の適正化。
- ウォームアップ:光源・電子回路の温度安定化を待ち、ゼロ点を再取得する。
- 定期点検:環境センサ校正、光学面の清掃、ケーブルのストレインリリーフ確認。
- 安全対策:レーザーのクラス表示、アイセーフティ、ビームの迷光対策。
他方式との関係
レーザー測長は高分解能と長レンジを両立しやすい。一方で、表面粗さや反射率に左右されにくい接触式ゲージ、面形状の高速取得に強い画像測定、透明体や多層膜に適した白色干渉・共焦点など、目的に応じて使い分けるのが合理的である。現場ではレーザー干渉計で軸基準を確立し、個別ワークは三次元測定機やプローブで検証する組合せが一般的である。
規格・評価フレーム
直線軸の位置決め誤差評価では、国際規格に基づく試験法や補正法が整備されている。受入試験や校正では、往復走査、リバーサル、温度安定化、繰返し評価、スケール誤差・バックラッシ・真直度との相関確認を行い、測定不確かさを予算化する。結果は不確かさとともに記録し、プロセス能力や設備能力の管理指標に接続することが望ましい。
設計者・運用者への要点
計測は製品機能の一部であり、計測線と機能線の一致、環境・幾何の管理、屈折率補正の徹底が要点である。データ処理では位相連続性と外乱耐性を最優先し、冗長センサでフェイルセーフを図る。製造現場では、基準の共有、校正周期、記録のトレーサビリティを運用ルールに落とし込み、レーザー測長を品質保証の基盤として活用する。