レーザートラッカー|高精度で大型三次元測定を実現

レーザートラッカー

レーザートラッカーは、大型構造物や生産設備の三次元座標を高精度に測定する可搬型の長尺計測装置である。レーザー光でターゲットまでの距離を測り、同時に水平・鉛直の角度を高分解能エンコーダで読み取ることで、対象点のX・Y・Z座標をリアルタイムに算出する。固定式の三次元測定機に比べ測定範囲が広く、工場や現場で治具・金型・機械据付・航空機胴体の組立検査などに用いられる。干渉計(IFM)や絶対距離計(ADM)を内蔵し、球面反射体(SMR)を追尾して計測する点が特徴である。

原理と構成

レーザートラッカーは、基台に搭載された2軸旋回ヘッドからレーザーを照射し、ターゲットであるSMRで反射された光を受光して距離を求める。距離はIFMによる位相干渉で高精度に、またはADMで絶対値として取得する。ヘッドの方位角(θ)と仰角(φ)は高分解能の角度エンコーダで測り、距離(ρ)と合わせて球座標(ρ,θ,φ)を直交座標へ変換する。ターゲット追尾のためのビームステアリングとモータ駆動、環境センサ(温度・気圧・湿度)による屈折率補正機能、据付安定のための三脚・スタンドなどで構成される。

測定方式と精度

IFMは短時間繰返し精度に優れ、動的追尾で威力を発揮する。一方ADMはビームロスト後でも距離の復帰が容易で、長距離の絶対測長に有利である。多くの機種はIFM/ADMのハイブリッドで運用される。精度は「距離依存項+定数項」で表されることが多く、代表的には数µm+(0.5~1)µm/m程度が目安である。受入れ・性能表示にはISO 10360系列(例: ISO 10360-10)やASME B89.4.19といった規格が用いられ、MPE(最大許容誤差)で仕様が示される。

セットアップと運用

レーザートラッカーの設置は、据付基台の安定性確保、水平出し、機器のウォームアップが要点である。測定中は空気の屈折率変動を補正するため、温度・湿度・気圧を監視し、必要に応じて屈折率モデルを適用する。広い現場では複数の据付位置(ステーション)から観測し、ターゲットの共通点でネットワークを束ねる「ステッチング」や「バンドル調整」を行う。反射率の高い面や熱気流・粉塵はビーム安定を損なうため、遮蔽や作業順序の工夫が有効である。

校正・トレーサビリティ

性能の維持には、国家計量標準へトレーサブルな校正が求められる。実務では、球中心間距離の既知アーティファクト(ボールバー、アーティファクトフレーム)や長さ標準、リファレンスシェル(球巣)を用いて日常確認を行う。年次の校正では距離スケール、角度、幾何学的軸合わせ、ビームオフセットなどを点検し、不確かさ要因を評価する。計測プロセス全体の不確かさは、機器仕様だけでなくターゲット取扱い、環境、合わせ込み手順を含めて合成評価するのが実務的である。

アプリケーション

レーザートラッカーは大型部品の形状検査・据付・治具調整に適する。以下は代表例である。

  • 航空機胴体・主翼の組立精度管理と穴位置検査
  • 自動車ボディ・BIWの治具キャリブレーション
  • 工作機械ベッドやガントリの据付・直角度調整
  • 大型金型・プレス金型の面形状・輪郭検査
  • 発電設備・タービン・配管系の据付位置決め
  • 建機・造船での冶具位置出しとアライメント
  • 研究施設(加速器等)の基準マーカー測設

データ処理と合わせ込み

取得座標はCADモデルへ重ね合わせて評価する。代表的な手法はRPS(基準点・基準面・基準線)拘束や3-2-1拘束、ベストフィット(最小二乗合わせ)である。姿勢・位置の6自由度(6DoF)を同定し、GD&T(幾何公差)に基づく偏差解析やプロファイル誤差の算出を行う。オンラインでのガイダンス表示やヒートマップ化により、現場の調整作業を即時に支援できる。連続追尾により動的な変位や熱膨張の監視も可能である。

誤差要因と対策

主な誤差源と実務対策は下記のとおりである。

  • 屈折率変動: 温湿度・気圧の計測と屈折率補正、気流源の回避
  • 距離スケール誤差: 年次校正、日常の既知距離チェック
  • 角度系誤差: エンコーダ点検、温度安定、据付剛性の確保
  • ターゲット取扱い: SMRの清掃・芯ずれ管理、着座の再現性確保
  • コサイン誤差・入射幾何: 計測線の設計、アプローチ角の最適化
  • ビームロスト: ADM併用、追尾速度の調整、遮蔽板の活用
  • 座標合わせ: 冗長な基準点配置、ネットワークのバンドル調整

安全と保守

レーザートラッカーはクラス2~3Rの可視レーザーを用いる機種が多く、反射・拡散反射への視認に注意する。安全眼鏡の適切な使用、周囲への警告表示、鏡面部材の扱いに配慮することが望ましい。保守面では光学系の清掃、駆動部の点検、ファームウェア更新、バッテリー・電源の維持管理が基本である。搬送時の振動対策や温湿度管理も長期安定性に効く。

代表的な周辺機器

SMRは1.5~0.5インチなど複数径があり、小径ほど取り回しが良いが球心の再現性には注意が要る。プローブ型アタッチメント(T-probe)は接触測定を拡張し、スキャナヘッドは非接触で点群取得を可能にする。反射率の低い対象や複雑形状ではアタッチメントの使い分けが測定効率を左右する。リファレンス球巣、磁力ベース、延長ロッドなどの治具群は現場適用の幅を広げる。

規格・用語の要点

MPEは仕様上の最大許容誤差、U95は95%包含確率の拡張不確かさを指す。IFMは干渉計測長、ADMは絶対距離計を意味し、双方の特性を理解して運用を切り替えるのが実務的である。受入れ・再確認にはISO 10360-10などの試験に準拠した手順を用い、測定プロセスのトレーサビリティを文書化することが品質保証上重要である。