レリーズシリンダー|油圧でクラッチを確実に切る装置

レリーズシリンダー

レリーズシリンダーは、油圧式クラッチ系においてマスタシリンダーの圧力を機械的な押し力に変換し、レリーズフォークやレリーズベアリングを介してクラッチを切断する装置である。運転者の踏力を油圧に変換するマスタ側に対し、レリーズシリンダーはクラッチ側で受圧し直線運動を生成する役割を担う。外付け型と、トランスミッション入力軸同心上に配置される同心型(CSC: concentric slave cylinder)が主流であり、パッケージング・熱環境・整備性の要件に応じて使い分けられる。

機能と役割

レリーズシリンダーの最終目的は、クラッチダイヤフラムスプリングの反力に抗して十分なストロークと押し力を与え、確実にクラッチを切断することである。油圧の利点により、配管レイアウトの自由度、自己調整性、踏力低減、振動の減衰が得られる。結果としてペダルフィールの改善、シフトの確実性、発進時のコントロール性が向上する。

作動原理(油圧伝達)

  • 運転者がペダルを踏むと、マスタシリンダーでブレーキフルード(一般にDOT3/DOT4)が加圧される。
  • 加圧液はパイプ/ホースを通りレリーズシリンダーへ到達し、ピストン受圧面に作用する。
  • パスカルの原理により圧力は等方に伝達され、ピストンが前進してロッドまたはベアリングを押す。
  • レバー比と受圧面積に応じて押し力が増幅され、クラッチが切断される。

構造(本体・ピストン・シール)

レリーズシリンダーは、シリンダーボディ、ピストン、カップシール/リップシール、ダストブーツ、リターンスプリング、ブリーダープラグ、フレアナットやクイックカプラ等の接続部で構成される。受圧面積とストロークは、ペダル荷重、クラッチスプリング特性、必要切断量から逆算して決定される。ダストや水分の侵入を防ぐブーツは耐熱・耐オゾン性が要求される。

シール材と作動液

シール材は一般にEPDMが用いられ、DOT3/DOT4のグリコール系フルードと適合する。一方で鉱物油やシリコーン系を誤用すると膨潤・軟化を招き漏れの原因となる。腐食抑制のため水分混入の管理と、規定期間でのフルード交換が推奨される。

種類(外付け型と同心型)

外付け型レリーズシリンダーは、ミッションベルハウジング外側に取り付け、ロッドでレリーズフォークを押す。整備性に優れ、漏れ点検や単品交換が容易である。同心型(CSC)は入力軸を取り囲む形でレリーズベアリング一体構造を採り、作動ロスが少なく同軸で押すため偏心が少ない。省スペースで軽量化に寄与するが、交換時はトランスミッション脱着を要し整備工数が増える。

メリット・デメリットの要点

  • 外付け型:整備性○、コスト○、作動ロス△(リンク類のガタ影響)
  • 同心型:応答性○、同軸押し○、パッケージ○、整備性△(脱着工数増)

設計パラメータと材料

設計では、ボア径、ストローク、ペダル側との容積比、配管剛性、作動温度域、許容圧力、NVHが主要因である。ボディ材料はアルミダイカストや鋳鉄が一般的で、軽量化・放熱・耐食性のバランスで選定される。ピストンはアルミまたは高機能樹脂、ガイド部は低摩擦材とし、境界潤滑下でもシール摺動が安定する表面仕上げが必要となる。配管はスチールパイプとラバーホースまたはPTFEライニングホースの組合せが主流である。

故障モードと症状

  • 内漏れ/外漏れ:シール摩耗や傷により圧が保持できず、ペダルが「抜ける」、クラッチ切れ不良。
  • エア噛み:ペダルがスポンジー、発進時に半クラ領域が曖昧、ギア鳴き。
  • 腐食・固着:長期未交換や水分混入でボア腐食、摺動抵抗増大による戻り不良。
  • 異音:ブーツ破れによる塵侵入や、同心型でのベアリング劣化がノイズ源となる。
  • 誤フルード使用:EPDM膨潤で急速に漏れ、レリーズシリンダー機能喪失。

診断の基本

フルード量・漏れ痕・ブーツ状態を目視確認し、ブリーダからの排出でエア混入を判定する。マスタ側との切り分けは配管クランプや圧力保持テストが有効である。外付け型は作動ロッドのストロークとフォーク角度を測定し、同心型は脱着前に他要因(クラッチディスクの歪み等)を除外しておく。

整備・交換・エア抜き

交換時は車種指定のトルクで配管・固定ボルトを締結し、ブリーダプラグからエア抜きを行う。二人法、チェックバルブ併用法、プレッシャーブリーダ法など手順は複数あるが、いずれもリザーバの液量維持と微細気泡の排出が鍵である。塗装面にブレーキフルードが付着すると傷むため速やかに水洗する。同心型ではクラッチ一式と同時交換を計画し、再作業リスクを下げるのが定石である。

車両設計への影響(NVH・人間工学)

レリーズシリンダーの容積弾性、配管のコンプライアンス、ダンパ配管の有無はペダルヒステリシスに影響する。作動系のガタや摩擦を抑えることで、発進時の微妙な半クラ制御が容易になる。熱環境下では排気系からの放射熱を遮るヒートシールド、ホース取り回し、ベルハウジング内の温度分布を考慮し、ベーパロックとシール寿命低下を防ぐ設計が望ましい。

品質・信頼性と製造

シール溝寸法のばらつき管理、ボア内面粗さ、異物混入管理は漏れ不具合の主要因を左右する。出荷前の耐圧・エンドオブライン(EOL)機能試験で流量/保持圧/ストロークを検査し、温度サイクル・塩害・泥水曝露の環境試験で耐久性を確認する。サービス部品では再使用禁止のガスケットやO-ringの同梱、明確なエア抜き手順の提供が重要である。

関連部品とのインタフェース

レリーズシリンダーはマスタシリンダー、レリーズフォーク、レリーズベアリング、クラッチカバー/ディスク、配管・ホースと密接に関係する。容積比のミスマッチはペダルストローク過大や切断不足を招くため、系全体での最適化が必要である。ペダルレシオやストッパ設定、ストロークエンドでの当たり防止も合わせて評価する。