レジスタファイル
レジスタファイルとは、CPUやマイクロコントローラなどのプロセッサ内部に設けられた小容量・高速アクセス可能な記憶領域の集合体であり、一般に演算や制御の際に使用されるレジスタ(アーキテクチャレジスタ)を格納するためのハードウェア構造である。演算装置が命令を実行する際、メインメモリにアクセスするよりも桁違いに速いスピードで読み書きできるため、プロセッサの高速化と効率的なパイプライン動作を実現するうえで不可欠な要素となっている。多くの場合、固定数のレジスタを一括管理できるように設計され、レジスタ同士の読み出し・書き込みを同時並行で行う複数ポートを備えるなど、さまざまな最適化が施される。
役割と特徴
- 高速アクセス: パイプライン段階でのフェッチや書き込みにおいて、メモリとは比べものにならない短い遅延でデータを取り出す。
- 並列ポート: 演算器(ALUやFPUなど)が同時に複数のオペランドを読み出し、書き戻しを行うために、複数の読みポート・書きポートを備える場合が多い。
- 定数バッファ: 即値やフラグなど、ごく短い制御用データも内部レジスタと共に保持するアーキテクチャもある。
構造と設計
レジスタファイルの典型的な実装では、SRAMに似た形態を取り、アドレスとして「どのレジスタを読み書きするか」を指定し、複数の読み出しポートと書き込みポートを持つ。これにより、1サイクル内で複数のオペランドを同時にALUへ入力でき、書き戻しも同時並行で行われる。具体的には、各アーキテクチャで定義されるレジスタ数(たとえば、x86-64なら16本、RISC-Vは32本など)に合わせて大きさが決まり、さらに各レジスタのビット幅(32ビット、64ビットなど)によって、ファイル全体の容量が決まる。
読み書きポート
現代のスーパースカラやパイプライン型CPUでは、1命令あたり複数のレジスタを読み書きするケースがある。例えば、2つのオペランドを読み込み、結果を1本のレジスタに書き込むなど。これを円滑に行うため、レジスタファイルは2本以上の読み出しポートと1本以上の書き込みポートを持つことが多い。命令スケジューラとの協調により、同一レジスタへ複数の命令が同時アクセスする際の衝突を回避する仕組みが組み込まれている。
レジスタリネーミングとの関係
アウトオブオーダー実行や投機実行を行う高性能プロセッサでは、論理レジスタと物理レジスタを分離し、レジスタファイルを物理レジスタとして拡張管理する「レジスタリネーミング」が活用される。これは同じ論理レジスタが複数命令で一時的に競合しないよう実際の物理的レジスタを切り替え、データハザードを解消してパイプラインを停滞させないための技術である。この際、レジスタファイルは物理レジスタの集合として運用され、リネーミングテーブルで論理レジスタとの対応を動的に更新する。これにより、より多くの命令を並列に実行できる反面、設計の複雑さが増す。
消費電力と設計上の課題
- 多ポート化コスト: 多くの読み出し・書き込みポートを用意すると、回路規模と消費電力が増大し、配線やレイテンシの最適化が大きな課題となる。
- 周波数向上への影響: 高クロック化を図るほど、レジスタファイルへのアクセス時間も厳しくなるため、パイプライン段数や配置を慎重に設計しなければならない。
- リネームバッファのサイズ: アウトオブオーダー実行エンジンで扱う物理レジスタ数を増やすと性能は上がるが、ハードウェアリソースも著しく増加する。
応用・周辺要素
レジスタファイルに類する高帯域なメモリ構造は、GPUやDSPなどの専用アクセラレータにも存在し、スレッドやストリームごとに割り当てられる「レジスタブロック」として設計される場合がある。また、AI推論や並列演算で重要となるベクトルレジスタ(AVX, SVEなど)のために広幅のレジスタファイルを搭載し、同時に複数のSIMD要素を保持できる仕組みを提供するプロセッサも増えている。これらを総合的に最適化することで、高演算密度を効率よく実現できる。
今後の動向
マルチコアやGPGPUなど、高度な並列化と高クロックを求めるアーキテクチャでは、レジスタファイルの設計がますます重要となっている。特に省電力化や多ポート化の制約を解決するため、新たなSRAM/DRAMハイブリッド技術や3D集積技術が研究されている。またレジスタリネーミングを含むアウトオブオーダー制御をどの程度深化させるか、その設計方針によってレジスタファイルの複雑度と性能のトレードオフが変わる可能性がある。さらにAI向けの専用回路では、汎用CPUに比べより大容量・広幅のレジスタやオンチップバッファが求められるケースも増えており、応用領域の多様化に対応した柔軟な設計が今後の課題となる。