レギュレータ
レギュレータとは、電源回路において出力電圧や電流を一定に保つための部品や装置の総称である。半導体の電源ラインは、ACアダプタやバッテリなどさまざまな形態から供給されるが、電子回路の安定動作を実現するには、必要な電圧を正確に維持する制御が欠かせない。ここで用いられるのがレギュレータであり、過電圧や負荷変動を抑え、回路素子の誤作動や損傷を防止する働きをする。レギュレータはリニア方式からスイッチング方式まで多彩な種類が存在し、目的や効率、発熱量の観点で使い分けられている。
リニアレギュレータ
リニア方式のレギュレータは、入力電圧と出力電圧の差をトランジスタ(パス素子)で連続的に制御しながら、一定電圧を作り出す方式である。構造がシンプルなためリップルノイズが少なく、部品点数も比較的少ないが、入力電圧と出力電圧との差が大きいほどトランジスタに損失が生じ、発熱が増大する。特に高電圧から低電圧への大きな降圧では、変換効率が悪化しやすい。一方、小型機器やオーディオ回路などノイズ対策を重視する分野では、リニアレギュレータが依然として多用されている。
スイッチングレギュレータ
スイッチング方式のレギュレータは、入力電源を高速でオン・オフし、そのパルス波形をインダクタやコンデンサで整流・平滑して安定化した電圧を得る。この方式は高効率が最大の特徴であり、リニア方式と比べて発熱が少なく、大きな降圧・昇圧に対応しやすい。一方、高速スイッチングの過程でスイッチングノイズが発生しやすいことから、ノイズフィルタや基板レイアウトに配慮する必要がある。また制御回路が複雑で部品点数も増えるため、設計と実装には一定のスキルが求められる。
LDOレギュレータ
LDO(Low Drop-Out)とは、入力電圧と出力電圧の差を極めて小さくできるリニア方式のレギュレータである。通常のリニアレギュレータは数Vの電圧差が必要になる場合があるが、LDOでは数百mV程度の差で動作可能な製品も多い。これによりバッテリ駆動機器などでバッテリ電圧が下がっても、安定して出力を確保しやすい。効率的な降圧と小型化を実現しやすいものの、リニア方式である以上、入力と出力の電圧差が熱損失を生む点は変わらないため、熱設計には注意が必要である。
応用分野
レギュレータは家電、車載機器、通信機器、産業用ロボットなど、あらゆる電子回路で使用される。たとえばマイコンやセンサーは特定の電源電圧でのみ動作し、わずかな電圧変動でも誤動作する恐れがあるため、高精度の電圧制御が重要となる。車載ではエンジンが始動する際に電圧が大きく変動するが、レギュレータを通すことでECU(Electronic Control Unit)や各種電子部品を保護し、安定動作を確保している。また携帯電話やノートPCでは電池残量に応じた昇圧・降圧が行われ、効率よく動作時間を延ばす工夫が施される。
設計時の注意点
レギュレータ回路を選定・実装する際には、入力電圧範囲や負荷電流の最大値、発熱許容度、リップルノイズ特性などを総合的に検討することが大切である。リニア方式かスイッチング方式か、あるいはLDOかを決める際には、効率だけでなく設計のしやすさや基板スペース、コストなども評価する。また基板レイアウトの段階では、パスコン(バイパスコンデンサ)の配置やパターン幅の確保、放熱パッドの設計などを注意深く行い、動作安定性を確保する。特にスイッチングレギュレータでは高速スイッチングに伴うノイズが周辺回路に悪影響を与えないよう、グランド配線の引き回しやシールドの施策が重要となる。
その他の派生技術
- 充電制御IC:バッテリマネジメント機能を内蔵し、過充電・過放電を防ぐ
- マルチチャネルレギュレータ:1チップで複数の電源ラインを独立生成
- デジタル制御レギュレータ:マイコンで出力制御や異常検出を行う