ルテチウム(Lu)
ルテチウム(Lu)は原子番号71の希土類元素であり、ランタノイドの終端に位置する金属である。電子配置は[Xe]4f14 5d1 6s2で4f軌道が閉殻となる点が特徴で、イオン半径が最小級であることから配位化学・結晶化学に独自性をもたらす。銀白色で硬く、ランタノイド中でも高い融点と密度を示す。主な酸化数は+3で、酸化物Lu2O3(酸化ルテチウム)やハロゲン化物LuCl3・LuF3を与える。実用面では、LSO/LYSOシンチレータとしての放射線検出、^177Luを用いる核医学治療、Lu-Hf年代測定などで注目される。希少で分離が難しく、材料・化学・医療の各分野で少量高付加価値用途が中心である。
基礎データ
金属ルテチウムは常温で六方最密充填(hcp)構造をとり、加熱で体心立方(bcc)へ転移する。標準原子量は約174.967、密度は約9.84 g/cm3、融点は約1663 ℃、沸点は約3402 ℃である。Pauling電気陰性度は約1.27、常磁性ではなく4f14のため実質的に反磁性に近い挙動を示す。空気中では表面が徐々に酸化して不動態皮膜を形成し、希酸に可溶で水素を発生する。粉末や切削屑は発火性を帯びるため、湿度・酸素管理が重要となる。
- 元素記号:Lu/原子番号:71/族:ランタノイド
- 電子配置: [Xe] 4f14 5d1 6s2(4f閉殻)
- 主酸化数:+3(+2は固体化学でまれ)
- 代表化合物:Lu2O3, LuF3, LuCl3, LuAlO3, Lu3Al5O12(LuAG)
- 結晶:hcp(室温)→bcc(高温)
電子構造と化学的性質
4f軌道が満杯であるため結晶場・配位子場の影響は小さく、化学的には主としてLu3+の硬いルイス酸として振る舞う。配位子はF−、O供与体(カルボキシラート、ホスホネート、クラウンエーテルなど)と強固に錯形成する。水溶液では加水分解により水酸化物・酸化水酸化物を生じ、強熱で安定なLu2O3へ移行する。ランタノイド収縮の極致にあるため、同族元素中で最も小さなM3+半径と最強級の水和・配位親和性を示し、イオン交換・溶媒抽出による分離挙動も他元素と微妙に異なる。
産出と分離
天然に単独鉱物としてはほぼ産出せず、キセノタイム(YPO4)やモナズ石(軽希土リン酸塩)に痕跡量として含まれる。採掘後は硫酸またはアルカリ処理で希土類を溶出し、溶媒抽出(リン酸エステル系、アミド系)や強酸性陽イオン交換樹脂によって分別する。後期ランタノイドほど分離係数が接近して難度が高く、ルテチウムは特に高純度化に時間と工程を要する。1907年、UrbainとAuer von Welsbachが独立に新元素を報告し、のちにパリ(ラテン名Lutetia)にちなむ名称Lutetiumが確立した。
用途
代表用途は医用画像・高エネルギー検出系である。Lu2SiO5:Ce(LSO)や(Lu,Y)2SiO5:Ce(LYSO)は高密度・高原子番号・短減衰の特性を活かし、PET検出器のシンチレータとして広く用いられる。またLu3Al5O12(LuAG)はCe賦活で高輝度白色光源用蛍光体として利用される。放射性同位体^177Luはβ−線と適度なγ線を放出し、標的分子とのキレート錯体として内用療法(標的放射線治療)に用いられる。研究段階では、有機合成における均一系ルイス酸触媒、特殊光学ガラス・セラミックスの屈折率調整や結晶ホスト材料としての応用が検討されている。
材料・物性と加工の要点
金属ルテチウムは硬質で、展延性はあるが酸素・窒素・水素と反応しやすい。溶解・溶接時はアルゴンなどの不活性雰囲気が推奨され、長期保管では油浸や乾燥窒素下が望ましい。酸化物Lu2O3は高融点・化学的安定性に優れ、焼結セラミックスや単結晶の光学部材として用いられる。機械加工では低送り・高剛性・刃先管理を重視し、粉末は発火防止の観点から湿度と静電気の管理を徹底する。
- 大気中徐酸化→表面保護皮膜形成(高温ではスケール肥厚)
- 希酸に可溶(HCl, HNO3等)/フッ化物系で錯形成しやすい
- ハロゲン化物は無水化で吸湿性を持ち、乾燥・密封保管が基本
安全衛生上の補足
金属粉末・酸化物粉じんの吸入は避け、局所排気と個人用保護具を用いる。^177Luなど放射性同位体は専門施設での放射線安全管理の下で取り扱う。化学的毒性は高くないとされるが、希土類一般に準じた取扱基準を遵守する。
同位体と放射線利用
天然組成は^175Luが主(約97%)で安定、^176Luは極めて長寿命(半減期約3.8×10^10年)で地球化学的トレーサとして機能する。Lu-Hf年代測定では、^176Lu→^176Hfへの壊変を用いて岩石・隕石の年代やマントル分化を議論する。医療用途の^177Luは原子炉での(n,γ)反応や^176Yb経由の生成法が用いられ、β−線による治療効果とγ線による体内分布のモニタリングが可能なサーノスティクス核種として重要である。
分析・評価手法
微量定量にはICP-MSが有効で、同重体補正や酸化体ピークの制御が鍵となる。材料評価ではXRDによる相同定、蛍光X線(XRF)による組成分析、熱分析(TG-DTA)による酸化挙動評価が用いられる。シンチレータでは減衰時間、光出力、エネルギー分解能、内在放射(^176Lu由来)バックグラウンドの最適化が設計指標となる。分離工程の設計では、溶媒抽出の分配比・選択係数、pH勾配、相互分離カスケードの段数設計が性能を左右する。
名称・分類の補足
名称は古代パリのラテン名Lutetiaに由来する。周期表上はランタノイドに分類されるが、4f14の閉殻により化学的には三価イオンとして安定で、遷移金属的なd電子化学は限定的である。終端元素として「ランタノイド収縮」の影響を最も強く示し、同族内の結晶化学・配位化学の基準点として扱われることが多い。