ルクス|照明設計の基礎となる単位

ルクス

ルクス(lx)は照度(illuminance)の国際単位であり、ある面に入射する可視光の光束密度を表す。1 lx は面1 m²あたりに光束1 lm(ルーメン)が均等に到来した状態で定義される。照度は視作業の見やすさや安全性、品質管理に直結し、屋内外の照明設計・評価で最も頻用される指標である。カメラ・ディスプレイ・道路照明・工場や研究室の作業面など、対象面にどれだけの光が届くかを数量化する点に特徴がある。

定義と位置づけ

ルクスは照度Eを示し、光束Φ(lm)が面積A(m²)にどれだけ密に入射しているかで決まる。視覚の感度曲線(CIE 視感度V(λ))に基づいて評価された光束を用いる点が物理的放射量と異なる。放射束(W)に対し、光束(lm)は人の明所視に対応する心理物理学的重みづけを掛けた量であるため、同じワットでも波長で感じ方が変わる。

単位と基本式

照度Eの基本式は E=Φ/A(単位:lx=lm/m²)である。点光源からの幾何学的な関係を用いると、光度I(cd)を使って E=I・cosθ/r² と書ける(逆二乗則)。ここでθは面の法線と入射光のなす角、rは光源から面までの距離である。実務では器具の配光データ(IESNA/IES形式など)から計算する。

ルーメン・カンデラ・ニットとの関係

  • ルーメン(lm):光の総量。器具の「明るさ」公称に使う。
  • カンデラ(cd):ある方向の光度。配光曲線の縦軸。
  • ルクス(lx):面の受け取る光の密度。作業面評価の主役。
  • ニット(cd/m²):輝度。面自身の見かけの明るさであり、ルクスと用途が異なる。

補足:foot-candleとの換算

北米の古い慣習単位foot-candle(fc)は 1 fc≒10.764 lx で換算する。グローバル案件では単位表記を併記し混乱を避ける。

人間の感度と683 lm/W

可視域での基準は主波長540 THz(約555 nm)における最大視感度で、1 Wの放射が683 lmに相当する。これは発光ダイオードや白色LEDの効率比較、演色性・相関色温度の議論と併せて、ルクス評価の前提にある。

実務での目安照度(例)

  • 歩行通路:20~50 lx(安全確保)
  • オフィス一般作業:500 lx(紙・画面の両立)
  • CAD・精密作業:750~1500 lx(グレア抑制要)
  • 学校教室:300~500 lx(均斉度に注意)
  • 売場・展示:300~1000 lx(演出により変動)
  • 屋外日中(直射日光):50,000~100,000 lx

補足:均斉度とUGR

平均照度だけでなく、最小/平均の均斉度(例0.7以上)や不快グレア指標UGRも品質に直結する。高照度でも輝度ムラやグレアが強いと視作業性は低下する。

設計計算(ルーメン法)

広い室の平均照度はルーメン法で概算できる。式は E=(Φ_total×CU×LLF)/A。ここでCUは器具・室形状による利用率、LLFは維持率(ランプ減光・汚れ・経時劣化を含む)。目標ルクスから必要光束を逆算し、器具台数・配灯・保守計画を決める。

補足:維持率LLF

LLFは0.6~0.8程度を見込むことが多い。粉塵・油分が多い工場では清掃周期を短くし、初期設計で余裕を確保する。

点灯計算(点配光・逆二乗則)

局所照明や高天井では配光データから各計算点のルクスを求め、等照度図で確認する。入射角のcosθを掛ける「余弦則」や遮蔽・反射の寄与を考慮し、器具のビーム角と設置高さを最適化する。

補足:反射率と間接照明

天井・壁・床の反射率は室内多重反射による照度増加に効く。天井高が高い場合は間接照明で均斉度改善とグレア低減を両立しやすい。

測定と校正

照度計でルクスを測る際は、受光器の分光応答(V(λ)一致度)と余弦特性が規格に適合していることを確認する。代表的誤差は「分光ずれf1′」「余弦誤差f2」で、光源スペクトルが蛍光灯・LED・高演色タイプに変わると影響が大きい。校正はトレーサブルな標準光源で実施し、温度ドリフトや経年変化も管理する。

補足:測定条件

測定点は作業面高さ(例:床上0.85 m)で、複数点の平均と最小を記録する。周囲光の混入や器具のウォームアップ時間に留意する。

規格・推奨値と表記

設計・監査ではルクスの目標値、均斉度、グレア、演色性(Ra)などを併記して仕様化する。図面・報告書では単位を「lx」とし、数値の有効桁・測定不確かさを明示してトレーサビリティを確保する。LED更新では既存照度の実測→必要照度との差分→器具選定→維持率の確認→試運転測定の流れが標準的である。

よくある落とし穴

  • lmをそのまま「明るさ」と誤解:面の明るさはルクスで評価する。
  • 高照度=見やすい、の短絡:グレア・均斉・演色の条件次第。
  • LEDで省エネでも維持率を過小評価:汚れ・減光を見込む。
  • 受光器の余弦補正不足:斜入射で過小評価が起きる。
  • 屋外の昼光を無視:昼光連動制御で省エネと快適性を両立。

補足:昼光と自動制御

昼光センサで実測ルクスに応じた調光を行えば、省エネと視環境の安定が得られる。タイムスケジュールや人感制御と組み合わせると効果が高い。