リーク電流監視|絶縁異常を常時監視し安全性向上

リーク電流監視

リーク電流監視とは、機器や配電系で本来流れない経路(接地、筐体、人体、シールドなど)へ流出する微小電流を連続的に検出・記録し、安全性と法規制適合を維持する活動である。配電盤、インバータ駆動の産業機械、医療機器、EV/充電器、太陽光パワコン、UPS/データセンタ等で必須となる。漏れの主因は、絶縁抵抗の劣化、EMIフィルタのYコンデンサ、ケーブルやモータ巻線の浮遊容量、整流・PWMスイッチングに伴うコモンモード電圧である。規格上はIEC 60990(タッチ電流測定)、IEC 60364(設計・保護)、IEC 60601(医療機器)などが参照され、用途に応じてμA〜mA級のしきい値が定められる。

発生メカニズムと基礎式

交流系の容量性漏れはYコンデンサや浮遊容量を経路として流れ、近似的にIc≈2πfCVで表せる。たとえばV=200V、f=50Hz、Cy=4.7nFならIc≒0.30mAである。一方、絶縁低下に起因する直流・低周波成分はI≈V/Risoで見積もれる。インバータやPFCは高速dv/dt・高周波成分でコモンモードノイズを生じ、ケーブル長・シールド構造・接地インピーダンスによって漏れ経路が形成されやすい。これらの周波数特性を踏まえ、検出器は直流〜数十kHz(用途によりMHz帯まで)の帯域設計を要する。

検出方式

  • 零相電流変換器(ZCT/CT)方式:相線と中性線(多相なら全相)を束ねて貫通させ、和が零でない成分(漏れ)を検出する。ACに強く、飽和や位相誤差への配慮が必要。
  • ホール/フラックスゲート方式:DC〜低周波の残留や偏磁に強く、EV/医療などDC重畳を含む系で有効。
  • 絶縁監視装置(IMD/Isolation Monitor):系に微弱なDC/低周波励起を注入し、見かけのRisoをオンライン推定する。IT配電、EV高圧系、PV等で用いられる。
  • 残留電流監視ユニット(RCM/RCMU):RCD相当の感度で常時モニタし、記録・通報・段階アラームを行う。Type A/B等の直流対応区分を選定する。

医療機器における留意点

IEC 60601では患者漏れ・タッチ電流の上限が厳格で、電源トポロジ、Yコンデンサ総容量、システム接地法(等電位化や絶縁変圧器の活用)を総合最適する。手術室のIPS(絶縁監視付き給電)では、IMDとラインアイソレーションモニタ(LIM)により継続運用しながら絶縁低下を早期検出する設計が一般的である。

設計・実装の要点

EMI対策と漏れ抑制はトレードオフである。Yコンデンサの種類・総容量・対称配置、コモンモードチョーク、スイッチング波形のdv/dt制御、シールド/筐体の接地位置(一点接地/多点接地の選択)、ケーブル配索、クリーぺージ/クリアランスの確保などを系統的に最適化する。検出デバイスは全相とPEの配置関係、一次導体の貫通向き、磁心の飽和余裕、DC成分・高調波への感度、サンプリングとデジタルフィルタ(RMS、移動平均、IIR)を整合させる。

試験・評価の進め方

  1. 測定ネットワークの選定:IEC 60990のMD(測定デバイス)やタッチ電流回路に準拠し、帯域・負荷条件を規定する。
  2. 運転点の網羅:定常、起動・停止、突入、非常停止、異常モード(冷却停止/湿度上昇)を含め、最悪点の探索を行う。
  3. 再現性と相関:実装前ベンチと現場測定の相関を取り、温湿度・供給電圧偏差・周波数差(50/60Hz)を明示する。
  4. 記録:時刻、運転状態、RMS/ピーク、波形(時間領域/スペクトル)をログ化し、統計的に外れ値と傾向を分離する。

しきい値とアラーム戦略

典型的には警報(予兆)と遮断(保護)の二段構成とし、不要動作を避けるため時間依存特性(I–tカーブ)とホールドオフを設定する。起動直後はEMIフィルタの充電や整流非対称で一過性ピークが出やすいので、積分型RMSやスルーレート制限で平滑化する。医療・EV・データセンタ等、用途別の目標感度と応答時間をテーブル化し、RCD/RCMのType選定(AC、A、B)を誤らないことが重要である。

代表的な応用領域

EVの高電圧系ではIMDでRisoを常時監視し、HVIL故障や配線損傷の早期検出に役立つ。PV/PCSはRCMUと絶縁監視を組み合わせ、接地方式に応じて直流漏れと高調波成分を峻別する。産業用VFDはモータ・ケーブルの浮遊容量が大きく、接地設計・フィルタ最適化と一体で管理する。UPS/IT負荷では、多数のEMIフィルタが並列化し漏れが集積しやすいため、盤ごとのセクション監視と選択遮断を設ける。

数値例と簡易見積

  • 容量性成分:V=200V、f=50Hz、Cy_total=4.7nFならIc≒2πfCV≒0.30mA。規格限度と比較し、必要に応じてCyを低減またはCM対策を強化する。
  • 絶縁成分:Riso=1MΩ、V=400VならI≈0.40mA。経時劣化や湿度上昇でRisoは低下しうるため、傾向監視(トレンド)で余寿命を把握する。
  • センサ選定:DC重畳が見込まれる系ではホール/フラックスゲート、AC主体なら高感度CTを優先し、帯域・雑音床・直線性を定量確認する。

データ処理と運用

測定点を階層配置し(主幹→分岐→機器)、上位で総量、下位で局所の特定を行う。時系列の特徴量(RMS、波高率、周波数帯域別エネルギー)を可視化し、異常検知(閾値、移動基準、季節性補正)で予兆保全に結び付ける。ファームウェアは自己診断とセンサ健全性監視(ゼロ点ドリフト、ゲイン漂遊)を備え、記録はメンテナンス・コンプライアンス双方の監査証跡として活用する。