ラグランジュ方程式
ラグランジュ方程式は、一般化座標を用いて機械系・多体系の運動方程式を体系的に導く方法である。運動エネルギーをT、位置エネルギーをVとするとラグランジアンをL=T−Vと定義し、座標変換や拘束条件の処理に強い。ニュートン力学が力のつり合い(F=ma)を基礎に据えるのに対し、ラグランジュ方程式は作用積分の停留原理に基づくため、座標系の選択が柔軟で、極座標・一般化座標・回転座標などでも一貫して記述できる。また、非保存力は「一般化力」で取り込め、等式制約はラグランジュ乗数で扱えるため、工学設計・制御・ロボティクスに広く応用される。
基本式と定義
n自由度系の一般化座標をq_i、時間微分をq̇_iとする。ラグランジアンをL(q_i,q̇_i,t)=T(q_i,q̇_i,t)−V(q_i,t)とすると、ラグランジュ方程式は d/dt(∂L/∂q̇_i)−∂L/∂q_i=Q_i で与えられる。ここでQ_iは非保存力(摩擦や外力)を一般化座標に投影した一般化力である。保存力のみのときQ_i=0となる。
ハミルトンの原理による導出
作用S=∫_{t1}^{t2}L dtの変分δS=0を考える。境界条件δq_i(t1)=δq_i(t2)=0を課すと、積分内の被積分関数に対してオイラー=ラグランジュの方程式が現れ、これがラグランジュ方程式に一致する。ゆえに本手法は最小作用(厳密には停留作用)原理に根拠を持ち、座標系変換に対して構造が保たれる。
一般化座標と一般化力の扱い
一般化座標q_iは幾何拘束を満たす独立変数として選ぶ。空間座標でなくともよく、回転角やリンク機構の関節角などもq_iにできる。非保存力は仮想仕事δW=∑Q_i δq_iで定義され、Q_iがラグランジュ方程式の右辺に現れる。粘性摩擦をRayleigh散逸関数R=(1/2)∑c_i q̇_i^2で表すと、Q_i=−∂R/∂q̇_iとして組み込める。
拘束条件の取り扱い
等式拘束f_k(q,t)=0(正規拘束)はラグランジュ乗数λ_kを導入し、拡張ラグランジアンL′=L+∑λ_k f_kで処理できる。これにより未知のλ_kとともにラグランジュ方程式を解けば、拘束反力も同時に決定できる。座標削減(独立座標のみを選ぶ)との併用で計算効率を高められる。
保存則と対称性
共役運動量p_i=∂L/∂q̇_iと定義する。Lが座標q_jに陽に依存しないときq_jは循環座標となり、対応するp_jが保存量となる。さらにエネルギー関数E=∑q̇_i p_i−Lを定めると、Lが時刻tに陽に依存しなければdE/dt=0で全エネルギーが保存する。これらは対称性と保存則の対応を与える具体例である。
座標変換と不変性
座標変換(q,q̇)→(Q,Q̇)が正則であれば、Lの形は変わってもラグランジュ方程式の構造は不変である。よって解析に適した座標(極座標、球座標、一般化座標)を選べば、拘束の除去や式の簡略化が可能になる。
例題:単振り子
質量m、長さlの剛体棒先端の質点、重力加速度g、角度をθとする。T=(1/2)m l^2 θ̇^2、V=m g l (1−cosθ)よりL=T−V。よって ∂L/∂θ̇=m l^2 θ̇、d/dt(∂L/∂θ̇)=m l^2 θ̈、∂L/∂θ=−m g l sinθ。ラグランジュ方程式から m l^2 θ̈ + m g l sinθ=0 を得る。小振幅で sinθ≈θ と近似すれば θ̈ + (g/l) θ=0 の調和方程式となる。
例題:中心力場の質点
平面極座標(r,φ)で質量mの質点がV(r)に従うとき、T=(1/2)m(ṙ^2+r^2 φ̇^2)、L=T−V(r)。φは循環座標なので p_φ=∂L/∂φ̇=m r^2 φ̇ が保存し、これは角運動量保存に一致する。r方向のラグランジュ方程式より m r̈ − m r φ̇^2 + dV/dr = 0 が得られる。
非保存力・制御入力の導入
粘性抵抗c q̇や外力u(t)などの非保存力は一般化力Qで表す。1自由度なら d/dt(∂L/∂q̇)−∂L/∂q = Q と書け、Q=−c q̇+u(t)などとすれば減衰・加振系を同一枠組みで解析できる。多自由度・ロボットマニピュレータではベクトル形式で Q=τ(関節トルク)として扱う。
数値解法と実務
ラグランジュ方程式から得られる常微分方程式は初期値問題として数値積分する。ルンゲ=クッタ法、変分積分法(構造保存積分)、状態空間表現化などが有効である。幾何拘束が強い場合は乗数法のままDAEとして解くか、拘束を満たす独立座標へ再定式化する。
場の理論への拡張
連続体・電磁気学・量子場ではラグランジアン密度ℒ(φ,∂_μφ,x)を用い、作用S=∫ℒ d^4xの変分から場のラグランジュ方程式(オイラー=ラグランジュ方程式) ∂ℒ/∂φ − ∂_μ(∂ℒ/∂(∂_μφ))=0 を得る。連続体力学の波動方程式やマクスウェル方程式も同一原理で導出できる。
記号と用語の整理
- L=T−V:ラグランジアン
- q_i,q̇_i:一般化座標・速度、p_i=∂L/∂q̇_i:共役運動量
- Q_i:一般化力、R:Rayleigh散逸関数
- E=∑q̇_i p_i−L:エネルギー関数(時間非依存なら保存)
- λ_k:ラグランジュ乗数(拘束反力)
よくある落とし穴
(1)座標選択が冗長だと冗長な方程式や数値不安定を招く。(2)仮想仕事の符号規約を誤るとQ_iの向きが逆転する。(3)非保存力をQ_iに正しく投影しないとエネルギー収支が崩れる。(4)剛拘束は乗数法か座標削減で一貫して扱うこと。
応用の概観
ラグランジュ方程式は、マルチボディダイナミクス、振動解析、機構学、制御工学、航空宇宙、ロボティクス、電磁気学、連続体力学などで標準手法として利用される。設計段階では座標選択と拘束表現、運用段階では同定・制御入力のQ_i化が鍵となる。