マグネト玉軸受|高温高速に強い点火用専用軸受

マグネト玉軸受

マグネト玉軸受は、外輪を厚肉としてハウジングへの圧入保持を前提に設計された小径・薄幅の単列玉軸受である。内輪は片側の肩部が低く、ラジアル荷重に加えて一方向のアキシアル荷重を負担できる点が特徴である。名称は航空機の点火機器であるマグネトに多用されたことに由来し、現在は計測機器や小型発電機、モータの補助支持など低~中回転域での軽荷重用途に適用される。

構造と特徴

マグネト玉軸受は単列深溝系の構造を基礎としつつ、内輪の片側肩高さを低くしているため、玉と保持器(ケージ)の組込みが容易で、軸方向片側の追従性を持つ。外輪は厚肉で外周面の真円度と剛性を確保し、ハウジング側を主保持とするレイアウトに適する。保持器は打抜き鋼板製または樹脂製が一般的で、潤滑はグリース封入型または開放型とする。

荷重特性と接触角

マグネト玉軸受はラジアル荷重に対し低トルクで回転でき、内輪片側肩により一方向のアキシアル荷重も受けられる。接触角は深溝玉軸受よりやや大きく設定される傾向があり、片側アキシアル剛性を確保する一方、逆方向のアキシアル荷重は不得手である。そのため、双方向のアキシアル荷重が想定される場合は背面組合せ(DB)等で対向配置する。

取付とすきま管理

本形式は外輪をハウジングに圧入し、内輪側を軽いはめあいとし、調整ナットや座金で軸方向すきまを微調整する組立が多い。外輪圧入時の寸法変化で内部すきま(C2~C3領域)が変動しやすいため、組立後の実効すきまを基準に音響・発熱を確認する。高精度用途ではシムにより内外輪間の位置を最終補正する。

予圧の与え方

  • 片側アキシアル支持を利用し、ごく小さな予圧をスプリングで与える。
  • 二個を対向配置し、プリロードを最小限に設定して軸方向ガタを除去する。
  • 過大予圧は発熱・摩耗を招くため、目標トルクと温度上昇で必ず妥当性を評価する。

潤滑・シール

マグネト玉軸受は低トルクが要求されるため、低粘度基油のグリースを少量封入する設計が多い。開放型では外部給脂が前提となるが、粉塵や湿気の多い環境では非接触シールの併用が望ましい。高速よりも低騒音・低起動トルクを優先する用途にマッチする。

適用例

  • 航空機用マグネト、携帯型小型発電機のロータ支持
  • 計測機器(トルク計、回転計)やジンバルの端支持
  • 小型モータの補助軸受、エンコーダ付き軸の片持ち支持
  • 精密機構の位置決め端部での片側アキシアル受け

他の玉軸受との比較

  • 深溝玉軸受:双方向アキシアルに一定の耐力を持つが、ハウジング側厚肉・片側アキシアル対応というニーズにはマグネト玉軸受が適する。
  • アンギュラ玉軸受:高アキシアル剛性・高速に優れるが、寸法・コスト・トルクで不利になる場合がある。
  • スラスト玉軸受:アキシアル専用でラジアル負荷を受けられないため、同一箇所で両負荷を処理したい用途には不向きである。

選定手順

  1. 荷重条件(Fr, Fa)と向きを整理し、片側アキシアルで足りるか判断する。
  2. 回転速度と許容トルクを基にグリース仕様とシール構成を仮決定する。
  3. 外輪圧入量から内部すきまの変化を見込み、径方向公差とはめあい等級を決める。
  4. 必要剛性に応じて単体か対向配置(DB/DF)かを選ぶ。
  5. 音響(振動加速度)、温度上昇、起動トルクで試作評価し微修正する。

寿命計算の要点

基本定格寿命は一般の転がり軸受と同様にISO 281のL10式で評価できる。ただしマグネト玉軸受は軽荷重・低トルク優先の設計であるため、負荷係数と潤滑係数の見積りが支配的となる。微小荷重域では滑り・微動摩耗が寿命を支配しやすく、十分な油膜形成(κ値の確保)と微小予圧の付与が有効である。

許容ミスアライメント

許容偏心・傾きは小さい。外輪厚肉でハウジング側が強固に拘束されるため、芯ずれは内輪側に集中しがちである。設計ではシャフト肩・座面の直角度、面粗さ、同芯度を高め、シムやフローティング側支持で組立誤差を逃がす。

取り扱い上の注意

  • 外輪圧入時に荷重を必ず外輪側へ伝達し、転動体を介した圧入を避ける。
  • 逆方向アキシアル荷重を想定する運転は避け、必要なら対向配置とする。
  • 過大なシール接触やグリース過多は起動トルクと発熱を増大させる。
  • 洗浄後の再給脂では残留溶剤を完全に除去し、油膜切れを防ぐ。

標準材料・公差の傾向

マグネト玉軸受のリング・玉には高炭素クロム軸受鋼(例:SUJ2)が用いられることが多く、保持器は鋼板またはエンジニアリング樹脂である。公差等級はP0~P6が一般的で、小径・薄幅ゆえにハウジング側の形状精度が運転精度に直結する。内径は小径レンジが中心で、軽量・省スペースな支持点として設計に取り込まれる。

マグネト玉軸受の呼び番号および寸法

下記は、マグネト玉軸受の呼び番号および寸法の参考値である。詳細は、JISやISOを参考すること。

呼び番号および寸法

呼び番号 d D B T r r1
3 3 16 5 5 0.3 0.2
4 4 16 5 5 0.3 0.2
5 5 16 5 5 0.3 0.2
6 6 21 7 7 0.5 0.3
7 7 22 7 7 0.5 0.3
8 8 24 7 7 0.5 0.3
9 9 28 8 8 0.5 0.3
10 10 28 8 8 0.5 0.3
11 11 32 7 7 0.5 0.3
12 12 32 7 7 0.5 0.3
13 13 30 7 7 0.5 0.3
14 14 35 8 8 0.5 0.3
15 15 35 8 8 0.5 0.3
16 16 38 10 10 0.7 0.4
17 17 44 11 11 1.0 0.6
18 18 40 9 9 0.7 0.4
19 19 40 9 9 0.7 0.4
20 20 47 12 12 1.5 1.0
呼び番号 d D B T r r1

内輪付きおよび内輪なし軸受には、保持器つき、または保持器なし、単列または複列および外輪油溝・油穴付きまたは外輪油溝・油なしがある。
Cr、C₀rは基本定格荷重(kN)の参考値である。