マイクロトンネル掘進機
マイクロトンネル掘進機は、非開削で小口径〜中口径の管路を高精度に敷設するための自動化・遠隔操作型の掘進機である。推進立坑から管を油圧ジャッキで「押し込み」つつ、先頭のカッタヘッドで地山を切削し、スラリー循環で土砂を搬出し、到達立坑へ抜ける。道路・鉄道直下や市街地、地下水位の高い地盤でも路面交通や周辺環境への影響を最小化できる点が特長で、下水道の自流管、水道・ガス・電力の管路更新、河川横断などで広く用いられる。小口径シールドと異なり、機内に作業員が入らない非入坑型であるため、安全性と自動化の度合いが高い。
原理と方式
マイクロトンネル掘進機は、切羽前面をスラリー圧で保持する密閉式が主流である。掘削室で切削された土砂はスラリーと混合され、循環ポンプで地上の分離プラントへ送られ、振動ふるい・ハイドロサイクロン・デカンタで固液分離されたのち、再び調整されたスラリーが機内へ戻る。切羽圧は地山の有効応力や地下水圧に見合うよう連続制御され、過小であれば地盤沈下、過大であれば地盤膨張や逸泥のリスクが生じる。ステアリングは機首のシリンダで行い、レーザーターゲットやジャイロを用いた姿勢計測により、縦断勾配と通りをミリメートル級で保持する。曲線施工は管継手の角度許容量と中間ジャッキの配置により実現する。
構成機器
マイクロトンネル掘進機は、推進機本体・推進設備・スラリープラント・計測制御系で構成される。各機器は掘進性能だけでなく、地質適応性と維持管理性の観点で選定する。
- 推進機本体:カッタヘッド、掘削室、スラリー吸込・吐出管、ステアリングジャック、駆動モータ
- 発進立坑設備:主ジャッキ、反力壁・反力受け、ジャッキ用油圧ユニット、発進架台
- 地上プラント:スラリータンク、撹拌装置、循環ポンプ、振動ふるい、サイクロン、デカンタ
- 計測制御:レーザー、ターゲット、ジャイロ、姿勢・圧力・流量センサ、操作盤、CCTV
- 中間ジャッキ:長距離・曲線用の推力補助装置
適用範囲と管種
マイクロトンネル掘進機の適用径は概ね内径250〜3000 mm程度で、特に下水道の自流管(鉄筋コンクリート推進管)が中心である。圧力管では鋼管やダクタイル鉄管、ライナーとしての FRP 管なども用いられる。玉石混じり砂礫・砂・シルト・粘性土に広く適用可能で、磨耗の厳しい地盤では超硬工具や耐摩耗ライニングを採用する。曲線半径は一般に管径の数十倍以上が目安で、計測とジャッキ配置の最適化により許容範囲を拡げられる。
施工手順
マイクロトンネル掘進機の施工は、事前調査と設備計画が品質・安全の鍵となる。地質縦断、地下水、既設埋設物を把握し、切羽圧設計・ルート・勾配・管種・ジャッキ計画を確定する。
- 立坑構築・反力設備据付:発進・到達立坑を構築し、反力壁と主ジャッキを設置
- 機材搬入・据付:推進機本体、スラリー配管、計測制御、分離プラントを接続
- 発進:シールの閉鎖を確認し、切羽圧とスラリー循環を立ち上げて掘進開始
- 掘進管理:推力、トルク、切羽圧、流量・固相濃度、姿勢を監視し最適化
- 到達・受口処理:機体の引込み、管端処理・止水、坑内片付け
品質管理とモニタリング
下水道の自流管では通り・勾配精度が厳格であり、レーザーとジャイロの二重化やターゲットの温度補正で計測精度を担保する。推進抵抗・管外周摩擦の低減にはベントナイト主体の潤滑材注入が有効で、区間ごとの注入量・圧力・粘性を記録する。地上では地盤沈下計・変位標・建物傾斜計により影響を監視する。掘進ログ(トルク・電流・スラリー密度・粘度・固相濃度)の解析により、工具摩耗や地山変化を早期検知する。
主なリスクと対策
代表的リスクは、逸泥・切羽不安定、管周摩擦増大による推力不足、工具摩耗・破損、障害物噛み込み、配管詰まり、地表変位である。対策として、切羽圧・スラリー密度・粘度の適正化、事前の地盤改良(薬液注入等)、中間ジャッキの段階配置、カッタ仕様(開口率・ビット材質)の見直し、分離能力の増強や洗浄運転、到達側の受口止水強化などを計画する。障害物リスクには GPR 等の探査と試掘、回避ルートの代替案整備が有効である。
他工法との位置づけ
マイクロトンネル掘進機は、開削工法に比して交通・騒音・粉塵影響が小さく、HDD(水平定向ボーリング)に比して勾配管理に優れ、自流管に適する。一方で、立坑費・プラント費が大きく、短距離・浅層では開削が有利な場合もある。人力介入を前提とする小口径シールドに比べ安全性が高く、機械化・自動化に適する。
設計・規格と留意点
設計では、管の長期座屈・リング圧壊・接合部許容角度、推力伝達、周面摩擦の設計、切羽圧の設定、立坑・受口止水、施工時の許容沈下量を体系的に評価する。国内のガイドライン(下水道関係指針、推進工法関連指針、土木学会示方書等)に基づき、材料規格と試験、品質管理項目(通り・勾配、漏水、外観、継手強度)を定めることが求められる。
関連用語と補足
スラリーは水・ベントナイト・高分子・分散剤から構成され、切羽保持と土砂輸送・潤滑の機能を担う。中押し(インタージャッキ)は長距離や曲線で推力を分散し、管・継手の負担を低減する。EPB 型は細粒土で選択される場合があるが、一般にはスラリー密閉式が主流である。
- スラリー:切羽圧維持・土砂輸送・周面潤滑を兼ねる循環流体
- 推進管:鉄筋コンクリート管・鋼管・ダクタイル鉄管など
- 中間ジャッキ:推力中継に用いる油圧ジャッキユニット
- レーザー/ジャイロ:ライン・グレード管理用の計測機器