ポアソン比
ポアソン比とは、材料が外力によって変形するとき、主応力方向の変形に対して垂直方向に生じる変形の比率を示す物性値である。すなわち、引張応力を受けた際に縦方向に伸びると同時に横方向に縮む現象、あるいは圧縮応力を受けた際に縦方向に縮むと同時に横方向に広がる現象を定量化する指標である。フランスの物理学者シメオン・ポアソンにより19世紀に提唱され、この概念は材料力学や構造力学の基礎理論に広く組み込まれている。
定義と数式
ポアソン比は、縦ひずみをε、横ひずみをε’とすると、ν = – ε’/ε で表される。このとき、負号は引張変形において縦方向が伸びると横方向が縮むことを示している。一般的な材料では、この値は0から0.5の範囲に収まる。ν = 0.5に近づくほど体積の変化が小さくなることを意味し、ゴムのような材料がその典型である。
物理的意味
ポアソン比の大きさは、材料がどの程度横方向に変形しやすいかを示す。例えば、鋼材では約0.3、アルミニウムでは約0.33、ゴムでは0.49に近い値を示す。これにより、設計者は材料の変形挙動を予測し、応力解析や構造物の安全性評価に利用できる。
応用分野
- 材料力学における応力解析
- 有限要素法(FEM)での材料モデル定義
- 弾性率との関係を用いた設計
- 地盤工学での土や岩石の変形特性評価
- 機械設計や建築構造の耐久性評価
弾性定数との関係
ポアソン比は、ヤング率Eやせん断弾性係数G、体積弾性率Kと相互に関係している。例えば、G = E / [2(1+ν)]、K = E / [3(1-2ν)] という関係式で結び付けられる。このため、ひとつの弾性定数とポアソン比が分かれば、他の弾性定数を算出できる。
特殊なポアソン比
通常の材料ではポアソン比は正の値を取るが、特殊な構造を持つ「オーキシティック材料」では負の値を示すことがある。これは引張時に縦方向と同時に横方向も伸びる現象であり、軽量かつ高強度な構造材の開発に利用されている。
測定方法
ポアソン比は、引張試験や圧縮試験を通じて、縦ひずみと横ひずみを同時に測定することで求められる。ひずみゲージや光学的測定法が広く利用され、工業分野では精密な計測技術によって信頼性の高い値が得られる。
工学的意義
ポアソン比は単なる数値的特性にとどまらず、構造設計やシミュレーションに不可欠な基礎データである。特に有限要素解析においては、正確なポアソン比を設定しなければ応力分布や変形挙動が正しく再現されない。さらに、異方性材料や複合材料の設計においては方向ごとに異なるポアソン比を考慮する必要がある。
実用材料における値
- 鋼材:約0.3
- アルミニウム:約0.33
- ガラス:約0.2
- ゴム:約0.49
- コンクリート:約0.15〜0.2
関連分野とのつながり
ポアソン比は、構造力学、材料力学、土木工学、機械設計など幅広い工学分野に応用されている。さらに、ナノテクノロジーやバイオマテリアル研究においても重要な役割を果たし、細胞や組織の力学特性を定量化する指標として用いられている。