ボールミル
ボールミルは、内面にライナーを備えた円筒容器を回転させ、鋼球やセラミック球などのメディアを用いて固体を衝撃・摩耗で微粉砕する装置である。鉱業、セラミックス、顔料、セメント、電池材料の前処理や最終粉砕まで幅広く用いられ、混合・分散・表面改質といった副次効果も得られる。処理の中核はエネルギー密度と滞留時間の制御にあり、粒度分布、比表面積、汚染リスク、スループットの最適化が設計と運転の要点となる。ボールミルは構造が単純でスケールが取りやすい反面、エネルギー効率やライナー摩耗、粉じん・騒音などの課題も併せ持つ。
原理
ボールミルでは、回転によりメディアが上昇して落下・滑動し、被粉砕物に衝撃破砕(cataracting)と摩耗・せん断(cascading)を与える。回転数が低いと摩耗主体、高いと衝撃主体となるため、材質・目標粒度に応じて運転点を選ぶ。粒子群の破砕は選択関数と破砕関数で記述され、分級器の併用で循環荷重を与えると微粉分を系外へ抜き、ミル内を粗粒優先に保ってエネルギー利用を高められる。
構造と主要部品
- シェル・トラニオン:円筒胴、給排出側支持部。
- ライナー・リフター:高マンガン鋼、ゴム、アルミナ等で耐摩耗とメディア挙動を調整。
- メディア:鋼球、アルミナ、ジルコニア等。径配合で衝撃と充填密度を最適化。
- 駆動部:ギヤ・ピニオンやインバータ駆動モータ。起動トルクと回転数制御を担う。
- シール・集じん:粉じん漏洩防止、負圧維持、サンプリング機構。
操作条件
代表指標は回転数、充填率、空隙率、スラリー濃度(湿式)、ボール径分布である。臨界回転数は容器内壁にメディアが張り付く上限で、近似的に n_c=42.3/√(D−d) [min^-1](D,dはm)で表される。運転は通常 0.6〜0.8 n_c が目安で、乾式は充填率を高め、湿式はスラリー粘度とpHで分散・衝突頻度を調整する。ボールミルではL/D比やライナー形状もエネルギー分配に影響する。
種類
- 乾式/湿式:乾式は分級併用で閉回路化、湿式は分散・熱管理に優れる。
- 連続式/バッチ式:スループット重視の連続、条件最適化や材料汚染低減のバッチ。
- 一般回転ミル/遊星・振動型:高エネルギー密度を要する合金化・アモルファス化には遊星・振動型が有効。
粉砕メカニズムと粒度制御
粗粒は衝撃で割れ、微粒は摩耗で磨減するため、ボール径は大径と小径の混合が合理的である。製品指標にはP80(80%通過粒径)やBET比表面積が用いられる。閉回路では分級点 d_c を下げるほど微粉が増えるが、過粉砕とエネルギー増を招くため、循環荷重と給鉱粒度を同時に最適化する。ボールミルはポピュレーションバランスモデルで運転点の感度を整理できる。
ライナー・メディア選定
- 汚染管理:白色顔料・電子材料はアルミナやジルコニアを優先、鉄汚染回避。
- 耐摩耗:硬度と靭性のバランス。ゴムは騒音低減に寄与。
- 径配合:トップサイズで粗粒破砕、サブミクロン狙いは小径比率を増やす。
- 充填率:ボール体積/ミル有効容積で定義し、空隙率と流動性を勘案。
- スラリー条件:固形分と分散剤量で粘度・衝突頻度を制御。
スケールアップとエネルギー評価
工業規模では電動機軸入力からミル有効入力を推定し、kWh/tで評価する。Bondのエネルギー指数WiやMorrell式、JKモデルに基づく電力・粒度予測が用いられ、パイロットミル試験で選択関数・破砕関数を同定する。ボールミルでは滞留時間分布(RTD)を把握し、デッドゾーンや短絡を抑えることが重要である。
安全・保守
- 粉じん・騒音:局所排気、密閉、耳栓・防じんマスク。湿式は粉じん抑制に有利。
- ロックアウト:点検時の誤起動防止、トラニオン周りの巻き込まれ対策。
- ライナー交換:トルク管理とボルト伸び点検、ライナー形状の摩耗監視。
- 球補給:装入量を質量計測で維持し、研磨減少を補正。
代表的用途
- 鉱石前処理と最終粉砕:浮選前の解放度向上、二段閉回路。
- セラミックス:原料均質化と粒度微細化、スラリー調製。
- 電池材料:活物質・導電助剤の分散、粒度と表面状態の制御。
- 顔料・ガラス:色材微粉化、フリットの均一化。
- セメント:クリンカ粉砕(チューブ型ボールミル)、添加剤最適化。
臨界回転数と運転点の目安
設計では n_c=42.3/√(D−d) を基準に 0.6〜0.8 n_c 付近を探索する。粗粒破砕を重視する原料段は高め、微粉生成を狙う仕上げ段は低めとし、分級点と循環荷重で仕上がりを調整する。乾式は通気・集じん、湿式は固形分・分散剤でエネルギー効率を引き上げる。なおボールミルの最適点は原料の破砕仕事指数や粒形要求で変動するため、実機データに基づく微調整が肝要である。