ボディダイオード|逆回復・導通損失の要点

ボディダイオード

ボディダイオードとは、MOSFETのドレイン‐ボディ間に内在する寄生PN接合ダイオードであり、主にブリッジ回路や同期整流のフリーホイール経路として電流の逆流を許容する素子である。外付けダイオードを省略できる利点がある一方、順方向電圧、逆回復特性、チャージ蓄積がスイッチング損失やEMIに影響するため、回路設計ではその電気的・熱的ふるまいを定量的に把握する必要がある。

構造と寄生生成の起源

ボディダイオードは、NチャネルMOSFETではPボディとNドレインのPN接合として形成される寄生素子である。レイアウトに依存せず必ず存在し、S/D領域の拡散とボディ接地構造により導通経路が規定される。物理的には拡散層の濃度プロファイル、ジャンクション深さ、エピ層厚みが順方向電圧や逆回復電荷の基礎特性を決める。

電気特性:順方向電圧と動作温度

順方向電圧VFは温度上昇で低下するが、導通損失PF=VF·Iと自己発熱が正のフィードバックを起こしうる。シリコンMOSFETではVF≈0.7–1.2 V程度が一般的だが、チャネル導通(同期整流)と比べると高い。熱抵抗RθJAとパルス幅を考慮し、データシートのI–V曲線(複数温度)から過渡熱インピーダンスと合わせて許容電流を評価する。

逆回復特性とスイッチング損失

ダイオードからMOSFETへ電流が反転する瞬間、蓄積電荷Qrrが除去される過程で逆回復電流irrが流れ、ターンオン損失とdv/dtストレスを増加させる。ピーク逆回復電流、テール時間trr、ソフトネス係数はEMIおよびスイッチの過電圧に直結する。ハードスイッチングではQrrが支配的となるため、ボディダイオードの直接導通を避け、ゲート制御でチャネルを先行導通させる設計が有効である。

Si(シリコン)とSiCの比較的特徴

SiC MOSFETのボディダイオードは高耐圧・低Qrrが特長で、高周波でも損失とリカバリ過渡が小さい。SiCではショットキー的な振る舞いに近く、ソフトな逆回復を示す傾向がある。一方、低電圧域(≲100 V)ではSiのFET+外付けショットキーの方が総合性能・コストで有利な場合もあり、適用電圧とスイッチング周波数で最適解が変わる。

同期整流とチャネル導通の優先

降圧/昇圧コンバータや位相シフトフルブリッジでは、ボディダイオードの順方向導通を最小化するため、ゲートタイミングでチャネルを能動的にオンさせる同期整流を用いる。デッドタイムは短いほどダイオード導通時間が減り、Qrr起因損失も低下するが、逆にハイサイド/ローサイドのクロスコンダクションリスクが増すため、デバイスの遅延ばらつきと温度依存性を見込んで最適化する。

ゼロ電流/ゼロ電圧スイッチングとの関係

ZCSでは反転直前に電流をゼロ交差させ、ボディダイオードの逆回復を抑制できる。ZVSではターンオンを低dv/dt・低di/dt領域で行い、リカバリ損失とEMIを軽減する。LLC共振、トーテムポールPFC(連続導通モード)、位相シフトフルブリッジなどの共振・準共振拓撲は、ダイオードストレスを構造的に低減する代表例である。

主要パラメータと読解法

  • VF(順方向電圧):電流・温度依存。導通損失の一次因子。
  • Qrr/trr:逆回復電荷/時間。ハードスイッチ損失・EMIに直結。
  • IFSM(サージ):突入・短絡時の耐量。熱インパルスと併読。
  • Rθ系:接合‐ケース/ケース‐環境の熱パスの総合評価に必須。
  • ソフトネス係数:逆回復波形のなだらかさ。過電圧抑制に影響。

回路対策と実装ノウハウ

外付けショットキーをボディダイオードと並列に置くとVF低減とQrr回避が可能である。ゲート抵抗やスルーレート制御、スナバ(RC/RCD)、レイアウトのループインダクタンス最小化は過渡過電圧とEMIを抑える。特にドレイン–ソースの高速ループは面積縮小、グランド帰還の多点接続、低ESLコンデンサの至近配置が効果的である。

測定・モデル化

ダブルパルステストはボディダイオードの逆回復特性とスイッチのターンオン損失を評価する標準手法である。SPICEモデルでは、ダイオードのチャージ蓄積、寄生容量Coss、ゲート電荷、配線インダクタンスを含めることで実測に近い過渡応答が得られる。温度係数はパラメトリックスイープで確認する。

信頼性と故障モード

主な劣化要因はサージ反復による接合疲労、熱暴走、過渡過電圧によるアバランシェストレスである。パッケージ内部のボンディングやメタル化の抵抗増加は局所発熱を誘発するため、熱設計マージンとデレーティングを規定する。リフロー後のボイドや実装応力も安全動作領域(SOA)に影響を与える。

設計指針の要点

  1. 同期整流を優先し、ボディダイオードの導通とQrr発生を最小化する。
  2. 必要に応じて外付けショットキーを並列化し、VFとEMIを低減する。
  3. 共振・準共振(LLC、ZVS/ZCS)を活用し、ハードスイッチングを避ける。
  4. ダブルパルステストで損失配分と逆回復を実測し、モデルを同定する。
  5. 熱設計はRθと過渡熱インピーダンスを用いてパルス条件まで検証する。

SiC時代の設計上の留意点

SiCのボディダイオードは低Qrrゆえに高周波・高効率化に寄与するが、ゲートしきい値ばらつきや高dv/dt耐性、ゲートドライブのミラー対策など別軸の課題が生じる。スナバやレイアウト最適化は依然として重要であり、EMI規格と効率目標のバランスで部品点数・コストを最適化することが望ましい。

用語補足

Qrr(逆回復電荷)は反転過程で除去される蓄積電荷量、trrはその時間指標である。ソフトネスは逆回復電流減衰の緩やかさを表し、過電圧抑制に有利に働く。IFSMは非定常サージに対する耐量の目安で、繰り返し定格とは異なるため混同してはならない。

まとめのない実務的要旨

ボディダイオードは「使わないように使う」ことが基本である。すなわち、同期整流と適切なデッドタイム設定によって導通時間を削減し、必要なら外付けショットキーを併用する。さらに、共振化やレイアウト最適化でQrr起因の損失・EMIを抑え、熱設計とサージ耐量の検証で信頼性を担保することが、現代のパワーエレクトロニクスにおける設計作法である。