ホウ素(B)|軽量硬質・高融点の半導体元素

ホウ素(B)

ホウ素は原子番号5の13族元素で、金属と非金属の中間的性質を示す半金属(メタロイド)である。結晶質は黒色で硬く、非晶質は褐色粉末となる。電子不足元素として多中心結合を形成しやすく、ガラスの耐熱化(ホウケイ酸ガラス)、半導体のp形ドーピング、超硬材料(B4Cやc-BN)、中性子吸収材(10B)など産業的利用が広い。粉末は電気的に不良導体であるが、高温での化学的安定性に優れるため、化学装置や工具材料にも応用される。

原子構造と同位体

ホウ素の電子配置は[He]2s^2 2p^1で、価電子は3個である。結合は概ねsp^2混成で平面三角形構造を取りやすい。天然同位体は10B(約20%)と11B(約80%)で、10Bは熱中性子に対する吸収断面積が大きい。この特性により、原子炉制御棒や溶液型の反応度制御(PWRの可溶化ホウ酸)に利用される。また、10Bを用いた中性子捕捉反応はBNCTの基礎原理にもなっている。

物理的性質

ホウ素は結晶多形を持ち、とくにβ-菱面体晶が安定相として知られる。密度は約2.3 g/cm^3、融点は約2076 ℃、沸点は約3927 ℃と高温安定性が高い。モース硬度は9前後で極めて硬く、電気伝導性は低い。非晶質は反応性がやや高く、適切な雰囲気管理が必要となる。

化学的性質と結合

ホウ素は電子不足ゆえにルイス酸として振る舞い、空のp軌道で塩基から電子対を受容する。三中心二電子結合(3c-2e)を含むホウ化水素群(ボラン類)は特異な構造を示す。酸としてのホウ酸(H3BO3)はブレンステッド酸としては弱いが、水酸化物イオン受容のルイス酸として加水分解し[B(OH)4]−を形成する。酸化物B2O3はガラス形成能に優れ、SiO2とともに耐熱ガラスの骨格を与える。

主要化合物

ホウ素の代表的化合物は多様で、無機材料から有機ボロン化合物まで広い。

  • ホウ酸 H3BO3:緩衝・防腐・ガラス原料。水溶性で温度により溶解度が変化。
  • 酸化ホウ素 B2O3:ガラス形成剤。粘性が高く、耐熱・耐薬品性向上に寄与。
  • ホウ砂 Na2B4O7·10H2O:洗浄剤・ガラス・溶接フラックス原料。
  • ホウ化ホウ素 B4C:超硬・耐摩耗材料、中性子吸収材。
  • 立方晶窒化ホウ素 c-BN:ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ工具材料。
  • ホウ化水素 B2H6 など:気相成長・ドーピング源。発火性・毒性に注意。
  • 三フッ化ホウ素 BF3、三塩化ホウ素 BCl3:触媒・半導体プロセス用前駆体。
  • MgB2:約39 Kで超伝導を示す金属間化合物。

産業用途

ホウ素は材料、化学、エネルギー、エレクトロニクスにまたがる広い用途を持つ。

  • ガラス・セラミックス:ホウケイ酸ガラス(耐熱・低熱膨張)、エナメル、シーリング材。
  • 洗浄剤・漂白:ホウ酸塩はアルカリ洗浄剤や酸素系漂白の安定化に寄与。
  • 表面改質:ホウ化処理(ボロナイジング)により鉄鋼表面の耐摩耗性を強化。
  • 超硬部材:B4C・c-BNは研磨・切削・装甲用途に使用。
  • 電池・電解質:LiBF4、LiBOBなどの電解質塩により熱安定性・SEI特性を調整。
  • 複合材:ボロンファイバーは比強度・比剛性に優れる補強材。

半導体・電子材料

ホウ素はSi、SiCのp形ドーパントとして不可欠である。拡散(BBr3など)やイオン注入(BF2+、B+)で導入し、アニールにより活性化させる。シート抵抗、接合深さ、拡散係数の制御がデバイス特性を左右する。気相成長ではB2H6やBCl3/H2系を用い、高純度薄膜やボロン含有ダイヤモンド(p形)の合成も行われる。

原子力・中性子工学

ホウ素の10Bは中性子吸収に優れ、B4C制御棒や中性子遮蔽材として使われる。加圧水型炉ではホウ酸の濃度調整で反応度を微調整する。材料としては熱中性子下での反応生成物(ヘリウムなど)に起因する脆化・膨張を考慮し、母材の選定と配置設計を行う。

資源・製造プロセス

ホウ素資源は主にトルコ、米国(カリフォルニア)、アルゼンチン、チリなどのボロナイト、カーネライト、ウレキサイト等の鉱床に由来する。工業的製造は、鉱石→ホウ酸→B2O3を経て、マグネシウムやアルミニウムによる還元で元素状ボロンを得る方法、もしくはBCl3やBBr3の水素還元・CVDで高純度ボロンを得る方法が用いられる。前駆体や副生塩化物の取り扱いでは腐食・水分管理が重要である。

環境・安全性

ホウ素は植物にとって必須微量元素であるが、過剰は生育障害を引き起こす。産業現場では粉じん吸入の抑制、ホウ化水素やBF3/BCl3の漏えい防止、耐食材料配管の採用、局所排気・モニタリングの実施が基本である。廃液はpH・ホウ酸塩濃度を管理し、適切に処理する。B4Cやc-BN自体は化学的に安定だが、粉体は可燃性粉じんの観点から取り扱いに注意する。

分析と評価

ホウ素含有材料や化成品の品質評価には、ICP-OES/ICP-MSによる元素分析、^11B NMRによるホウ酸種の同定、XRDによる相同定、ラマン・赤外分光による結合状態解析が有効である。粉末粒度はレーザー回折法、硬さはビッカース・ヌープ、熱特性はDSC/TGで評価する。工業製品はJISやISOなどの規格に則った試験法で適合性を確認する。

設計上の留意点

ホウ素系材料を設計適用する際は、(1)熱膨張と弾性率のミスマッチによる残留応力、(2)c-BNとダイヤモンドの適用境界(鉄系はc-BNが有利)、(3)B4Cの脆性と衝撃応答、(4)ガラス配合でのB2O3比率と耐水性のトレードオフ、(5)プロセス前駆体の腐食性・吸湿性対策、(6)半導体ドーピングでの深さ・活性化率管理を考慮することが肝要である。